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《サス経》 TNFDの本当の意味を知っていますか?

 今週17日(※)からの24日までの1週間は、国連総会の開催に合わせてニューヨーク市で「ニューヨーク気候ウィーク」が開催されます。世界中から関係者が集まり、気候危機を中心に様々な問題についての進展の報告とこれからの計画などが発表されます。日本にいるとその熱気はなかなか分かりませんが、専門メディアの報道や現地にいる知人・友人のSNSのポストを見ると、大変に盛り上がっているようです。
※:この記事の初出は2023年9月19日です。

TNFDのVer.1.0がいよいよ発表される

 今年の目玉の1つは、間違いなく生物多様性=自然で、特に注目を集めているのがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のVer.1.0が発表されることです。このメールマガジンがお手元に届く時はもう公表されているはずですので、ぜひ以下のウェブページにアクセスしてみてください。
https://tnfd.global/

※TNFDの最終提言はこちら

 TNFDに関しては、他のイニシアティブ等の場合とは異なり、ドラフト版の段階から日本でも非常に大きな関心を集めています。最終版が発表されてからもしばらくは反応がなかったTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と比べると大違いです。ドラフト版をもとに既に試行を始めている会社も何社かありますが、多くの企業は最終版が発行されるのを待ち、その内容を確かめて行動ということでしょう。そうした企業の方々にとっては、いよいよこれからが本番ですね。今回は特にそうした企業の方に向けて、TNFDの意味や影響をお伝えしたいと思います。

TNFDが企業に求めること

 今後はTNFDに沿って、自社のビジネスと生物多様性の関係、さらには生物多様性の危機的な状況が自社の事業に今後どのような影響を与えうるのか、そのリスクと機会についてしっかりと分析することが求められるようになります。

 生物多様性の場合には、何を開示したらいいのか、そして、そもそもどのように生物多様性を測るのか、自社の影響をどのように測るのか。そうしたことについて、企業の方々は気を揉んでいられると思います。その方法を早く理解して、しっかりと開示を行い、投資格付機関から良い評価を得たいと考えている企業も多いでしょう。

 けれどもTNFDの本当の目的は、企業に単に情報開示を行わせることではありません。これまで生物多様性に関しての情報開示を行う企業はほとんどありませんでしたから、開示するようになることはもちろん大きな前進です。しかし、そもそも多くの企業は、その関係性をしっかりと把握することすらしていなかったはずです。

 ですので、まず重要なことは、TNFDに沿った情報開示を行うために、自社の事業と生物多様性の関係性を分析するようになるということです。分析して初めて、その関係性の深さ、特に自分たちがどれだけ生物多様性に深刻な影響を与えているのかに気づくでしょう。そして生物多様性が傷ついたり失われることにより、自分たちのビジネスもどれだけ影響を受けるかを知り、愕然とするかもしれません。そのリスクに気づくことが非常に重要なことなのです。

TNFDの本当の狙い

 さらにその次のステップとして、そのリスクを勘案して、どのように対策を講じるのか。計画を立て、行動していくことが非常に重要なことです。

 つまりTNFDが狙っているのは、企業に情報開示を行わせることだけではなく、その結果自分たちのリスクに気づき、そのリスクを克服するために、自然に悪影響を与えない、むしろ自分たちのビジネスを守るためにも自然を守り増やす、つまりネイチャーポジティブな方向に行動を促すことなのです。

 生物多様性に関して先行する企業は、すでにそうした行動を始めています。私は今月前半の海外出張でスイスにある世界的な食品メーカーや、ブラジルの様々なセクターの企業の最近の活動を直接うかがってきましたが、いずれもこうしたリスクを見越して、すでに様々な手を打ち始めていました。

 そういう意味では、今回発表される最終版を読んでからどうするか考えようという企業は、スタート時点でかなり遅れをとっていることにはなります。けれども、ほとんどの企業はまだそうした状況ですし、またTNFDは正しい分析の進め方や、リスクの捉え方を示してくれます。これにしたがって分析することで、今後の企業戦略を体系的に考えることが容易になります。そしてきちん行動すれば、ネイチャーポジティブを目指す今後の世界経済の中で生き残ることはまだ可能です。

 ただし、繰り返しになりますが、そのためにはTNFDを単なる情報開示のフレームワークと考えていたのでは失敗します。そうではなく、これは自社を正しく変革させるためのフレームワークなのだという認識を持って取り組むことが必要です。

TNFDの真の狙いを社内に広めるのは誰?

 TNFDがもつこの重要な意味に気づいているのは、おそらく社内ではこの記事をお読みになっているあなただけでしょう。他の部署の方々はもちろん、経営層ですら、そのような意識はお持ちではない可能性があります。ですのでこの記事を読んだあなたから、経営層を含め全社の方々に、これから世界はネイチャーポジティブな経済に向かうべく、すべての企業が変革を迫られており、正しい変革のためのフレームワークが今週発表になったのだということをぜひ伝えてください。

 もちろんそれは、大きな道のりの変革になるでしょう。平坦でもないはずです。けれども、ここで変化をしない企業は確実に市場から退場を迫られることになります。そして大切なことは、今からでもやる気さえあればまだ間に合うということです。ただし、なるべく急いで行動を始める必要があります。

 サステナビリティご担当の方々は、これからTNFDの詳細を勉強すると思いますが、そうした情報収集と同時に、TNFDが持つこの重要な意味を御社の中に早く広めることが同様に、いえおそらくそれ以上に重要なのです。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹


※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)475(2023年9月19日発行)からの転載です。

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