新しいフォルダー

O先生のパソコンのモニタに目をやると、デスクトップに「新しいフォルダー」という名称未設定と思しきアイコンがあった。デフォルトアイコンだ。

彼は躊躇しなかった。彼はO先生のパソコンのマウスを操作して、その新しいフォルダーを開いた。すると、新しいフォルダー(1)という名称のフォルダーだけがそこに入っていた。

当然彼は、その新しいフォルダー(1)を開いた。すると今度は、新しいフォルダー(2)という名称のフォルダーだけが入っていた。

新しいフォルダー(2)を開くと新しいフォルダー(3)が、新しいフォルダー(3)を開くと新しいフォルダー(4)が入っていた、やっぱり。

彼はプロパティを確認した。見ると、「サイズ:0バイト」「ファイル数:0」「フォルダー数:1023456789」とある。

つまり、新しいフォルダー(0)であると思わされる〈それ〉の中に、1023456789(十億二千三百四十五万六千七百八十九)の新しいフォルダーが入っている、0バイトで。0に1023456789が0で入っているのである。【※新しいフォルダー(0)と思わされるフォルダーの実像は新しいフォルダー(1)だから、新しいフォルダーの実際の数は1023456790である。】

「新しいフォルダーを開くと次に新しいフォルダー(1)があるということは、トップのこいつは、新しいフォルダー(0)って言いたいわけか。だけど、新しいフォルダー(0)なんて作成できない。存在させることができないじゃないか」

彼はそう呟いてから、なぜ新しいフォルダー(0)が存在すると思わせたいのか、その理由を考えてみることにした。彼は暇だったのだ。

彼がその答えを探り当てるのに、そう時間はかからなかった。彼は膝を叩いてから、こう叫んだ。

「僕は存在しないはずのフォルダーを開いているわけか!」

それから彼は、狂ったように新しいフォルダーを開き続けた。

新しいフォルダー(1999)、新しいフォルダー(2000)、新しいフォルダー(2001)——