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さそり座

数奇なアーティスト
『占星術の鏡』は風変りな切り口で12星座を語っている。文章も独特。
著者はマックス・ジャコブ、ピカソやコクトーの芸術家仲間で彼らより少し年長、そしてみんなと同じように年中お金がなく、評論や小説や詩作を志し仲間との書簡も数多く残っている。第二次世界大戦の最中、1944年に強制収容所で命を落とした。(芸術家の支援者であったココシャネルに救命の嘆願を要請したが、嫌ユダヤであった彼女が協力をしなかったとも何かで読んだ)
そういえば、マックス・ジャコブが強制収容所に送られた理由がユダヤ人であるからなのか、同性愛者であるからなのか、私は知らない。

共著であるこの占いの本は1949年に刊行されているので生前の原稿を元に死後に出版されたことになる。
私が唯一持っているのがこの占星術の鏡だけれど、邦訳された詩集などもあるので、いつか読んでみたい。
キリスト教の信仰のあついジャコブが、同性と夜遊びをするたびに、モンパルナスの教会で懺悔をしていた、ということがとても印象に残っている。
今日は最終回。

香りは白檀、そして辛く強い味、色彩は赤
猛毒の一突きが蠍の武器なのだから、辛く強い味や赤はイメージに親和する。12星座の中で人に危害を加えて星になったのは、さそり座だけかもしれない。他はみんなおだやかに人とつながっていたり、愛の思い出として星座に形を変えたりしている、気がする。
さそり座もしし座やおとめ座と同じくらいキャラクターが立っている。謎めいていて、毒を含むような怖ろしさをどこかに漂わす。
なので、クローブのようなスパイス系の香りが来るかと思えば、白檀(サンタルウッド)である。

白檀(サンタルウッド)の静かさとカオス
白檀、サンタルウッドにはいくつかの性格がある、すぐに想像がつくのが、木の香りの落ち着き、心を鎮めるような部分。それとは逆にエキゾチックで官能的な部分もある。インド原産で、日本にも伝わって古くからその文化に溶け込んでいるから、和の落ち着きを想起させつつ、インドのような大カオスの趣もそこに包含しているのだろう。
緩やかに蛇行した道がどこまでも続き、いつ終わるともわからないように、サンタルウッドの香りは様々な名香のラストノートを静かに、けれど官能的に彩ってきた。
この香りを擁するさそり座という人は、一度育んだ気持ちはいつまでも持ち続けるような情の深さを持ち、鳴りを潜めるような静かさが、かえって不思議な存在感を放つのかもしれない。
サンタルウッドの香りは心落ち着くものだけれど、持続するその香りにずっと包まれていると、一種の陶酔感が生じてくる。さそり座も長く付き合うほど、良さがわかってくる”瞬発力より持久力”の人なのかもしれない。

輪廻の香水、サムサラ
ゲランの香水で有名なサムサラ。ゲラン家最後の当主と言っていいジャン・ポール・ゲランの傑作。サンタルウッドとジャスミンの至高のアコードが放つのは永遠性である。愛するパートナーに捧げた香りとも言われいる。
センセーショナルではないけれど、この香りの静かな浸食がさそり座の神秘に輪を掛けそうだ。

SAMUSARA/GUERLAIN/1989
サムサラとはサンスクリット語で輪廻の意味を持つ
背景は「占星術の鏡」裏表紙

香り、思い、呼吸。

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