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スイス[56] エレベーターの中でAfter you〈謎のアジア人男性〉

スイス[56] エレベーターの中でAfter you〈謎のアジア人男性〉

202401211418 A.J.

 スイス・ジュネーブに宿泊していたときのことです。ソコソコ高級(中級?)のホテルに宿泊しました。前日までの観光地のホテルとは違って、ビジネスで宿泊する場合に良いホテルなのですが、それまでに泊まったどのホテルより、そしてその後宿泊したパリの四つ星ホテルに比べても快適でした。部屋は狭いが設備は整っているし、サービス水準がビジネス客向けに優れているのです。
 それがどうした、と言われればそれまでですが、ドアマンがいるだけでも良いと思うし手荷物預かりだとかランドリーサービスだとか…ホテルだと当たり前のことが、それまでの『宿屋』にはなかったことなのでホッとしました。

 一泊しかせず、また夕食も朝食もホテルのレストランで食べなかったので(考えてみれば宿泊客の観察のためにホテルのレストランで食べれば良かった)、どんな客層かを見る余裕はなかったのですが…
 こんなことがありました。
 夜食の買い出しか何かでホテルから外出して戻った時に、ロビーから宿泊する階までエレベーターに乗りました。一人ではなく、そのときは私以外にアジア系と思われる三十歳代後半くらいの男性と二人きりとなったのです。

 たまたま、同じ階で降りることが判(わか)りました。そしてその階に着いた時、皆だったらどう言う?私なら必ずこう言います。
「After you.」
 別に無理に言わなくても良いけれど、我先にエレベーターの開いたドアを目指すのはやめた方がいいです。言葉が通じないことが明らかでも、なんとか相手とコミュニケートして降り方を考えましょう。
 そうしたら、です。その男性は私に対して
「あなたこそ私より先に」(というニュアンスの英語)
と言ったのでした。
 それだけで、彼が紳士だとか礼儀正しいと決めるのは早計ですが、しかしちょっとオーバーに言えば、狭いエレベーターのカゴの中で外国人どうしが互いに敬意を評する形になりました。
 相手は明らかに日本人ではない。もし日本人なら私の『典型的日本人』の格好と日本人英語で私が日本人だと判ると思います。一方、私は彼がどこの国の出身であるのかは全く判りませんでした。それこそどこぞのアジアの政府関係者かも知れない。ただ、彼の英語には僕に解(わか)るような強い訛りはありませんでした。少なくとも『慣れて』いる人間でした。

 謝謝、多謝、カムサハムニダ…、うーん、他にどう言えば良かったのだろう。

 お互い譲った形になって、結局私が
「Thank you.」(英語しか思いつかなんだ)
と言ってエレベーターを後にしました。

 それだけなんですけれど。

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