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「最低のホテル」 (サミット2016[3])

202305030953  2016年サミットの話(その3)

 いきなりこんな題名だけれど、田舎の国道沿いにあるキンキラした妖しいホテルの話ではない。

 その日、私はちょっとしたことで知り合ったある国の外交官が宿泊している(はずの)伊勢市内の小さなホテルで一人で夕食を食べていた。確かにその外交官とは面識はあったものの私は別に政府職員じゃないので仕事でそのホテルにいた訳ではない。単に食事をしていただけだ。
 食事の後で、その外交官に簡単なメッセージを残そうとしてホテルのレセプション(フロント)に行った。ところがそこにいたホテルの従業員である初老の男性と話をしたものの全然会話にならない。といっても別に私がタガログ語で話しかけて向こうがスワヒリ語で答えた訳ではない。
 私は単に彼にメッセージを残そうと思っただけだから
「このホテルに某(なにがし)(その場では、私はちゃんと件(くだん)の外交官のフルネームを言った)が宿泊しているので彼にこの手紙を渡してほしい」
とその従業員の男に言っただけだ。「泊まっているか?」などと質問した訳ではない。聴いたって答えないのが普通だ。だから断定して私は頼んだ。
 ところが男は私の言ったことを全然理解出来なかった。「某が泊まっているのでこのメッセージを伝えて」と私が言っても「何を言っているのかわからない」という顔をしている。
 この段階でホテル側がメッセージの受け取りを拒否してもそれはそれで構わない。そんなこともあるだろう。ましてセキュリティにピリピリしている状況だ。
 しかし、ここでレセプションの男は驚くべき行動に出た。いきなり宿泊客名簿を取り出してレセプションの机の上に展開しながら私に見せて「誰でしょうか?」と言い出した。そこには日本人や外国人の名前がずらりと並べられている。

 ぶったまげた。宿泊客にどんな人がいるのかを外部に見せることは絶対にありえない。なのにレセプションの男はその宿泊客リストを私に見せて「誰だ?」ときいてきた。
 思わず私は「いやそれはマズい。他の宿泊客には用事はないし、そもそもそんなリストを出すもんじゃない…」と言いかけた。
 その時、突然
「困ります!」
と大声をあげてリストを机の上から引ったくった中年女性が出現した。よく見るとその女性もホテルの従業員だが、先の男の上司のようであった。
 こちらだって困惑している。しかしその女性は私を非難するような顔をしてキツく睨(にら)んできた。
 失礼な話である。こっちはこっちで、世の中にはこんな失礼なホテルがあるもんだな、と思った。宿泊客にメッセージを残すということはそれほど変ではないと私は思うのだが違ったのだろうか?

 伊勢市駅に程近いそのホテルには二度と行かない。夕食は美味しかったのにな、残念。

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