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「いだてん」第44回、田畑政治最大のピンチで、もしあのときネットがあったならと想像してみた。

いよいよ残り4回となった大河ドラマ「いだてん」。11月24日放送の第44回は、これまで東京五輪開催に向け突っ走ってきた田畑政治が、ものの見事に粉砕されてしまうつらい話となった。昭和37年夏、ジャカルタで開催間近に迫っていたアジア大会をめぐり、時のインドネシア大統領・スカルノが仕掛けた小細工がもとで、現地入りしていた田端率いる日本選手団が窮地に立たされてしまったところからドラマはスタートした。


田畑がピンチに陥った裏には、彼の排除を企んでいたオリンピック担当大臣・川島正次郎の暗躍があったわけだが、それだけではなく、田畑自身が若い頃に時の大物政治家・高橋是清を前に言い放った言葉が巡り巡って効いてきていたことを悟る回想シーンが、目の前に君臨する川島以上の不気味さを醸し出していたのが印象的だった。

さらに、田畑の日頃のぶっきらぼうな性格や立ち居振る舞いが自身を追い込むことにも。盟友のはずの松澤一鶴が田畑の妻を前に放った「マーちゃんは割と色々嫌われているんです」との発言がそれを端的に物語っていた。

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IOCの不興を買ったインドネシアの地で大会出場を決断した田畑に対し、日本の新聞報道は大会の内容もそっちのけで、田畑批判の嵐が巻き起こる。大会後に帰国した田畑は、飛行機から降り立った空港での態度が横柄だったこともあり、日本中が「田畑やめろ」の大合唱。国会に呼ばれた田畑の発言にもいつもの勢いは消え防戦一方。その様子をテレビで見ていた大衆からも完全に信頼を失っていた。

この裏には陽気な寝業師こと川島の巧妙な罠があったことを、ドラマを見ている側は熟知しているわけだが、新聞報道と国会中継しか見ていない一般大衆からすれば、田畑に1ミリの理も覚えないだろう。古今亭志ん生の弟子・今松がせんべいをボリボリ食いながらテレビに指差して「こいつバカだなあ、やめちまえよ」とチャチャを入れていたのが実に印象的だった。

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この流れから思うのは、メディアの恐ろしさである。これが令和の世であれば、ネットを通じて様々な意見が行き交うことが容易に想像されるが、ではもしこの時Twitterなどがあったなら、田畑擁護論は巻き上がったであろうか?おそらく否だろう。大衆の流されやすさはネット社会の今のほうが遥かに強烈でその勢いは新聞主体の時代に比ではなかろう。かくいう私自身、裏の事情やそれまでの経緯が見えない以上、横柄な態度をやめない田畑の肩を持てる自信はまったくない。

結局、正解からも大衆からも袋叩き状態となった田畑は東京五輪事務総長の職を辞し、ヒラの組織委員として昭和39年の開幕を待つ立場になる。ただし、次回第45回のサブタイトルは「火の鳥」とあるのだから、このまま座して待つだけのマーちゃんではなさそうだ。

それにしても、東京五輪の直前でこのような一大事があったことを、東京五輪よりあとに生まれた自分はもちろんだが、今となってはほとんど語り継がれていないというのは不思議な上にも不思議だ。流されやすいのは大衆の弱点だが、おそらくはその後の東京五輪の大成功がその弱点を覆い尽くしてしまったのだろう。政治も大衆も所詮は水もの。今は懸念も多い来年の東京五輪も、その先の未来になればどう見方が傾いているか、わかったものではない。なるようになる、そう片意地はらずに見守るのがあるべき姿勢ではないだろうか。


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