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レコード夜話(第13夜)

●私にとっては、なんとなく貴重な存在となっているCDがあります。余人にとっては、ほとんど何の価値もなかろうそれですが、私にとってはそれなりの思い入れの生じるCDなのです。

 それはというならば、前回記したところの飲料メーカーのサントリーが烏龍茶のCFとして、平成4年(1992)にTVで流したなかで歌われていた中国語版の「いつでも夢を」を皮切りにして、その翌年以降にも引きつづいて放映された烏龍茶のCFのなかで歌われていた中国語バージョンの「結婚しようよ」や「春一番」「暑中お見舞い申し上げます」「微笑み返し」などを、一枚に収録してあるところの、プレミアムCDなのです。顧客サービスとして抽選配布が行なわれたことがあって、それに応募して、ありがたくも当選して入手できた品なのです。

 べつだん烏龍茶が気に入っていたというわけではなかったのですし、今日に至ってもそう。ただただ夜間中学校で苦労していた昔日に、思いが繋がるがゆえのことなのです。

●本家本元の「いつでも夢を」という歌はというならば、橋幸夫と吉永小百合とがデュエットして歌ってヒットした1962年の「レコード大賞」を受賞した曲です。

当時、橋幸夫の方は若手の男性歌手の最前線を突つ走っていた。吉永小百合は、こちらは映画女優の若手スターとして人気が沸騰していた。そんな取り合わせだったからこそ、大ヒット曲にもなったのでしょう。しかしながらですよ。当時二人はそんなにも売れっ子だったから、それぞれにスケジュールがいつぱいで、一緒には音合わせする時間が取れなくて、しようにもできない。とうとう最後まで、スタジオで一緒に歌うことがなかったのだということでした。男声と女声とを別々に歌い、テープに吹き込んだものを持ち寄って、一つに合成してデュエット曲としてレコーディングしたのだそうな。私なぞはそうした話を聞き知って、企画のおもしろさ以上に商売気の勝った「あざとさ」を感じて「そうまでするのか」と思ってしまうのですが、だからといってその話を聞いた後でも、この曲がキライになるなんていうこともありませんでした。

 中国語バージョンのそれは、CDに付されてある歌詞集には歌っている男女の名も記されてあるのですが、私の知るところではありませんから、とくだんの感興もまたないのですがね。

 吉田拓郎が歌っていた「結婚しようよ」にあっても、その中国語バージョンを聞いてはみるのですが、もとより私の方は中国語に通じているわけではないから、なんとなくおもしろいといった程度のことでしかないのが、我ながら残念ではあるのですよ。

●さりながら、キャンディーズのヒット曲の中国語バージョンは、中国語がわからないながらに味わいがあるのです。キャンディーズの三人娘が歌っていたオリジナルの歌謡曲のなかにあっては、私としては「春一番」という曲が気に入っているのです。また、妙味があるという点でならば、いちばんは「微笑み返し」という曲で、それまでのヒット曲の歌詞を取り込み施してあるところの工夫が見事で、堪能できるのです。

 しかしながら、かのCFで歌われていたところの中国語バージョンでの歌でとなったら、なんといっても「暑中お見舞い申し上げます」というそれが、断然おもしろい。

「何が、どこがおもしろいのか」――そう改まって尋かれると、私としては恥じてしまうのですが、中国語訳された歌詞のなかに、それが中国語の特色のひとつでもあるところの畳語表現がワンサとあって、それをおもしろがっているのですよ。たとえば「(乗着風儿)飄飄蕩蕩」だの「(海風)軽軽」だの、あるいはまた「(我能)快快」だの「分分秒秒」だのだのとあるのです。この同じ漢字を重ねたところはというと、強いてカナ書きにしてみると、中国語では「ピャオピャオタンタン」「チンチン」「クヮイクヮイ」「フェンフェンミャォミャォ」といったように発せられるのです。

残念なことに、歌全体を通してとなっては、中国語で歌われても、意味などわかりかねるのです。さりながら、聞いている歌のなかで「ピャオピャオタンタン」と小踊りしてるかのようであったり、まるで何かが鳴いているかのように「フェンフェンミャオミャオ」などと歌われたりなどすると、ついつい笑いたくもなってくるんですねえ。そんなところばかりをおもしろがっていたのでしたし、今でもそうなのだから、情けないというものですが。

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