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アメリカ歩兵小隊の戦術とリーダシップーーミリタリー知識はサバゲ戦術に応用可能か?

皆様、サバイバルゲームをご存知でしょうか。
そうです、あのBB弾を撃ち合うゲームです。
では、このゲームと実際の戦闘技術は応用可能でしょうか。
実は、大部分は可能に思えます。なので知ると強くなります。

  どうもミリタリーサークル
 『徒華新書』です。
 本日のミリしら(ミリタリー実は知らない話)です。
 @adabanasinsyo
 本日は久保智樹がお送りします。
 @adabana_kubo


 先日サバゲに行きました。
 アフリカにいそうなPKO部隊の歩兵をコンセプトに武装してました。

筆者:久保智樹

 そこで思ったのが馬鹿みたいにみんなで突撃するのは楽しいなということです。

 一方でミリオタがたくさん集まってるのに誰も戦術論をぶったりしないなと不思議に思いました。まぁ私も歩兵小隊戦術は正直詳しくないのですが。

 ということでいっちょ歩兵小隊戦術を語りながら、これがサバゲに応用できるかを見ていこうと思います。

歩兵小隊戦術ってなにさ

 といいつつ、これ書くの凄い嫌なんですよね・・・
 だって日本ではこれについての本職さんが実戦経験を持って語れる分野なので。

 ということで手堅くいきます。

 『FM 3-21.8 歩兵銃小隊及び分隊』
 アメリカ陸軍の歩兵小隊教本です。

 この記述を手掛かりにして実際の歩兵小隊の指揮・統制・攻撃を見てから、それがサバゲに適応可能かを検討します。

 本日のお品書きです。
 サバゲについてだけ知りたいよという人は、
「歩兵小隊の攻勢戦闘のまとめ」まで飛ばしてください。


歩兵小隊の構成

 なぜこの稿で「歩兵小隊」に注目するのか。
 それはこれこそが戦闘における基本単位であるからです。
 同時にサバゲにおける現実的に集まれる単位であることもそうです。
 司令部要員を除いて米軍では一個小隊36人、4個分隊を組織します。

 ※このテキストで「1-1.」のように「章ー節」と通し番号で管理されています。
 ※和訳は著者によるものであり、誤った解釈の可能性があります。

では具体的に見ていきましょう。
まず前文

歩兵の任務は、火力と機動(Fire and Manuever)によって敵に接近し、敵を撃破または捕獲すること、または射撃、近接戦闘、反撃によって敵の攻撃を撃退することです。歩兵はあらゆる作戦環境において諸兵科連合で敵と交戦し、敵を倒します。近接戦闘は歩兵に特有のものではありません。

そして次のように始まります

1-1.歩兵の主任務は、あらゆる任務や戦域、環境において生じる、近接戦闘である。

1-62.歩兵小隊は3つの歩兵分隊、1つの武器分隊と司令部で編成される。司令部部門は分隊と付属部隊の指揮統制及び火力支援と機能維持のインターフェースとして機能している。ただし全ての歩兵分隊は同じ基本戦闘教義原則を戦闘は用いるが、それらの原則は付与された付与された機構や任務機構に規定される。

歩兵分隊は次のような構成です。

武器分隊は次のように構成されます。

小隊戦闘の基本となるのはこの分隊をどう指揮するか、即ち連携を保ち行動させるかにあります。

小隊を指揮するとは

1-66.
・小隊を指揮して上級司令部の任務を支援する。それは割り当てられた任務と意図、目的に基づいている。
・分隊と戦闘要素を機動させる。
・小隊の努力を一致させる。
・小隊の次の「行動」を見越す。
・支援アセットを要求し掌握する。
・小隊と分隊に指揮統制システムを可能なように調達する。
・360°、三次元的安全の維持を確かにする。
・鍵となる武器システムの用地を掌握する。
・自分自身を任務達成に最も重要な地点に配置する。
・明確な任務と目的を自身の小隊に割り当てる。
・任務と2段階上(中隊と大隊)の司令官の意図を理解する。

小隊長の任務は重要です。箇条書きされてますが要は小隊をきっちりと掌握し、任務を確実に遂行するということです。

もし貴方が指揮官になるなら次のことをしなければなりません。

 情報、指揮統制、維持、防護、火力支援、移動と機動である。
 これが米軍の考えるリーダーシップによって結合される要素である。

 ちなみに兵隊に必要なことは射撃、移動、連携、生存、(戦闘力の)維持です。[1-45~1-51.]

 指揮官は考えることが沢山あるのですが、兵隊は戦うという最も基本的なことを守ればよいのです。
 この議論では過度に単純化していますが、小隊長と兵隊の間には小隊付き曹長や各班の班長といった各単位における中間管理職がいるということは一応補足しておきます。

部隊の指揮統制

 指揮官は小隊を掌握し任務を確実に遂行する。
 兵隊はそれを忠実に履行する。

 言うは易し、行うは難し。
 ということで実際に部隊の指揮統制(Command and Control (C2))の方法を軽く見ていきましょう。

 ちなみに、これは5章の記述です。
 2章火力の調達、3章戦術機動、4章防護措置は今回はすっ飛ばしてます。

リーダーシップの基本要素は「意図・指示・心理」であるそうです。

5-3.  
ミッションコマンド(任務委任)は効果的な任務達成のために作戦命令に基づいた分散型決定を通して軍事作戦を実施することである。成功する任務委任は、司令官の任務達成の意図をその下位の全ての階梯のリーダーが規律をもって自発性を発揮することで生じる。それは信頼と相互理解する環境を要求する。成功する任務委任の基礎は以下の4つの要素である。
司令官の意図:司令官の意図は明確で、部隊が何をすべきか、敵に対して勝利するために部隊が満たさなければならない条件、地形、及び望まれる最終状況を簡潔な言動で示す。
下位の主体性:これは、作戦の概念が適用されなくなった場合、または指揮官の意図を達成するための予期せぬ機会が現れた場合に、独立した行動を決定し開始する責任を負うことです。
作戦命令:作戦命令は戦闘命令を完了する技術である。これは下位の単位に任務達成のための計画と行動に最大限の自由を許可することである。
資源割当:司令官は下位の単位に任務達成のための十分な資源を割り当てる。資源とは兵隊、物資、情報である。

 アメリカ軍の歩兵小隊は、その下位の単位である分隊や班に最大限の自由と自発的行動を期待している。ただしそれは小隊長が定める任務を達成するための手段である。
 米軍の指揮統制とは、命令一下一糸乱れぬ行動を取るということではなく、命令を受けてそれを実行する方法を各員が創意工夫をもって実行するという意味である。ただし、その為に小隊長は命令を明確にすることが求められる。

攻勢作戦を指揮する

 6章「部隊の維持」をすっ飛ばして本題の7章「攻勢作戦」を見ていきます。

7-2.
決戦の成果は攻勢作戦から派生します。小隊は、火力と機動によって敵に接近し、敵を殲滅または捕獲したり、火力によって攻撃を撃退したり、近接戦闘を行ったり、攻撃作戦によって反撃したりすることができます。戦術的な考慮が小隊を防御任務に一定の期間実施させるとしても、敵を撃破するには攻勢作戦に移行することが求められます。(以下略)

【攻勢作戦の性格】
7-3.
奇襲、集中、テンポ、大胆さは全ての攻勢作戦の性格を決めます。(以下略)

【機動の種類】

(1) 包囲。

(2) 旋回運動。

(3) 浸透。

(4) 突破。

(5) 正面攻撃。

 と言った感じで見ての通りです。 
 ハイ冗談です。ちゃんと解説します。

 (1)包囲機動は想像の通り、補助攻撃で敵を足止めしつつ敵の側面や後方に機動すること。

 (2)旋回機動は敵の防衛線を回避して側面に移動すること。包囲との違いはもっぱらこれによって敵の陣地保持を放棄させることにあります。
これは私見ですが、ゲームと違い実際の戦闘は敵の部隊を全部キルするのではなく、機動によって陣地保持をあきらめさせ前進することがままあるということでしょう。

 (3)浸透は、部隊を分散的に運用して敵の弱い部分を抜けて後方にたどり着くことです。
 ここでは部隊を5つに分散し、敵中央への助攻と敵後方への本命の浸透を組み合わせています。
 浸透戦術機動を達成するために指揮官は部隊が到達すべき地点を明示し、分割された各部隊はその地点を目指すという一点に集中します。

 (4)突破と(5)正面攻撃は性格が似ています。兵力を集中して敵の防御する前面をこじ開けるところまでは共通です。違うのは穴をあけた後です。突破では突破口を保持するのに対して、正面攻撃ではその衝撃力によって敵を撃砕することを目指します。
 この二つは損害が比較的大きいのは容易に想像できますが、時間的制約のある作戦ではしばしば最短の方法の為に司令官により選択されます。

 ではこれらを実施する段取りはどのようなものか。

7-19. 小隊長は攻勢作戦を計画する際、一般的に次のことを考慮する。
・集結地点
・偵察
・攻勢発起点への移動
・機動
・展開
・襲撃
・再編成

 私見ですが、攻勢作戦という行為は「襲撃」に目を奪われがちですが、これの達成のために部隊を襲撃地点に移動させることが前提であることが見て取れます。

歩兵小隊の攻勢戦闘のまとめ

1.一個小隊36人、4個分隊。
2.歩兵小隊は、火力と機動によって、近接戦闘を行う。
3.成功のためには、小隊長による部隊掌握が必要である。
4.部隊掌握、即ち指揮統制(C2)、はリーダーシップを取ることでなされる。
5.米軍におけるリーダーシップは、「ミッションコマンド(委任戦術)」である。
6.委任戦術は下位の単位、即ち分隊に、明確な目標と自由裁量権を与えることである。
7.実際の攻撃の選択肢として5つの機動が基本である。
8.これの成否は奇襲、集中、テンポ、大胆さによって決まる。
9.攻勢作戦は、集結、偵察、展開をもって統制された襲撃によって達成される。

歩兵戦術はサバゲに応用可能か?

 結論から言います。
 正直、可能な点と不可能な点があります。

 順に見ていきましょう。

1. 一個小隊36人、4個分隊。

 まぁイベントの性格にもよりますがこれくらいの人がいることは想定できます。
 ただ、36人の群れと、36人を束ねられる小隊長は違います。
 なによりイベントの性格がガチでないのに仕切り出すのは顰蹙ものです。
 なので、まず何よりそれがみんなのやりたいことであるかを大事にしましょう。

 その上で、例えば貸し切りのイベントや、定例会で勝ちたい場合、積極的にチームを4つの分隊に分けて小隊長に立候補しましょう。
 ちなみに僕は自分がやられる場合を想定して次は誰が指揮を引き継ぐか明確にします。
軍隊の階級とは、誰が偉いのかを明確にして一番偉い人が離脱したら自動的に次の人が引き継ぐという合理的なものだから存在しているのですがサバゲにはそれがないので、小隊長と分隊長を明確に決めて、それがやられた場合のNo2、No3くらいまで決めておくといいのかな。

2.歩兵小隊は、火力と機動によって、近接戦闘を行う。

 実はここで僕はサバゲと現実の違いを感じています。
 火力と機動。
 基本は、分隊を2つに分けて片方は制圧射撃をしつつもう片方が移動する。

 ここまでは可能です。普遍的なのでこれだけでも覚えて帰ってください。

 ですが、サバゲーマーと実際の歩兵には大きな違いがあります。
 「グレネード」です。

 分隊は2丁のM203グレネードランチャーを装備していますし、各兵士もグレネードを持っています。

 実はサバゲーマーの火力は実際の歩兵より低いのです。
 全員が、2~3個モスカートの手りゅう弾でも用意しないとこれはもうどうしようもありません。そんなお金ないよ(泣)

 なのでサバゲでは基本防御有利です。
 火力はあくまで機動をするための制圧手段と割り切ってしまって、攻撃側は敵に対抗するためにはもう「機動」に全振りするしかないのだと思います。

 ということで火力の無いサバゲーマーは死ぬ気で機動して勝ちに行くという方針で以後話します。

3.成功のためには、小隊長による部隊掌握が必要である。

 これはまぁ出来る人はできるでしょう。人生何かのリーダーを経験したことはあるのではないですか。遠足の班長、チームのキャプテン、部長、会社のプロジェクトリーダーなど、何でも構いません。その時のような振る舞いを率先してやりましょう。

 といっても注意です。
 集まってるのはいっしょに遊ぶ仲間であってホンモノの部下ではないです。
 あくまでロールプレーとしてやりましょう。
 あと小隊長はやりたい人で交代しましょう。
 あくまでサバゲーは楽しい遊びですから。

4.部隊掌握、即ち指揮統制(C2)、はリーダーシップを取ることでなされる。

4.部隊掌握、即ち指揮統制(C2)、はリーダーシップを取ることでなされる。
5.米軍におけるリーダーシップは、「ミッションコマンド(委任戦術)」である。
6.委任戦術は下位の単位、即ち分隊に、明確な目標と自由裁量権を与えることである。

 ここではまとめて議論します。
 少なくとも米軍式で戦うなら、小隊長は4つの分隊それぞれの役割を明確にすることを徹底して、分隊長は与えられた役割を自分の判断で考えて自分の分隊に作戦を徹底する。

 ここで少し。
 戦術の基本ですが、「予備」として一個分隊を温存するのも選択肢です。状況の変化に合わせて、予備の分隊に最適な命令を与えて決定的なところに投入して勝利するというプランは常に小隊長の頭にあっていいでしょう。

 また、小隊長は4~5名の司令部要員を組織すると指揮統制が円滑になります。司令部要員は各分隊長のところに走って行って状況を確認して小隊長に報告する。足を使った伝令は戦闘の基本です。
 勿論お金持ちだったら、司令部と各分隊に一台ずつ無線機があればこの手間は省けますが、ないならローテクな指揮統制を取ることしかないでしょう。
 アドルフヒトラー君も伝令兵として鉄十字勲章をもらってます。伝令は結構大事です。

 最後に部隊掌握のコツを一つ。

 あくまで行軍時の体形なので参考までですが、3個分隊の縦列は各20メートル間隔で行軍するらしいです。要するにエアガンで安定して狙えるくらいの距離です。
 サバゲーで指揮統制が取れないのは、実は人数に対してフィールドを広く使いすぎているという点があるのかもしれません。

7.実際の攻撃の選択肢として5つの機動が基本である。

(1) 包囲。
(2) 旋回運動。
(3) 浸透。
(4) 突破。
(5) 正面攻撃。

 どれを選択するのも自由です。
 ただ小隊長はフィールドの広さと敵の布陣に合わせて決心してください。
 そして分隊長にそれを明示してすり合わせてください。

 特に、正面突破によって敵をキルして勝ちたいのか、突破によってフラッグを取りたいのか、はたまた浸透によって戦闘回避を念頭に置くのか、といった基本的な部分は念入りに認識を合わせましょう。

8.これの成否は奇襲、集中、テンポ、大胆さによって決まる。

 これも可能でしょう。
 先ほど話した「予備」の使い方が重要かもしれません。

 そして大胆さ。

1-66.
・(小隊長は)自分自身を任務達成に最も重要な地点に配置する。

 小隊長が真っ先に死んだらお笑いですが、予備を使った決心をしたのに、自分とその司令部要員は後方で腕組みしていては「奇襲、集中、テンポ、大胆さ」と矛盾します。
 いざというときは大胆に覚悟を決めましょう。

9.攻勢作戦は、集結、偵察、展開をもって統制された襲撃によって達成される。

 じつはこれがキモかもしれません。
 いままでどう戦うか、即ち襲撃、に焦点を当てていました。

 しかし、襲撃するにあたってまず偵察していないと、5つの機動のどれを用いるかが決まりません。なので実は戦闘開始して、即どの機動というよりも、偵察してから「機動」を決めるという考え方もあり得るかもしれません。

 また「奇襲、集中、テンポ、大胆さ」を維持するためには、襲撃即ち射撃の開始は小隊の全分隊が一斉が望ましいでしょう。まず部隊の展開を完了して、その後に襲撃する。

 しかしジレンマがあります。それは展開中に敵に先に攻撃を仕掛けられることです。
 これこそテンポの喪失です。
 
 なので、9.「偵察と展開」と8.「奇襲、集中、テンポ、大胆さ」は矛盾するのです。
 戦争が科学でなくアートである理由はまさにこのように矛盾だらけの営みだからでしょう。

おわりにかえて

 ということで小隊戦術とサバゲ戦術についての付け焼刃の議論でした。
 僕の普段書いているものはもう少し大きい単位の運用なので実はこの分野に弱いですし、サバゲも人生で3回しかしてません。
 なので正しいかはわかりませんが、せっかくサバゲをやったミリオタなのでなにか新しいことを見いだせないかと思って書いてみました。

 最後に読書案内。
 もしこれが面白かったら、他のミリタリー記事をぜひ。
 もし面白いと思ったらもう一本記事を読んでみてくれると嬉しいです。

 参考にした教本も置いておきます。
 今回は攻勢に絞りましたが防御やパトロール、戦車などとの連携など面白い部分もまだありますし、図表を眺めるだけでも面白いです。  https://www.presby.edu/doc/military/FM3-21-8.pdf

 また部隊戦闘の基礎知識は付け焼刃と言いましたが面白い本があるので最後にご紹介を。

 元陸相補の方が書かれた部隊運用についての本です。
 小難しい議論でなく、このシチュエーションだったら部隊をどう動かすという一問一答形式なので読みやすく本当に勉強になります。

 もし何か一つでも心に残ることがあればスキのワンクリックやコメント、Xのフォローなど頂けると本当に嬉しいです。
 今回に関しては特にサバゲ知識は薄いのでサバゲーマーの方のコメントもらえると嬉しいです!!

 何か一つでも心に残ることがありましたら幸甚です。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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