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「事例」を載せる意味とリスク

深澤 諭史
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問

この記事は、2021年5月19日に公式サイトに掲載されたコラムを再掲したものです。

1.士業の仕事と相談者の不安

言うまでもないことであるが、士業に事件(紛争に限らない。)を依頼するということは、市⺠にとっては非日常のことである。滅多にないことであるし、通常は、繰り返して経験をすることでもない。

一方で、多くの場合、士業に相談する前の相談者は、不安にさいなまれている。

要するに、滅多にないことであり、相談者は心配、特に先行きについて不安を抱いているのである。

こういう場合、士業としては、先行き、見通しについて、確実な話は不可能であるとしても、どの程度の確率で、どういう結果が得られるか、見通しをわかりやすく伝えることが期待される。

2.不安と士業広告

実際に士業に相談をしてもらえれば、事件の見通しを伝えることは可能である。また、逆に実際に相談を受けて、詳しく事情を聞かないと、見通しを伝えることは不可能である。したがって、士業の立場としては、とにかく相談に来て欲しいということになる。

もっとも、相談者は不安を抱えているが、それは見通しだけではない。自分の事件や、あるいは自分自身(人間同士のことなので、士業個人との相性という問題もある。)にとって、最適な士業を選びたいと思っている。

また、そもそも自分の事件が士業に相談することで解決するのか、希望する結果が得られるのか、そもそもその士業の業務なのか、ということで迷っていることもある。

そうすると、直ちに相談に来てもらえない、まずは、じっくりと士業について調べる、具体的には、士業広告をじっくりと見て比較検討するということになる。

3.士業広告において「事例」を掲載する必要と効果

以上のような事情があるので、相談者の不安を払拭し、見通しを立ててもらうためには、実際の事例を掲載して紹介することが有効である。

士業個人が、いくら、あなたのために頑張りますとか、サービスのクオリティや実績、件数を誇っても、相談者からすれば「自分にとってはどうなのか」は、やはり別の問題である。

士業に問い合わせる、相談するというハードルは、まだまだ低いとはいえない。できれば、事前に、ある程度の見通しを立てておきたいというのが、相談者の自然な心情である。

そこで、最初に述べた様に、実際の解決事例を掲載して紹介することが必要かつ効果的である。相談者にとっては、依頼をした士業には頑張って欲しいが、それは要するに、「良い結果」「希望する結果」を出して欲しいのである。そうすると、自分の事例(に似た事例)について、過去に良い結果が得られていると掲載することは、有効適切であるといえる。

4.「事例」掲載のリスク

もっとも、事例を掲載することについては、リスクもある。

そもそも、プライバシーの問題が生じることもあるので、ある程度事案はぼかして掲載する必要がある。

また、プライバシーの問題のほか、相談者に過大な期待を抱かせてしまうリスクがある。事例を掲載して紹介する場合、当然のことであるが、比較的良い結果に終わったケースを紹介することになる。そうなると、相談者は、しばしば過大な期待を抱きがちである。

事例を掲載する場合、安心してもらうこと、期待を持ってもらうこと、問い合わせの動機付けをすることと、過大な期待を抱かせないということ、いずれもバランスを取ることが難しい問題である。士業広告において事例を掲載する場合の永遠の課題であるといってもよい。

過大な期待を抱かせてしまうと、士業広告が誇大広告であるとして問題となるということはいうまでもないが、士業が受任後に依頼者との間で「こんなはずではなかった」とトラブルになる原因にもなる。

このあたりのバランスの取り方を一言で説明することは難しい。ただ、単に、「あくまで一例です。」と述べるだけでは不十分であろう。実際に、事例の結果において重要な影響を及ぼしがちな要素を一緒に掲載することが望ましい。

たとえば、過払い金でいえば、「○○万円の過払い金が戻ってきました!」と掲載する場合、「あくまで一例です。」というだけではなくて、「具体的な金額は借入額、期間、借入先により左右されます。まずはご相談下さい。」と、記載することが考えられる。つまり、結果を左右する重要要素の案内と、見通しをつけるためには相談が大事であることを記載することが適切である。

ただ、このように事例掲載についてはリスクがある一方で、事例の掲載をなしに相談者が安心して相談することは難しい。怖がって掲載を控えるより、どうすれば誤解を払拭出来るか、相談時に的確に予想出来るかを考えながら、できる限り掲載することが望ましいと考える。

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