心がふるえた瞬間
この歳になって、“心がふるえる” 瞬間というのがとても増えた。そんな中で、なりたい自分像がなんとなく見えてきた気がする。
映画、舞台、ライブ・・・
これらを観て涙が溢れるようになったのは26歳を超えてからだ。
「感動した」とは少し違う、胸の奥が弾むような、「ときめく」という表現がぴったりかもしれない。
ちょうど昨日、近所で開催された大人の夜市へ足を運んだ。
クラフトビールやワイン、スパイスカレーに自家製蜜のかき氷。センスの良い店が並ぶその夜市は、日が暮れるとさらに良い雰囲気で多くの人であふれていた。
そんな中、突然流れ始める心地よい音色。
“スティールパン” の演奏
ドラム缶を使用した楽器で、缶の内側に凹凸をつけて音階を奏でるというものだ。県内で活躍するスティールパンのバンドがイベントステージで演奏していた。
それはそれは素敵な響きで、思わず足を止めてしまった。
楽しい曲は、踊り出してしまいそうなくらい気持ちが高ぶり、ゆったりとしたバラードではうっとりと聞き入ってしまう。
私はこのバンドの演奏を聴きながら、またも心がふるえた。
私は何に対してときめいたか?考えてみた。
するとそれは演奏者たちの表情だった。
両手にバチを握り、体を揺らしながら音を奏でる。時折客席をちらりと見てはにっこりと笑顔を向けている。
私も含め、客席は大いに盛り上がった。
そして、それ以上に本人たちが思いきり楽しんでいるのが伝わってくる。
結局、アンコールの曲が終了するまで、大きな拍手でステージが終わるまで私はその場を離れられなかった。
この素晴らしい瞬間を、最後まで観ないと後悔するような気がした。
一日経った今でも、あの最初のときめきは忘れない。
人の表情に“心がふるえる”
これは以前に鑑賞した舞台でも同じような感情になった。
若手の役者が所属する劇団の定期公演。正直、ストーリーはコメディ感が強く、全く涙を流すような内容ではなかった。ただ舞台が終わったエンディング、音楽に合わせて出演した役者が数名ずつ客席に一礼をしていく場面。
自分と同世代の役者たち。それまで真っ暗だった会場にライトが灯り、拍手に包まれる客席を見上げ、目を真っ赤にしていた。
演じていた時の堂々とした表情とは違う、20代のあどけない表情で。
その表情を見た瞬間、私も涙が止まらなくなった。
誰かのために、演奏したり、演じたり。
それが人の心をふるえさせることができたとしたら、どんなにしあわせだろう。
やっぱり涙が出るほどうれしいものなのかな。
私も数々の心をふるわせる人たちに出会ってきて、自分も“そっち側”でありたいと思うようになった。
たとえ演奏や演技じゃなくても、どんな仕事でも求めてくれる人がいて、喜んでくれる人がいるものだ。
受け止めてくれる人がいるか、いないか。
他人と共存しながら、人と関わる仕事が生きがいの私にとって絶対に必要なこと。
誰かの心をふるえさせられる私。
そうなれた日にはきっと、見えてくる世界がまた違ってくるんだろうな。
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