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【東洋医学臨床論】頭痛(国家試験対策問題&解答解説付き)

分かりにくいものをより分かりやすくする、鍼灸師のYaMatoです。

この記事の前に投稿した、今後投稿する東洋医学臨床論の記事のガイドラインはこちら。

今回から東洋医学臨床論を本腰入れて投稿してまいります。私の講義で使った資料にさらにプラスした内容ですので、以前講義に参加してくださった学生さんも、初めてこの記事にたどり着いた方も楽しんでいってください。

今回のテーマは「頭痛」です。記事の最後に有料ではありますが、国家試験対策問題と解答解説を載せています。問題はよく出題される内容を厳選し、全部で8問となっています。難易度は低~中となっていますので、記事内容の復習として活用してください。

8問だから80円くらいで良いやと思っていたら、これって100円からしか販売できないみたいです…。ごめんなさい。

まず「頭痛」の学習ポイントは以下となります。

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早速解説していきましょう。


1、奇恒の腑

一般的な臓腑は六臓六腑で12個あります。肝ー胆、心ー小腸、脾ー胃、肺ー大腸、腎ー膀胱、心包ー三焦がそれぞれペアとなっています。

臓は実質器官であり生理物質の化生と貯蔵にはたらき、腑は中腔器官で水穀の受盛と伝化にはたらきます。簡単にいえば、臓は入れ物(貯蔵)であり、腑は管(食べ物の通り道)といった感じです。

これとは別に奇恒の腑というものがあります。

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奇恒の腑は、腑と同じ中腔器官でありながら臓と同じ貯蔵というはたらきを持ちます

臓のはたらきをもつ妙な腑だから恒の腑ですね。

この奇恒の腑には六腑でもあるのほか、脳・骨・髄・脈、女性なら女子胞、男性なら精室が含まれます。

〈まとめ①〉

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以前投稿した奇恒の腑についてはこちら。


2、精

続いて一度生理物質である精について復習しましょう。

精は2種類あります。両親から貰う先天的な精と、出生後に飲食物から得る後天的な精です。

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先天の精は腎精とも呼ばれており、人体の成長や発育の源となります。また、原気の材料ともなり、臍下(丹田)の関元穴のあたりに集まっています。

後天の精は食べ物(水穀)から得られるため水穀の精と呼ばれます。腎精を補充するサポート役で、なかには気や血に化生される場合もあります。腎精とは異なり、水穀から得るため脾胃が関わっています。

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なかでも生殖に関わる精は天癸(てんき)とも呼ばれています。

この精が身体のなかで不足(虚)してしまうと、どんな症状がみられるでしょうか。

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上記したように成長や発育と関わるため不足すれば、成長不良や虚弱な体質となります。また、天癸が不足すれば不妊や勃起不全の原因となると考えられています。

老化により精は少なくなるため、難聴・耳鳴りといった老年症状との結びつきが強いのも精の特徴です。

〈まとめ②〉
・精は2種類ある(先天、後天)。
・先天の精は成長・発育と関わる。
・後天の精は腎精の補充に関わる。
・生殖と関わる精を天癸という。
・精虚となると成長障害や老年症状がみられる。

以前投稿した精についての記事はこちら。


3、髄・骨・脳

さらにこの精と奇恒の腑の関係性をみていきましょう。

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髄は先天の精である腎精から生まれます。この髄は骨腔内にて骨を栄養しています。そのため不足すれば骨格の形成に問題が出たり、特徴的な脛や下腿のだるさがみられるようになります。

また、頭腔内で集まることにより脳を形成しています。

東洋医学臨床論では八会穴の出題がよくあります。足少陽胆経の懸鐘穴は髄会ともいわれ、髄によって生じる症状で用いられます。

の髄が栄養している骨は髄の府ともいわれる奇恒の腑の1つです。

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骨は骨格の形成に関わり、歯は骨の延長(骨余)と考えられています。骨に問題が生じると骨粗鬆症といった症状がみられるようになります。

足太陽膀胱経の大杼穴は骨会として、骨の治療に選択されます。

髄が頭腔内で集まって形成されたものが奇恒の腑の1つである脳となります。腎精→髄→脳であるため、脳は髄海・元神の府・精明の腑ともよばれています。

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生命活動そのものと関係し、感覚や運動といった現代の脳と繋がるはたらきがあります。脳に問題が生じると、眩暈・耳鳴り・健忘などがみられるようになります。

脳には五神であるが関わります。

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意は思考・推測・注力・記憶と関係する神(精神活動)で、イメージは予測を立てるAIです。志は保存・維持・経験に関わり、情報を留めておくストック係のような印象です。

以前投稿した五神についての記事はこちら。と思いきやありませんでした。今度作ります。

五神というのは簡単にいえば精神活動のことであり、神・魂・魄・意・志で5つあります。この5つはすべて働きが微妙に異なりますが、今回の脳ととくに深く関係しているのは意と志です。

〈まとめ③〉

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4、中医学から診る頭痛

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ここからは先ほどの1~3までの基礎知識をベースに病理を考えていきましょう。

頭と関係する臓や生理物質などはこんな感じでしたよね。

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頭痛を東洋医学的に診ると外に原因がある外感性と、身体内に問題が生じている内傷性に分類されます。

外感性では風寒・風熱・風湿、内傷性では肝陽上亢・痰濁・瘀血・腎虚・気血両虚となります。

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①外感性頭痛

一応、関わる六淫をもう一度復習しておきましょう。

風邪の性質には他の邪気を引き連れてくる百病の長身体上部に問題を起こす軽揚性防御に働く衛気に問題を起こす開泄性症状があちこちに移動する遊走性があります。六淫のなかでも一番最初に問題を犯すトラブルメーカーが風邪です。

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寒邪の性質には陽気を損傷する寒冷性気血の流れを滞らせ渋滞させる凝滞性血管や毛穴を収縮させる収引性臓腑を直接攻撃する直中(じきちゅう)があります。寒邪はクールというより陰湿なイジメっこキャラです。

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湿邪の性質には下へ下へとモノを降ろす下注性流れにくい水分である重濁性粘り気の強い粘滞性脾を損傷しやすいといったものがあります。こっちはストーカー気質な奴ですね…

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火邪の性質には上へ上へとのぼっていく炎上性風を生じる(生風)血を勢いよく動かす動血があります。キレっぽい喧嘩番長のような役が似合います。

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頭痛に関わる六淫はこの4つですが、とくに風邪・寒邪・湿邪は長期に渡って改善がみられないと熱化するという特徴があります。ほっとくと喧嘩番長に似たようなものに変身します。

外感性は外の状況(気候や環境)が身体に影響しています。これらは実証として扱われるため、外感性頭痛は急に発病し、疼痛が激しいという特徴があります。

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なかでも痛みがもっとも激しくみられるのは寒邪の凝滞性によるものとなります。

鑑別のポイントとなるのは増悪・緩解行動と脈所見の2つです。

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風寒の頭痛の場合は冷やすと増悪し温めると緩解し、脈浮緊となります。風熱の頭痛は逆に温めると増悪し冷やすと緩解します。脈は浮数です。風湿の頭痛では頭痛以外に頭重感がみられます。脈濡などがみられます。

〈まとめ④〉
・風寒の頭痛は温めると楽になる。脈浮緊。
・風熱の頭痛は冷やすと楽になる。脈浮数。
・風湿は頭痛以外に頭重感。脈濡。


②肝陽上亢による頭痛

ここからは内傷性の頭痛となります。

まず肝陽上亢は肝血虚が発端で起こります。肝に貯蔵されている肝血には肝気を冷ますはたらきがあります。この肝血が不足することにより肝気が過剰となります。

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肝陽上亢も実証に分類されるため、発症は急で疼痛が激しいという特徴があります。

ストレスなどが関わることが多く、頭痛は頭頂部に引っ張られるような掣痛がみられます。頭痛以外には易怒・急躁といったイライラ感や焦燥感が特徴的な症状となります。診察所見では舌質紅、舌苔黄、脈弦

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③痰濁による頭痛

脾の運化機能が失調すると体内に痰濁が形成されます。この痰濁があると昇清の邪魔となり、脳に栄養が運べないため頭痛が起こります。

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津液の病理産物はその性質からさらに分類されます。この辺りの定義がちょっとややこしいのですが、痰でも飲でも湿でも全て流れが悪くなったものと考えてみてください。

この痰濁による頭痛は若干風湿と似ています。脳に栄養が昇らないため頭がぼんやりするというのも特徴的な症状です。診察所見は舌苔白膩、脈滑となります。

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④瘀血による頭痛

外傷や長患い(久病)により、血が滞ると瘀血が発生します。血は脳を栄養する生理物質でもあるため、瘀血の発生は脳に栄養を送れないことを意味します。

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瘀血の頭痛の特徴は刺痛(鋭痛)・固定痛・夜間痛などです。検査所見では舌質紫暗、舌下静脈怒張、脈濇となります。

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⑤腎虚による頭痛

上記したように腎精は髄となります。さらには髄が集まり脳を形成します。  加齢などが原因で腎精が不足すると脳(髄海)が空虚になるため頭痛が出ると考えられています。

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今までの頭痛と異なり、ここからは虚証の頭痛となります。そのため発病はゆっくりで疼痛も我慢できる程度の隠痛がみられます。また、疲労や動くと悪化するというのも虚証の特徴です。

頭痛以外に耳鳴り、腰膝酸軟といった症状もみられます。検査所見は陰虚に進行すれば舌質紅、舌苔少、脈細数。腎虚なら脈弱または虚で尺脈無力となります。

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⑥気血両虚による頭痛

後天の生理物質は脾によって生み出されます。過労や飲食不節により脾が失調すると、気血ともに不足するようになります。気も血も頭部を栄養するため、栄養が足らなくなったり送ることができなくなると頭痛がみられるようになります。

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上記した腎虚と同じく虚証であるため、発症は緩慢かつ疼痛は弱いという特徴があります。

脾虚によって起こり気血の不足となるため、頭痛以外では食欲不振・倦怠感・自汗などの症状が併発します。検査所見では舌苔白、脈細弱になります。

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〈まとめ⑤〉
・肝陽上亢の頭痛は主にストレスなどで起こり、急躁や易怒を併発。脈弦。
・痰濁の頭痛は津液代謝不全で起こり、頭がぼんやりする。舌苔白𧸐。
・瘀血の頭痛は循環不全で起こり、刺痛や固定痛がみられる。脈濇。
・腎虚の頭痛は主に加齢などで起こり、腰膝酸軟や耳鳴りを併発。尺脈無力。
・気血両虚の頭痛は過労などで起こり、気虚や血虚の症状を併発。脈細弱。


5、東洋医学的治療

頭痛の治療には遠道刺がよく出題されます。遠道刺は病が身体上部にあるとき、下腿にある下合穴に毫鍼を使用して治療する、いわば遠隔治療です。

この遠道刺を行う際に、頭部各部位に関わる経絡を理解する必要があります。

前頭部や額には陽明経頭頂部には厥陰経後頭部や後頸部には太陽経側頭部には少陽経がそれぞれ関わります。

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この他にも、頭が重く締め付けらるような頭痛なら太陰経下から突き上げるような頭痛なら少陰経という考え方もあります。恐らく選択肢には入りますが、問題としては出題されないと思うので、知識程度で覚えておきましょう。

下合穴は経絡経穴概論で学習しますが、一応復習しましょう。下合穴自体は六腑の病のときに用いるため全部で6穴あります。

胆は陽陵泉、小腸は下巨虚、胃は足三里、大腸は上巨虚、膀胱は委中、三焦は委陽となっています。

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とくに小腸・胃・大腸の下合穴は胃経上にあるため、取穴の位置に注意が必要です。

また、問題文によっては下合穴が出ないこともあるので気をつけましょう。

例えば『次の患者の治療に選択する経穴で適切なものはどれか。「33歳女性。主訴は頭痛。一週間前から前頭部が痛む。」』

という問題文を読み、前頭部だから陽明経で足三里だと決めていくと選択肢に足三里がないこともあります。あくまでも「下合穴を用いる治療では~」や「遠道刺をおこなう場合~」となっているときだけです。陽明経は手にもあるので大腸経も関与します。知識が増えるとよくあることなのでお気を付けください。

〈まとめ⑥〉
・前頭部は陽明経、頭頂部は厥陰経、後頭部は太陽経、側頭部は少陽経。
・遠道刺は基本的に下合穴×毫鍼。
・下合穴は六腑の病のときに用いる。
・遠道刺は病が上にあるときの刺法。
・胆は陽陵泉、小腸は下巨虚、胃は足三里、大腸は上巨虚、膀胱は委中、三焦は委陽。


6、現代医学的観点

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現代医学的に治療適応となる頭痛は緊張性頭痛と偏頭痛になります。緊張性頭痛では原因となる筋の緊張緩和を、偏頭痛では浅側頭動脈の血管調整を目的に治療します。

後頭神経痛も程度によっては治療適応となり、原因となる神経に対し神経ブロックを行います。

治療不適応や注意が必要(レッドフラッグ)な頭痛として眼症状を伴うものは緑内障脳出血、発症が急で時間とともに頭痛が増悪するものは脳腫瘍や脳出血、嘔吐を伴うものは脳圧亢進症などがあります。

〈まとめ⑦〉
・治療適応となるのは緊張性頭痛、偏頭痛、後頭神経痛。
・治療不適応となるのは脳出血、緑内障、脳腫瘍、脳圧亢進症など。

①筋緊張性頭痛

上記したように筋緊張が原因で起こる非拍動性の頭痛です。この問題が出題されるときに多いのが、原因となる筋と関連経穴です。

首の後ろにある筋ではどの筋が出てもおかしくないのですが、なかでも後頭筋がよく出題されます。もし筋と経穴の組み合わせが苦手であれば、この辺りからコツコツ教科書内を探してまとめた方が良いと思います。

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②偏頭痛

この頭痛は血管拡張により起こる拍動性の頭痛です。本記事では非拍動性が緊張性頭痛、拍動性が偏頭痛にしていますが、偏頭痛は前駆症状が鑑別ポイントでもあるため臨床医学各論で把握しておくと良いと思います。

なかでも浅側頭動脈がよく出題されているため、動脈拍動部やその近傍にある経穴で治療を行います。

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偏頭痛はマッサージ禁忌の症状であることも覚えておきましょう。

③後頭神経痛

むちうちや頸椎疾患などで後頭神経痛はみられます。

後頭部痛では大後頭神経、側頭部では小後頭神経がそれぞれ原因となります。これは経絡経穴概論の教科書内にも関連経穴が記載されているため、ざっくりでも良いので関連する経絡や経穴を覚えておきましょう。(例えば完骨穴は小後頭神経と関連しており、胆経がそのエリアと関わります。)

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本当に現代医学的観点のポイントは国家試験対策用のため、あまり詳しく書きませんでしたが、適応・不適応の鑑別と関連する経絡経穴は東洋医学臨床論以上に臨床医学各論や経絡経穴概論で見直していただきたく思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。下に国家試験対策&確認用の問題と解説を載せていますので、ぜひ挑戦してみてください。

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