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バルカン地方のお酒ラキア

去年の四月末はちょうどモンテネグロにいた。友達が住んでいるので、イースター休暇に合わせて小旅行をしたのであった。ブダペストから首都のポドゴリツァまでは直行便が飛んでおり、飛行機で一時間ほどであった。

友達の故郷ニクシッチまではさらに一時間ほど電車に乗らなければならない。空港に着くと友達が迎えに来てくれていて、友達の呼んだタクシーに乗り込み鉄道駅まで移動する。

鉄道駅に着くとどうも鉄道が止まっているようであった。友達が窓口に聞きに行くと、なぜかわからないが止まっているとのこと。そもそも一時間か二時間に一本しか来ないので、次の電車がいつにくるのか(くるのかどうかすら)わからない。首都なのに…と思いながらこれが人生初のバルカン旅行の始まりだった。

そのうち代替バスが来るというので、鉄道駅周辺で待つ事にする。友達は特に驚く事もなく「モンテネグロでは休日だから、雪が降ったからという理由で勝手に運休になったりする」と教えてくれる。同じように驚く事なくバスを待っている他のモンテネグロ人を見つける。みんなお喋りなようで、私たちを見かけた途端、どこから来たのかと話しかけてくる。

私が日本から来たということを伝えると、みんな面白がって今の心境を聞いてくる。友達によるとモンテネグロには「電車が遅れると日本人が自殺する」みたいなジョーク(?)があるらしく、奇しくもその状況に立ち会った日本人の私がどう思うのか気になるようであった。

結局電車はやってきて、なんだかんだ予定通りにニクシッチに着く。色々街を見回った後、夕方は近くの湖に行く事にした。美味しい魚が食べる小屋があるとのことだったが、残念ながら着いた頃には閉まっていた(Googleによればまだ営業時間だったのに)。

せっかくなので湖を見ながら和んでいると、店の人が出てきて「ラキヤを飲んでいくかい?」と聞いて自家製のラキヤを出してくれる。ラキヤはバルカン地方で飲まれている果物の蒸留酒である。アルコール度数が強く(40%以上)、純粋なものは水のように透明で色のついてないお酒である。

このお酒、ハンガリーではパーリンカと呼ばれイタリアではグラッパと呼ばれるものである。多少使われる果物や製法は異なるだろうが、さすが陸続きのヨーロッパなだけあって、似たようなものが各地で見られるのは面白い。

ラキヤは万能の酒のようで、健康でも飲むし、体調が悪くても飲むし、楽しくても、悲しくても飲む。とにかくバルカンの生活とラキヤ切っても切れない関係のようであった。

電車が遅れようが、お店が閉まっていようが、その後も予想外の出来事が多かったが、急ぐことなくラキヤを飲んで待っていれば何事も解決している。最近は待つことが多いので、なんとなくモンテネグロのことを思い出した今日この頃であった。