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いつでも持ち歩ける匂い

ヨーロッパに移り住むことになって、諸々の事情で最初はイギリス、今はハンガリー、そして来年からはオーストリアに住むことになりそうだ。同じヨーロッパ内とはいえ文化も言葉も全く違う国を移動するのはそんなに容易くない。

日本と異なって、ヨーロッパで家を借りる場合には家具付きの物件が多い。入居日から何の準備をせずとも生活できるので便利だが、昨日までと全く違う家具に囲まれて暮らすのはなんだか少しおかしな感じがする。

家具付きの家にある家具というのは私のために揃えられたものではなく、元々その部屋の主(大家さん)が使っていた物をそのまま使っているか、あるいは最初は全て新品で揃えてあったとしても、何世代も様々な宿主に使用されてきたもので、要するにそれぞれの家具に私以外の誰かの痕跡があるということである。

私はソファや電子レンジとお話ができるわけではないので、機能性だけ考えると(壊れてない限り)新しかろうが古かろうがさほど問題ないが、自分は「初めて」の空間にも関わらず、長年使用されてきたものに囲まれるのはなんだか変な感じだ。自分の家なのに、まるで誰かの家にお邪魔したような感覚である(実際私以前には違う人が住んでいたわけだから、それはそれで正しいのだが)。

そんなとき、そんな空間をすこし自分寄りに変えてくれるものがある。アロマキャンドルだ。日本にいる時はあまりありがたみを感じたことはなかったが、今は常に自分のお気に入りのキャンドルを持ち歩いて、落ち着かない時などに焚いてみたりする。ゆらゆらと揺れる火をみているだけでも楽しい。

今は使っているのはブダペストのお花屋さんplanteで見つけたイギリス・バーミンガムの(ややこしい)honestというところのアロマキャンドル。なるべく自然なものだけを使ってオイルやソープなどスキンケア商品を売りにしているお店のようだ。

キャンドルは色んな匂いがあるが、私は"SMAKEY OAK(燻製したオークの木)"、"EUCALYPTUS LEAF(ユーカリの葉)"、"AUTUMN FIG(秋のイチジク)"の三つの香りを使っている。

持ち歩ける香りというと香水が簡単だが、香水は基本的に自分の身体に纏うものがキャンドルの匂いは空間に彩りを与える。香水よりも匂いが控えめで消してしまうと数時間で匂いは消えてしまうが、それぐらい仄かなのが身体も心もリラックスできて良い。

一般的な香水はあまり好きではないので使わないが、唯一日本にいる時から持ち歩いているのはRomanzaの練り香水(Neriko-san)である。香りにはあまり詳しくないがおそらくネロリの香りがすっきりとして、甘くないのが長くつけていられる特徴なのかもしれない。

これは小さいし、機内持ち込みでも液体として見なされない(見なされたとしても100ml以下)なので、気軽にどこでも持ち歩ける。匂いは形がないし永遠に残ることはないけど一番心を少し軽くしてくれる気がして、最近ではお守りのような存在だ。