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ハンガリー名物ユダヤ人のケーキ

ハンガリーはカトリックの国でほとんどの人が(一応)キリスト教信者だが、歴史を振り返れば様々な宗教の人々が首都のブダペストを中心として住んでいたことがわかる。

ブダペストの街中を歩けば大きなシナゴーグが目に付く。そこにはユニークな壁アートもあって面白いのだが、ハンガリーとユダヤの関係は特に第二次世界大戦中の負の側面が語られること多く、観光地でも恐怖の館や死者の靴のモニュメントなどが有名である。何となく触れづらい話題で日常的には話すことはあまりない。

しかしそんな教科書的な歴史はさておき、ハンガリーの日常には切っても切れないユダヤの文化がある。その一つは街中のカフェやお菓子屋さんで見かけるフロードニ(Flódni)というケーキだ。

このケーキは伝統的なユダヤ人のケーキで、特にハンガリー(ブダペスト)で発展したものだと言われている。一般的には薄い生地で五層のレイヤーが作られ、りんご・くるみ・ポッピーシード・プラムジャムで埋められている。クリスマスに食べるベイグリというお菓子にも共通だが、ハンガリーではよくポッピーシード(ケシの実)が使われることが多く、象徴のようにも感じる。味付けにはラム酒や白ワインなどを使われているようだ。

味はというとこれだけ色んな材料が使われているので一言では形容し難い。そういう一見わからない「難しさ」や「複雑さ」も歴史の流れを通して伝わってきたものだろうか。日本人の感覚からするとちょっと甘ったるいと思うが、コーヒーと一緒にいただけばちょうど良い(試したことはないがカルダモン入りのコーヒーなどと相性が良さそうだ)。くるみが独特の食感を与え、ナッツ入りのお菓子というのがどことなく中東の記憶を思い出すような感じもする。

フランスや日本のケーキと比べるといかにも精巧そうな感じはしないのだが、隣国オーストリアの名物ザッハトルテ同様、このフロードニも時間と手間のかかるお菓子のようだ。今は街中のカフェも閉まって日常からお菓子が消えてしまったが、街に日常が戻ったらまたこの「難しい」お菓子を食べに行きたい。