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雑という概念

好きなことの話を聞かれると雑貨のことを話したいと思うのだが、雑貨という言葉に相当する訳語は英語にないようである。このため、現在私の住んでいる欧州の人に説明する時には、食器とか文具とかのように例をあげて説明するのだが、それに限定したいわけでもなく、あえて明記したくないから雑貨と言いたいわけで、その言葉がないのは不便だなぁと常々感じる。一応"miscellaneous goods"という訳はあるようだが、これを言っても雑貨のことが伝わるかは怪しい。

miscellaneous
consisting of a mixture of various things that are not usually connected with each other

Cambridge Dictionary

訳されることなくそのまま英語で使われている日本語はたくさんある。侘び寂びとか過労死とか、雑貨もその一つだろう。とはいえ認知度は低いので、Zakkaと言ったところで理解してくれる人はまずいない。訳せない理由は概念がそもそもないので対応語がなく、既存の言葉で説明しきれないので、それだったら元の言語をまるごと使おうとなると言ったところだろうか。怠惰なのかもしれないが、変な訳語をつけるよりはマシなのかもしれない。

雑貨に限らず「雑」のつく日本語は訳しにくい気がする。雑談、雑念、雑記、雑魚…そもそも雑って一体何なんだと思い辞書を引いてみると、色んな意味があってそこがまた雑らしいのだが、要するに複数のものが混じり合って純粋じゃない様子のようである。またいいかげんな感じ。雑貨をはじめとして自分はどうも雑なものに惹かれるようで、日常のふとした時に自分好みの「雑」を見つけると途端にウキウキしてしまうものである。

もともと私が雑貨好きになるきっかけだった東欧雑貨も、どことなく東の混沌とした時代を過ごした食器や紙モノに触れて感じとったことが大きいと思う。東欧にはハンガリーに住んだだけであるが、その他チェコやスロバキアなど周辺国を訪れた感じ、今もその名残がある。さらにもっと原型的な雑があるのは旧ユーゴスラビア圏と思うのだが、旅行で数カ国訪れただけであるが、やはり西欧にはない混沌が私をワクワクさせるのである。

今住んでいるオランダではまだどうも雑があまり見当たらない。街を見渡しても、道は綺麗で車・自転車・歩行者の棲み分けがきちんとされているし、家も似たようなデザインがずらっと並んでいることが多く画一的であり、整理されているなぁという印象を受ける。外国人としては移民のプロセスもわかりやすく、移住後何をしたら良いのかご丁寧にパンフレットまでいただけるような状態である。過去三カ国ヨーロッパの国に住んだことがあるが、ここまで透明性の高い移住の手続きは初めてである。

一般的に雑という言葉はネガティブな印象があるようで、あまり好まれないようである。できるだけ雑は取り除くというのが、一般的には好ましいことなのだろう。しかし自分は雑の中にも美があると思っていて、むしろ雑から偶発的に現れる美を発見することを待ち望んでいる。和歌・俳諧の分類の一としてもという言葉が使われるようで、はっきりした部類(例えば歌の内容(四季や恋)など)のどれにもはいらないものをまとめた部類のことを指すようである。まとめられないものをまとめようとするのもなんだか矛盾な気がするが、まぁ分類しない限りそのことについて話しようもないので、しょうがない。日本文化というと大袈裟かもしれないが、雑歌や雑貨に見られるように、割と日本においては雑を許容してあえて置いておくということをしている部分があるように思う。

こんな感じで雑に雑について書いてみた。最近近所を歩いていて雑草の生えっぱなしになっているところを見つけた。人間が意図的に植えたわけでもないのに、緑、黄色、青、白など色が交わってとても美しいのである。雑が嫌いな(?)オランダ人もここに美を見出していてこのままなのだろうか…ある日誰かがきて雑草を取り除いてチューリップなんかに植え替えないことを願うのみである。