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【朗読】牛乳

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小学二年生。

私はこの頃からマジョリティを感じていた。

女児向けアニメを好きなのは私だけ、勉強は誰よりも嫌いだし、男子にはからかわれる。

食べるのも走るのも遅く、明確に競争が行われている小学校では少し生きづらかった。


 この頃、一つだけ悲しかった出来事を覚えている。

それは、給食の時間だった。

私の小学校では毎度200mlの牛乳が出されていた。

大抵の牛乳パックには、開け口の反対側に小さく数字が振ってある。

 小学二年生の私やクラスメイトは、この数字が1に近ければ近いほどいいものだと思い込み、誰もが1番の牛乳を欲しがった。

私も、自分から「欲しい」とは言わなかったが、一度でいいから1番の牛乳を飲んでみたかった。皆が求めるそれを、私も求めたのだ。

 しかし、私はマジョリティ。クラスで浮いている、からかいのマト。給食当番の男の子には、いつも5番や6番の牛乳を回されていた。

ある時、私はどうしても1番の牛乳が欲しかった。

いつものように6番の牛乳が回ってきたとき、私は「1番の物と交換してほしい」と名乗り出た。

給食当番の男の子はニヤニヤと笑って5番の牛乳を差しだす。

 私は悲しくなって、先生に言いつけた。

だが、たかが牛乳。その程度では先生は動いてくれない。

「その番号で、牛乳の中身が変わるの?」と、先生は私を突き放した。

 私は何も言えなくなり、それからもずっと5番や6番の牛乳を飲み続けた。そして次第に牛乳が嫌いになり、近くの席の子にあげるようになった。


 いま思い返せば、私が悲しかったのは1番の牛乳をもらえなかったことではなかったと思う。

私が悲しかったのは、牛乳の番号によって優劣を付けられ、そこに明確な悪意と差別意識を持たれていたことだったのだ。

「お前が1番を受け取る資格はない」

 はっきりと分かっていなくとも、それをなんとなく感じ取った私は、牛乳を通して差別されていることを先生に訴えたのに。

先生に突き放された私は、そもそもの勉強嫌いもあって、先生に対して苦手意識を抱くようになった。

「先生は味方じゃない」

たった牛乳1つで、私はそう思ってしまったのだった。

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