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【声劇】花と散る(3人用)

 
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♂:♀=2:1
約20 分~30分

上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

【声劇 花と散る】

逢花=♀ 名前は「おうか」 桜の人魚。犀の幼馴染。
犀=♂ 名前は「せい」 金木犀の人魚。逢花の幼馴染。
先生=♂ クローバーの人魚と兼ね役。 先生自身クローバーの人魚であり、学校で人魚の掟を教えている。

***

先生:「皆さん、今日のお花の調子はいかがですか?」

逢花:「元気です!」

先生:「今日は、僕達人魚のおきてをお勉強しましょう。皆さんが知っている人魚のおきては何かありますか?」

逢花:「はーい!はいはーい!」

先生:「では、逢花おうかさん」

逢花:「うろこである花びらを、散らさないことです!」

先生:「正解です。僕達、花の人魚は、それぞれ様々な種類の花がうろこに咲いています。この花びらが散ってしまうと、年齢や健康状態に関係なく死んでしまいます。これが、人魚のおきて第2条ですね。それでは、第1条は何でしょう」

逢花:「……」

先生:「皆さんきっと知っていますよ。当たり前のことだから、おきてであることを知らないだけかもしれませんね」

逢花:「……」

先生:「正解は、人間と関わらないことです。100年前に起こった『紫陽花あじさいの人魚絶滅事件』は知っていますね?彼らが海へ帰って来れなかったのは、人間と関わりを持ち、人間に殺されてしまったからです。では、第3条は……__」
 
***
 
逢花:「うん、また明日ね!ばいばーい」

犀:「…………」

逢花:「あれ、あそこにいるのは……」

犀:「『海藻の 木々の隙間の 木漏れ日よ あぁ日の元で 花と散れたら』」

逢花:「あの人間の服を着ているのは……金木犀のせいくん!」

犀:「……!?……あぁ、桜の逢花おうか。驚かさないでよ」

逢花:「今の何!?すごく不思議な言葉!」

犀:「今のは……短歌だよ」

逢花:「タン……カ?」

犀:「知らなくていいよ」

逢花:「えーっ!?教えてよ!」

犀:「君みたいな優等生が、僕なんかと話していていいのか?」

逢花:「せいくんが授業をサボっていることと、私が優等生なことは関係ないですぅー。それに、私達は幼なじみでしょ?だから、別にいいのーっ。それより、今のタンカ?とか言うの、一体なんなの?教えて?」

犀:「優等生なのは自負じふしているのか……。はぁ、分かったよ。“幼なじみ”の君に、特別に教えてあげる。短歌っていうのは、57577のリズムで作る短い詩のこと。自分の気持ちを31文字に込めるんだ」

逢花:「へぇー!凄いね、それ、私にも出来る?」

犀:「出来ると思う。でも、しない方がいい」

逢花:「えぇー!?なんでなんで!……あ、分かった!また人間が捨てた本を読んだでしょ!だめだぞー!クローバーの人魚に怒られるぞー!」

犀:「ふん、おきてとやらを遵守じゅんしゅさせる規律の一族か。そんな奴ら、怖くないね。そもそも、僕はこんな場所、早く抜け出したいんだよ。優等生の君には分からないかも知れないけど」

逢花:「なんで!だってここは楽しいよ?ゆらゆらとした光を浴びて、歌ったり、お話読んだり!」

犀:「くだらないね。逢花おうか、君はもう16だろ?それなのに、学校ではキンダーガーデンレベルの授業ばかり。訳の分からないおきてに縛られて、早く泳ぐことも許されない。君はどうしてあんな場所に居られるんだ?」

逢花:「楽しいから!面白いお話も読めるし、景色も綺麗!」

犀:「じゃあ、面白いお話が読めて、綺麗な景色が見られるなら、君はどこにでも行けるってこと?」

逢花:「誰かが隣にいてくれるならね。例えば……せいとか」

犀:「ッ……。そう、それじゃあ、秘密の場所に連れて行ってあげるよ」

先生:「(被せて)コラー!何してるの!はやく帰らないと、暗くなってからの活動はお花に毒でしょう!」

逢花:「わ!ごめんなさい!」

犀:「……」

先生:「全く、せいくん。逢花おうかさんを引き止めちゃダメでしょう?はやく帰りなさい」

逢花:「先生、ちが……」

犀:「(遮って)あぁ、すみません。じゃ、さようなら」

逢花:「ちょっと、せいくんー!」

先生:「……」
 
***
 
逢花:「ちょっと、せいくん!待ってよ、ねぇ、ねぇってば!」

犀:「うるさい!だから言ったのに、僕なんかと話すから!」

逢花:「違うよ、先生きっと勘違いしちゃったんだよ!先生はクローバーの人魚だから、人間の服を着てるせいくんのことを勘違いしちゃうんだよ!」

犀:「あぁ、クローバーの人魚ね。クローバーの人魚様が僕を悪だと認識したなら、間違いなく僕が悪なんだろうね!」

逢花:「どうしてそんなこと言うの……。きっと、話せば分かってくれるよ。ちゃんとお話しすれば、きっと、それこそ人間とだって分かり合えるよ?」

犀:「……ッ、忘れたの?僕のお母さんは、若い頃人間に助けられた。たったそれだけで処刑されたんだよ?クローバーの人魚に乱暴されて、暗闇で1人、ゆっくり花を枯らして死んだんだ。そんな奴らに、僕の言葉が通じるもんか!」

逢花:「……ごめん」

犀:「……いや、謝らなくていいよ。悪いのは逢花おうかじゃない。今日はもう帰ろう」

逢花:「……うん」
 
***
 
先生:「逢花おうかさん、ちょっと 」

逢花:「……?はい」

先生:「昨日、どうしてせいくんと一緒にいたの?」

逢花:「……え?」

先生:「いや、ただ気になっただけなんだけど……ほら、逢花おうかさんは優秀だし、せいくんとは反対でしょう?なのに、どうしてあんなに楽しそうに話していたのかなって」

逢花:「えっと、実は私達幼なじみなんです。彼は物知りだし、一緒にいて楽しいです。根はいい子なんですよ?」

先生:「そう、仲が良いのは良いことだね。でも、彼はもしかしたらおきてを破っているかも知れないんだ。だから、これからはあまり近寄らない方がいいかも……ね?」

逢花:「も、もし、おきてを破っていたら、せいくんはどうなるんですか?」

先生:「……知らなくていいよ」

逢花:「そんな……。先生、せいくんは本当にいい子なんです!人間の服を着ているけれど、おきてを破ることはしないはず。どうか、話をしてあげてください」

先生:「逢花おうかさん、クローバーの人魚は規律の人魚だ。なんの証拠も無しに人魚を投獄することはないよ。ただ、彼がおきてを破っていない、そしてこれから破る可能性がない、そう言った証明がなければ、こちらも警戒を解けないんだ」

逢花:「その証明のために、彼と一度、話をしてください。話し合いをすれば、どんな生き物同士でもきっと分かり合えます。それこそ、人間とだって」

先生:「逢花おうかさん」

逢花:「……っ!」

先生:「その発言はいただけないね。優等生の君が、らしくない。先生が他のクローバーの人魚なら、迷わず君を投獄したかも知れないよ?」

逢花:「せん……せ、い……」

先生:「話し合いは確かに大切。だけど、せいくんとお話をすれば、彼はその話し合いによって投獄されてしまうかもしれないね?」

逢花:「……」

先生:「逢花おうかさん、先生は君に期待しているから言っているんだよ。悪い事は言わない。自分の身のためにも、傷つく前に彼の元を去って。いつまでも、優等生の逢花おうかさんでいて、ね?」

逢花:「……わかりました」
 
***
 
犀:「『花香る 黄金こがねの季節と 揺れる木々』 ……」

逢花:「……『狂う桜は 君の元へ散る』」

犀:「……ッ!?逢花おうか、どうして短歌を……」

逢花:「先生がね、もうせいくんとは会うなって」

犀:「……そう。それじゃあ、もうここへは……」

逢花:「やだ」

犀:「逢花おうか……?」

逢花:「私、せいくんと……せいと一緒にいたい」

犀:「……ダメだよ。僕みたいなやつ、君の邪魔になるだけだ」

逢花:「そんなことない。私、せいがいなきゃどんな場所もつまらない」

犀:「……きっと、僕は投獄されるんだよ。春と秋、花も季節も反対だ。だから僕らは離れなきゃだよ」

逢花:「桜なら、秋にだって花が咲く。離れるのなら、狂い咲きたい」

犀:「逢花おうか……」

逢花:「せい……お願い。私を悪い子にして」

犀:「……分かった。逢花おうか、今から秘密の場所に行こう。危険な事が起きるかも知れないけど、その時は僕が逢花おうかを守るよ」

逢花:「うん……ありがとう」

犀:「それじゃあ、いこう」
 
***
 
逢花:「せい、もう暗くなっちゃったよ?ずっと海底を泳いでいるけど、秘密の場所って海の底にあるの?」

犀:「いいや、その逆さ。暗い方が好都合。逢花おうか、上に上がるよ」

逢花:「それって……」

犀:「海の上に顔を出すのさ!ほら、行くよ!」

逢花:「でもそれって、わわっ!」

犀:「ぷはっ……逢花おうか、見て!あれが人間の住む島だよ!」

逢花:「ぷはっ……せい、これっておきて違反じゃ……。わぁっ!綺麗!」

犀:「光がキラキラしてて綺麗だろ?それに、ほら、上を見てみて!」

逢花:「わぁ……!小さな光がいっぱい!せい、あれはなに?上にも人間が住んでいるの?」

犀:「ふふ、違うよ。上に広がっているのは、空。あの小さな光は、星。向こうの島では人間たちが生活をしていて、僕たちのうろこと同じ種類の花が木に咲くんだ」

逢花:「すごい……楽しそう!」

犀:「だから僕は海の中が嫌いなんだ。出来ることなら、僕はこの空を眺めながら死にたい。逢花おうか、知ってる?明るくなったら、太陽が出てきて、この夜空を照らすんだ」
 
逢花:「太陽……私も見てみたいなぁ。せい、今度またここにつれてきて?私、もっと外のことが知りたい!」

犀:「逢花おうか、君さえ良ければ外の世界に住もう。川を登って、遠くの山で……どう、かな」

逢花:「でも、おきてが……。外に出たら、きっとクローバーの人魚が追いかけてくるよ?」

犀:「遠くに行けば大丈夫さ!僕たちのうろこはクローバーより頑丈のはずだから!」

逢花:「せい……」

犀:「逢花おうか……」
 
先生:「うーん、素敵だねぇ」
 
犀:「!?」

逢花:「せ、先生!?」

先生:「君たち、人魚のおきて第3条『水深100尋ひろより上へ出てはならない』を知らないのかな?」

犀:「……ッ」

先生:「知らないはずはない。せいくんはともかく、逢花おうかさんは、お勉強したんだから」

逢花:「えと……あの……」

先生:「さて、ここへ来ようと誘ったのはどっちの悪い子かな?」

犀:「っ……」

逢花:「それは……」

犀:「僕、です」

逢花:「せい!」

犀:「僕が彼女を無理矢理ここに連れてきました」

先生:「そう……おきて破りは、母親から受け継いだのかな?」

犀:「ッ……!」

先生:「おっと、動くな。せい、君には逮捕状が出ているんだよ」

逢花:「逮捕状……どうして」

先生:「彼の母親は、どうやら人間とちぎりを交わしていたらしい。彼女が人間の元にいたのは2年間、君の母親は君を産んでから投獄された。この意味が……優等生だった逢花おうかさんにはわかるかな?」

逢花:「せいは……人と人魚の……ハーフってこと?」

先生:「正解だ。クローバーの人魚で審議しんぎをして、この度正式に『存在自体がおきてに反している』と審判しんぱんくだった」

犀:「……ッ」

逢花:「存在を否定するだなんて……」

先生:「さて、せいくん。僕が黙っていれば、逮捕するのは君だけで済むのだけれど……君は、僕が君の愛しい彼女に触れることを許してくれるかな?」

逢花:「……やだ、近づかないで」

犀:「……ッ」

先生:「彼女の命は、僕の進言しんげんによって左右される。せいくん……君は、どちらを選ぶ?」

逢花:「せい……私、やだよ……」

犀:「……逢花おうか

逢花:「せい……」

犀:「先生、彼女をよろしくお願いします」

逢花:「せい……!」

先生:「君も馬鹿ではなかったようだね。それじゃあ、せいくん……花と散れ」

犀:「ッ……!」

逢花:「せい!」

先生:「大丈夫さ、下にいたクローバーの人魚に連れて行かれただけ。僕たちも下に降りようか」

逢花:「……っ、触らないで」

先生:「逢花おうか

逢花:「きゃっ」

先生:「逢花おうか、どうか僕を怒らせないで。どうか、僕だけの優等生でいて」

逢花:「……っ」

先生:「いい子だ。さぁ、行こう」
 
***
 
犀:「暗い……母さんはここで死んだのか。逢花おうか……逢花おうかは僕を許してくれないだろうな。いや、それでもいいんだ。逢花おうかが生きてくれるなら。彼女は本来、僕と交わらない存在だったのだから。僕はせめて、君を想って死ぬよ。
秋は枯れ、季節は君へ向け巡る。花が落ちたら逢いも叶わず……」
 
***
 
先生:「逢花おうか、君は僕の忠告を聞かず、おきてを破った。お仕置きだ。もう外に出ちゃいけないよ?」 

逢花:「……」

先生:「逢花おうか、返事は?」

逢花:「……」

先生:「逢花おうか、彼のことは忘れるんだ。彼もそれを願っている。さぁ、おいで。部屋の環境は整えた。ここで2人、いつまでも共にいよう」

逢花:「……」

先生:「逢花おうか

逢花:「『恋枯らし 心を焦がして 花は咲く 花と散ろうと 愛は終わらじ』」

先生:「ッ……逢花おうか、人間の真似事は辞め……」

逢花:「(遮って)貴方が木枯らしとなってせいの花を落とすなら、私は共に花と散るわ」

先生:「逢花おうか、君はどうやら僕が思っていたほど優等生ではないみたいだ」

逢花:「ごめんなさい。私はもう、悪い子なの」

先生:「もしあの時僕が止めておかなければ、君は紫陽花あじさいの一族と同じ末路を辿たどることになっていた。クローバーの人魚として、当然のことをしたまでだ!」

逢花:「私は生きることにしがみついたりしない。クローバーのようには散れなくとも、せめて自分の思うままに散りたいの。だから……行かせて」

先生:「僕はずっと君を愛していた。それなのに、どうして……」

逢花:「分かるでしょう。人を愛した貴方なら」

先生:「っ……。君が憎い。僕の愛には気が付かない。君こそ僕の木枯らしじゃないか!」

逢花:「……ごめんなさい」

先生:「……行けよ」

逢花:「っ……!」

先生:「行けよ!僕を置いて!そんなに死にたいなら、死ねばいい!僕は一度君を助けた。でも君は死ぬことを選んだ!その事実だけで十分だ!さぁ、行け!」

逢花:「花は散る。しかし季節は巡るもの。どうか貴方は綺麗に咲いて。……先生、今までお世話になりました」

先生:「…………」
 
***
 
(牢獄 犀が1人暗がりにいる)

犀:「……だんだん金木犀の匂いが薄くなってきた。もうそろそろ……かな」

(遠く、檻の外から声が聞こえる)

クローバーの人魚:「こら!何をしている!おい!!!!」

犀:「……?」

クローバーの人魚:「くっ、捕まえたぞ!こんなに花を散らせて!まぁ、いい。どうせ|掟(おきて)違反だ!おい、この女を、もうすぐ処刑のあの人魚の牢獄(ろうごく)へ入れておけ!」

犀:「誰か……来る……」

クローバーの人魚:「ほら!入れ!!!」

逢花:「きゃっ……」

犀:「逢花おうか……?」

クローバーの人魚:「2人仲良く花と散るんだな!」

犀:「逢花おうか!」

逢花:「せい!」

犀:「逢花おうか、どうして……あぁ、花がこんなに……」

逢花:「先生の所から逃げてきたの。どうしても、せいと死にたかった」

犀:「逢花おうか……」

逢花:「こんなになってまで来たんだから、戻れだなんて言わないでよね」

犀:「……はは、言わないよ。言ったって、戻れないだろ?」

逢花:「それもそうだね」

犀:「ねぇ、逢花おうか

逢花:「何?」

犀:「死んだら……僕達はお日様の下に出られるのかな」

逢花:「お日様の下?」

犀:「この前読んだ本に書いてあったんだ。生き物は死ぬと魂が天に昇るって。天って、空のことでしょ?だから、僕達は死んだらお日様の下に出られるのかなって」

逢花:「私、まだ1度も太陽を見たことないや。せい、私に太陽見せてくれる?」

犀:「もちろんだよ。また、秘密の場所に行こう。死んだ後にはおきてなんてない、自由になれるんだ」

逢花:「それって素敵……ふふ、楽しみだなぁ」

クローバーの人魚:「聞こえるか!処刑の時間だ!今からそちらに水流を送る!言い残すことがあれば聞こう!」
 
犀:「言い残すこと……そうだなぁ。
『初恋は 風に包まれ 花と散る』」

逢花:「『日向に微笑み 愛の実りを』」
 
クローバーの人魚:「スイッチを入れろ!」
 
犀:「逢花おうか……」

逢花:「せい……」

犀:「愛してる」 

逢花:「愛してる」


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