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この場所、この曲

芸術の秋とは日本でもよく言いますがメルボルンもまた秋から冬に移り変わるにつれ芸術の街としての色が強くなってくるように思えます。
昼間にコーヒーを飲んでから、または夜にディナーを食べて上着を羽織ってショールを巻いてコンサート場所にぶらりと歩くのにいい季節。サッカーの方で書いたみたいに会場周りで散歩できるところ(そしてご飯食べられるとこ)をまとめて紹介しても面白いかな、と思ったのですがメルボルン周りのコンサート場所は似たようなエリアに集中しているのでなかなかバリエーションを工夫するのが難しい。

でもサッカーで「このスタジアムでこの試合を観た時」といった思い出が語られるのと同じ様にそれぞれコンサート会場にも弾いた・聴いた経験から特につながりが強い曲があります。その結びつきをベースにメルボルンのコンサート場所を紹介しようと考えてみたら音楽やホールの性質・雰囲気だけでなく当時の天候や季節といった思いがけずメルボルン的な要素も思い出に絡んでくることが多いように思えたので、今回はそのアングルからメルボルンでコンサートが聴ける会場をいくつか紹介してみたいと思います。

Hamer Hall(旧Melbourne Concert Hall)

もう20年くらいメル響を筆頭に様々なコンサートを聴きに通ってきた、メルボルンで一番主要なコンサートホール。何回かここで弾く機会もありました。特にZelman Symphonyでショスタコーヴィチの交響曲第13番を弾いたのは自分の人生のなかでも最大級のイベントですが、様々な現代音楽のオケ曲を初めて聴いてワクワクした思い出が多々ある場所でもあります。まだ現代音楽にはまり始めの頃アデスの「Asyla」に出会ったのは強烈な印象で、一番の思い出かもしれません。専用のコンサートホールで地下に潜るように作られている、完全に外界とシャットアウトされる環境でああいう感じの曲に初めて触れるとちょっとだけカルト風味といいますか異質な体験になるのかも。

Sidney Myer Music Bowl

一番最近弾いた場所。メルボルンのシティすぐ外の野音会場です。3月に弾いたコンサートの日は雨降りでしたが基本的に思い描くのはメル響の毎年恒例の無料野音コンサートで、夏の終わりの天気の良い夜に午後6時過ぎの明るい空から終演の頃にはすっかり夜になって、といったイメージ。メルボルンは一番暑い時期でも夜には涼しくなるのでメインの曲の時には若干寒さを覚えながら聴いていることが多く(どうしても学ばない)。Nigel WestlakeとLiorの「Compassion」を聴いたのもそういう状況でした。夜空に月が浮かんでLiorの歌声が幻想的に美しくて、でも足先と首回りは寒くて。次回行く機会にはもっと服持って行きたいです。

Melbourne Town Hall

タウン・ホール=市庁舎という名前の建物ではありますがその大きなホールはオーケストラのコンサートによく使われます。南半球最大のパイプオルガンがあるのでオルガンリサイタルも開催されますし、オケ曲でオルガンパートがあるとここで演奏することも。音もそうですし視覚的なインパクトもすごいです。レスピーギの「ローマの松」なんかはオルガンだけでなくバルコニーに居る金管パートなんかもこの場所にとても合う曲。色んなところから音に包まれる感覚が楽しいです。ただここはトラムが通っている道2本の角にあるため弱音の部分だとトラムの音がほぼ筒抜けで聞こえるのがちょっと難点。あと実はMelbourne Town Hallでの一番の思い出は真面目なコンサートでなくメル響主催のクイズ大会だったり。

Melbourne Recital Centre: Elisabeth Murdoch Hall

Melbourne Recital Centreには大小2つのホールがあり、Elisabeth Murdoch Hallはその大きい方。特に海外からアーティストを呼ぶときはこちらのホールが会場になります。ここでの思い出といえばクロノス・カルテットのコンサートを締めくくったアンコール2曲(「Death is the Road to Awe」「Tusen Tanker」)、そして大学でピアノの先生だったStephen McIntyre先生の生誕70年記念コンサートで先生自身が演奏したシューベルトのピアノソナタ変ロ長調。どっちもほぼ満席のコンサートだったのですが特に後者は(知ってる人周りにたくさん居ましたが)特に人が多かった記憶があってで、通路が少ないホールなので音楽聴きながらも周りの人の存在がやけに気になった覚えが。音響も良いですし木をベースにした曲線デザインも印象に残るのに実際コンサートに行くと「人」を意識する不思議。

Melbourne Recital Centre: Primrose Potter Salon

Melbourne Recital Centreの小さいホール(キャパは通常時100人強くらい)。友人つながりのコンサートではこちらに来ることが多く、その中でもPlexusというトリオはここで様々な作曲家の新曲を初演してきました。室内楽での奏者と聴衆の近さを良い意味で感じることが多い、こじんまりしたというよりは本当に箱状で高さというか深さがあり、時には一種の圧迫感さえ感じるスペース。演奏中の照明なんかもかなり工夫できるようになってます。なのでここでクラムの「Vox Balaenae」を聴いたのは音楽と場所の相性という意味でも特別でした。青い照明にするだけで海の底の気分。もう一度ここで聴きたい曲です。

South Melbourne Town Hall

シティから少し離れたサウスメルボルンの市庁舎兼国立音楽アカデミー(ANAM)の本拠。弾く側としては一時期ユースオケのコンサートで使いました。自然光が高い窓からものすごく入ってきたり時を告げる鐘が聞こえたり、あとフルオケやブラスアンサンブルとかではなかなか難しい音響(クリアさが損なわれるほど響く)が特徴的なコンサート場所で、他の会場より「聴いた思い出<弾いた思い出」の傾向が強いです。メシアンの「トゥーランガリラ交響曲」ラヴェルの「ダフニスとクロエ(全曲)」(どちらもチェレスタで)もここで演奏したのが印象に残ってます。音楽自体の世界観が強い2曲ですが記憶には演奏環境もしっかり染みついていて、その思い出だけでもこのホールが今回紹介した他の会場と比べてどれだけ外界の環境の影響を受けるかを実感します。

結構ありますね。場所的にはもっとあります(曲とか記憶の細かいとこを改めてチェックする必要がありますが)。
メルボルンの観光としてコンサートはありだと思うので音楽のみならずコンサートの会場の魅力もメルボルンの風景・文化の一つとしてもっと紹介してみたいなあという一つの試みでした。また続きをやるかもしれませんしアングルを変えてみるかも。いつかメルボルンにまた海外から気軽に遊びに来れるようになるまで試行錯誤予定です。