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オージー監督群雄割拠の幕開け

相変わらず試合スケジュールに変更などはありながらオーストラリアのサッカー(Aリーグ・Wリーグ)のシーズンは続いています。試合数としてはパース女子以外5試合以上終えたところ。

以前書いたように特に今シーズンAリーグは監督陣の顔ぶれに変化があり、オーストラリア出身の監督が多くを占めるようになりました。コロナ禍の影響ももちろんありますが常にこのAリーグのシステムの中で監督が育っていてトップチームでの機会を待っているということの反映でもあります。

現在の状況をちょっとした数字から、と思ったのですがその前に一つ二つおことわりを。
この記事では基本的に『オーストラリア人のAリーグ監督』の話をするのですがWリーグや他の豪監督の話を引き合いに出したり、あと外国出身の監督でもオーストラリアのシステムの中で監督になった人(例:ヴィクトリー男子・女子の監督)なども広義の「オーストラリアの監督」に含めたりします。そういう細かい定義が色々難しいので数字はあくまでも目安として見てください。

2020/21シーズン、Aリーグは12クラブで構成されています。12人の監督のうち、

・11人がオーストラリアの監督(該当しないのはウェスタン・シドニーのRobinson監督のみ)
・6人が元オーストラリア代表選手
・7人が所属経験のあるクラブの監督に就任(多くがアシスタント、または同クラブのユースや女子の監督を経てAリーグの監督になっています)
・5人が今シーズン初めてトップシーズンを率いる(前シーズン再開後5試合監督だった人達も含む)
・5人が出身地を本拠とするクラブの監督に就任
(ちなみに前シーズン始めから監督が替わったのは12クラブ中8クラブ)

全体的にみて「地産地消」に近い雰囲気がありますね。
そしてほとんどの監督が40代で、平均年齢は43.8歳で年齢の幅は38~50歳。経験値もまあまあ近いですが年齢層はもっと近い。

ちなみにWリーグの方は9クラブの監督全員(ヴィクトリー女子のHopkins氏も広義で含めれば)オーストラリアの監督で、そのうち女性監督が率いているのは2クラブです。監督として一番Wリーグでの試合数が多いのはHopkins氏で先日100試合を達成しました(今やWリーグのみならずAリーグの監督の多くより経験豊富)。

Aリーグ12クラブ、Wリーグ9クラブと書いたとおりオーストラリアのプロサッカーにおける監督としての機会は数がものすごく限られています。今シーズンに向けて大きな動きがありましたが、その中でも例えばパースでアシスタントをやってたFoxe氏のようにトップチームでの監督経験が多少ありながら監督の座に就けなかった人もいます。プロレベルの中で単純にもっと動く余裕があるようにクラブが増えたり2部リーグができるといいのですがいつになるか。そんな状況もあり日本でPostecoglou氏がオーストラリアの指導者を傘下に迎え入れているのはとてもありがたいです。

他のクラブでの事情がどうか分かりませんがメルボルン・ヴィクトリーが今シーズンを迎えるにあたって監督を選ぶ時に「クラブ文化」を重視してBrebner氏に白羽の矢を立てたという経緯があります。なんでも彼が外国人選手としてこちらに来た現役時代から将来監督にと目を付けてクラブに取り込んでいたらしく(予定より多少早くなりましたが)。以前監督だったMuscat氏も似たようなコースをたどっています。
今現役の選手でいうとセントラルコーストのMatt Simonやメルボルンシティ女子のMelissa Barbieriがそれぞれのクラブで「コーチ兼選手」になっていますし、どこでもクラブのレジェンドをいずれ指導者にという動きはおそらく強くなっているんじゃないかなと推測されます。

よく海外で選手としてのキャリアを終えた後海外で指導者としての機会を与えられた豪代表のレジェンドについて「どうしてオーストラリア国内でオファーしないのか」みたいな話が出ますが、そういった国内での道筋やクラブ文化のことを考えると外からの割り込みは難しそう。

世代交代の前にAリーグには何人も経験豊富な良い監督がいましたし、そんな監督の元でアシスタントをしばらく務めた上で今シーズン監督になった人もいます。ただやっぱり経験値は引き継げないな、と思ってしまうのがパースとメルボルンシティあたり。パースは試合結果はまあまあなのですが失点数を見ると「Popovicさんの頃の堅守のパースみたいにはいかないか」と思いますし、メルボルンシティも前任のMombaertsさんの存在が大きかった印象(あと経験値だけじゃなく今の監督とはキャラも随分違う)。Mombaerts氏は歴代のAリーグ外国人監督の中でも特にクラブに大きくポジティブな影響があったという話をよく聞きますし、そういった外国人監督がまた将来リーグに参戦できたら他のクラブのオージー監督にも良さそう。

その分数年前のシドニーは引き継ぎものすごくうまく行きましたね。今豪代表の監督やってるArnold氏からそのアシスタントだったCorica氏に選手とクラブ文化やプレースタイル、財政など含めて極めてシームレスに移行して(しかも現在の状況に先駆けて)そのままタイトルまで獲りましたから(もっと言えばそのCorica氏のアシスタントからウェリントンの監督になったTalay氏も結構スムーズ)。ヴィクトリーのバトンパスも凸凹だらけだったのでうらやましい限りです。

状況に色々差はありますが、Aリーグ各クラブの監督の間に10年も20年も監督経験の差があるわけではないのでどこの監督もこの環境の中で大きく飛躍したいと思っているはず(少なくとも私はBrebner氏が今のタイミングで監督になった&経験豊富なアシスタントを選んだことは大きいと思っています)。
そんなサバイバルの中でそれぞれの監督の特色やスタイルが磨かれてくるのも楽しみ。自分が見える範囲でいえばアデレードのVeart氏が若手中心のスカッドを操り後半で交代枠を使ってどんどん走れる若手を出してエネルギーを注入しながら経験も積ませる傾向がすでにはっきりしています。それで終盤でも結構点獲るんでほんとひやひやします。

現在のAリーグ環境の話を長々としましたがオーストラリアのサッカー監督は今のプロリーグになる前の時代の産物でもあるという事に関係してくるOptusの記事(英語)も一つおまけに。
オーストラリアのサッカー指導者にSydney United(旧称Sydney Croatia)という今はセミプロのクラブの出身者が多いことについて書かれた記事。なぜ最後の余談みたいに紹介したかというとこのクラブがというよりは文化・家族環境や時代も関係あるように思えますし、ひっくるめて単純に「癖の強い個人が癖の強い環境で育ってる」と言えるような側面もなくはないと思うのでちょっと参考資料として。

このクラブがシドニー本拠だからというのもありますが、この記事の登場人物にはメルボルン・ヴィクトリーの関係者の名前がほとんどありません。メルボルンにはメルボルンでまた違った系譜と文化がありそうですがそれはまた勉強していつか後日の話にできれば。
そしてその事が文章にできるようになる頃にはAリーグの群雄割拠でもっと戦ってこれぞメルボルン・ヴィクトリーのクラブ文化で伝統でBrebner氏が実現したいアタッキング・フットボール!というのを添えて話せる状況になってることを願っています。