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Aリーグオールスター vs FCバルセロナの様々な思い出と後に残る(かもしれない)もの

マッチレポートにしてはだいぶ遅刻じゃないか、と思われるタイミングですがちょっと前にあった試合の記事をこれを含めて2つほど書くつもりでいます。
正直私だって当時の興奮や感情やらをフレッシュに感じながらまとめたいのですがこの2つの試合は色々な意味でインパクトがものすごく大きかったこともあって余韻をなるべく長引かせる意図もあり各公式が色んな情報を後出ししたのでそれが落ち着くのを待って記事を書くことにしました。

2つの試合のうち最初に開催された「Aリーグオールスター vs FCバルセロナ」は5月25日開催だったのでもう1ヶ月以上前の話になります。
当時FCバルセロナ(バルサ)側はオーストラリア(のシドニー)にシーズン終わりで試合しに行くよ、みたいな感じでしかもリーガ最終節直後に超短期間の弾丸ツアーという形だったため、向こうでは「オーストラリアに行く」部分以外に情報が宣伝されることもなく、試合は放送・ツイートで経過実況はありましたがオーストラリアの外では「いつもと違う時間になんか知らないけど試合やってる」くらいの反応でした。
バルサ公式の試合記録やハイライトも上がってますが向こうとしたらなんでもない試合だったことは間違いないので背景情報とかは全くといっていいほど残っていません。
ただオーストラリア側、というかAリーグ勢には大きなインパクトと余波がある試合でした。

そもそもこの手の欧州からクラブを呼ぶエキシビションマッチ、特にオールスター形式の試合に関しては懐疑的なサポーターも少なからずいます。特にそういう試合が長期的に国内のサッカーに何かしらん貢献することがあるのか、という部分で意義がないと思われることが多く。
特に今回Aリーグのファイナルトーナメントのど真ん中というか「グランドファイナルの前座」みたいな形でこの試合をスケジュールしたとあってこれまでになく賛否両論でした。
そんな状況下で行われたこの親善試合だったのであんなにも得るものがあるとは誰もが思っていなかったはず。

まずバルサを迎え撃ったAリーグオールスターとはどういうチームだったのか、に関して。
色々ややこしいのですが当初2021/22シーズンのAリーグ出場選手の中から以下の方法で30人が選出されました。

(1) ファン投票で13人:Aリーグ12クラブからそれぞれ5人が候補として挙げられ、ファンが1-4-4-3のフォーメーションで11人投票、それぞれのポジションで票が多かった11人+ポジション関係なく次に票が多かった2人
(2) 監督選出で15人:監督&コーチングスタッフでスカッドバランスも考慮して選出
(3) Aリーグの理事長により選出された選手が2人

・・・で最終的に全12クラブから合計30人の選手が選ばれるようになっていたのですが。
この時期は本当にスケジュール的に色々難しくて、数日後のグランドファイナル出場2チーム(1位メルボルン・シティ、3位ウェスタン・ユナイテッド)の選手はもちろん辞退、さらに豪・NZ共にW杯予選を前にしていた上にオーストラリアはU23アジアカップもあったため各代表に招集される選手は除外、さらに直前のセミファイナルで怪我などして辞退した選手もいたため最終的に全12クラブはギリギリでカバーできたもののベストメンバーとはかなりほど遠い顔ぶれになっていました。

でも面白いことに最終的に残った23人でも年齢は16歳から37歳、出身国・ルーツとする国もオーストラリアだけでなくアジア・アフリカ・ヨーロッパ・中米・南米と網羅して(NZがいなかったのが本当に残念でした)ある意味Aリーグに所属している選手の多様さをよく表しているラインアップになりました。

ちなみに監督ですがなんとDwight Yorke氏がこの試合で初めて監督を務めることに(そしてその発表からしばらくして次のシーズンのマッカーサーの監督に就任)。アシスタントはRobbie StantonとHeather GarriockというAリーグで経験が豊富な2人。裏方のスタッフがみんなどこから来たかは発表がなかったのですが(エンドロールみたいな何かがあったらよかったのに)キットマンはニューカッスル・ジェッツから担当の人が行っていたとのこと。

そんなわけで烏合の衆もいいとことも言えるこのAリーグオールスター、運営の方の準備はファイナルシリーズと平行して行われていたはずですが選手たちが集まったのはバルサとの試合の2~3日前でした。
セミファイナルで敗退した直後に出場を決断して次の日に集合だった選手もいましたし、集まってからも記者会見やメディアタイムもあったので全体練習ができたのは1~2回くらい。

集合してからのその短い期間で選手達はなるべくお互いのことを知るよう交流に時間を費やしていたそうです。様々なところからきた上にほぼ一緒にプレーしたことがない同士ばかりなのでシーズン中に何回か対戦しているとはいえほぼ初対面といってもいい人達が多かったはず。
その準備期間の様子についてはこの記事が詳しいのですが特にJason Davidsonが話していたことを要約すると「外国に行ってもオーストラリア人は打ち解けるのが早いと言われるけど皆一つの目的のために集まってこの場を楽しんでいた」そうです。
あと推測ですが特に外国から来てる選手やベテランのオージーの選手なんかは様々なリーグやクラブを渡ってAリーグに来てるので新しい環境に適応しやすいこともあったのかも。

さて試合前日にオーストラリアに到着したFCバルセロナを迎えたのはシドニーのAccor Stadium。水曜日の夜の試合とはいえ7万人以上の観客が来場したそうです。
そのほとんどがバルサの世界的スター選手を観に集まったにしろパンデミック後のイベントとしてはおそらく最大の動員数。これまでになくたくさんの人にAリーグの選手達(ベストメンバーでなくても)の働きを見てもらう貴重な機会となりました。

実際の試合は今の所オーストラリア国内では10 playにフルマッチのアーカイブがありますが国外のみなさんにはFCバルセロナ公式Youtubeでのハイライト、そしてAリーグ公式(KeepUp)Youtubeでのハイライトをリンクしておきます。
バルサの方のハイライトはゴールチャンスをできるだけ多く切り出しているのでこの試合全体でのゲームバランスがどうだったかが掴みやすい。それに対してAリーグ公式のハイライトはチャンスはもっと絞って選択していますがゴールに至るビルドアップやゴールに対するリアクションも含めています(そして実況解説付き)。

試合の最終スコアは2-3でバルサの勝ち。
そのスコアだけでもAリーグオールスターが大分健闘したことがわかりますがリードした時間帯もありましたし全体の内容もなかなかのものでした。完全に中立じゃなくて明らかにAリーグ寄りの人間の目線ですがワクワクする試合だった、どちらが勝ってもおかしくない試合だったと自信を持って言えます。 (むしろ今回ベストメンバーじゃなかった分「ベストメンバーだったらもしかして・・・?」と後から思っちゃうのもある意味うまいこといったかも?)
何度かフルマッチで見返しているんですが本当にこれで3日間、全体練習1回のチームなのがちょっと信じられないというか。活躍するべき選手がちゃんと活躍してて、多くの選手が概ね得意な形でプレーしていて良いところ出せてて、それに加えて全員の勇敢さがキラキラしてました。後ろからパスでつなぐしドリブルで抜くし初めて一緒にプレーするチームメイトと「tiki-taka-mate(仮)」しちゃうよ、味方を信じて前向きにリスクも取るよ、という予想以上のチームとしてのまとまりとポジティブさ。

ちなみにこのAリーグオールスターの中盤は最終的な順位は比較的下の方のクラブの絶対的な主力である選手たちが多かったのが興味深かったです。少なくともそういうチームがファイナルに出れなかったのは彼らのせいではないしそもそも競争は厳しいリーグではあることをある程度反映してるかな。ベストメンバーが出れなくてもそれなりに力はあるチームにはなりますね。

ただこの試合での一番のスターはバルサのゴールを2度脅かしながら惜しくもゴールを決められなかったGarang Kuol君17歳。今年頭角を現し始めたリーグ戦のゴールのあれこれやを見ると決めると思ったけどこの日はさすがに珍しく緊張したのかな。きっとその場にいた7万人みんな(そして配信・ハイライトを見たもっとたくさんの人)の度肝を抜いたことと思います。今年のAリーグのキャッチフレーズが「Here comes the future」だったことは以前言及しましたがここに来てどんだけ華麗な伏線回収。
ちなみにそのKuol君も1ゴール1アシストのPiscopo君も選出システムでいうとAリーグの理事長により選出された2人の選手でした、理事長地味にすごい。

そして純粋にフットボールの部分で盛り上がったのと負けないくらいに別の意味でも盛り上がっていたことが。
ファン投票の時点でウェスタン・シドニー・ワンダラーズを代表する5人の中に左サイドバックのAdama Traoreがリストされていた時からバルサのAdama Traoreとの同姓同名マッチアップにある程度期待があったこと(そしてそれを想定して票がある程度入ったこと)は想像に難くないですが、30分頃にAリーグオールスターの先発左SBだったDavidsonが怪我によりTraoreに交代してからの同姓同名マッチアップ、さらに直接対決、そしてなんと両方のAdama Traoreが得点者として並んで試合後には一緒に写真撮影という顛末に豪サッカーTwitter界隈ではお祭りだったようです(笑)そして国外でバルサ公式Twitterなどから文字だけで経過を追ってる人達の混乱もまた面白かったですし結果バズった規模がなかなかすごかったのも儲けもの。

そして一発限りのエキシビションマッチとはいえYorkeさんがオーストラリアに来て監督になって初めての試合を勝利で終えたのは素晴らしいことでした。これから実際マッカーサーをどう率いていくかはまだ分からないですがとりあえずこの日に関わった人達からは一定の評価を得ているみたいです。

さらに監督側の話はこの日アシスタントの1人だったHeather Garriockからも興味深い話が。今回女性でありながら男子プロ選手のチームのコーチングスタッフとしてAリーグオールスターに関わったその経験をこの記事(ピッチサイド音声動画付き)に綴っていますが、女性でもなんら問題なくそういう場で仕事できたこと、この日とこの場の一部始終を心から楽しんだこと、そしてサッカーの監督という場からしばらく離れていて参加を躊躇ったけれどまた監督をやってみたいかもという火が灯ったことが語られています。その火がどれだけ小さくてもこの試合は彼女の、そしてオーストラリアのフットボールの未来の良いことに繋がるはず。いつか是非戻ってきてください。

今回7万人もの観客が主にバルサを見にAccor Stadiumに集まり、そのどれだけが来期Aリーグの試合に興味を持ってくれるかは分からないですしなるべく期待値は上げないように考えていますが、それでもKuol君の惜しかったプレーに対する盛り上がり、そしてアディショナルタイムでAリーグオールスターが攻撃中に選手がボックス内で倒されファウルが取られなかったときの口笛やブーイングにもしかしたら未来の味方や仲間が何人かは生まれたかな、とほんのちょっとだけ望みを持っています。
そしてたとえその望みが儚いものであってもマーケティングやイベント主催の皆さんが色々データをとってAリーグのために利用できるようにしているはずなのでそこはもう任せるのみですね。

ということで一試合きりの興行面が強いイベントでもやろうと思えばこんなに色んなものが得られる、だから得られないことを恐れて開催しないのではなくイベントをやる過程でなるべく多くのものを得られるようにする方が得、ということの一例となったと思います。
もちろんその長期的な効果が(あれば)見えるのはまだ先のことですが、こうやって書いてみた分だけでもやってよかったと十分言えるはず。

そして今回集まった選手達のこの試合に対するアプローチ、チームワークや試合で成し遂げたことを見るとなんとなくAリーグ勢はこういうたわいもないイベントに真面目に取り組みながら大いに楽しみ様々なものを得ること、そして烏合の衆から戦えるチームに短期間でなることが得意であり、つまりオールスター形式のエキシビションマッチにはすごく向いているのかもという気がします。
試合のタイミングとか出場選手の選出方法とか色々今回ベストじゃなかった部分はあれどなんだかんだで現場の皆さん実りの多い良いイベントにしてくれるんじゃないかな。

本文に入れそびれたので追記みたいな感じで。
このAリーグオールスターのユニフォーム、「どのクラブの色でもない色」「バルサのホームユニと対照的な色」ということで白が選ばれて特別なイベントとして金色が文字色に選ばれたと思うのですが、意図せずいつだったかのレアル・マドリーのユニフォームに似た感じになったのもちょっと面白かったですね。色のイメージが見る人や選手達の意識になにか刷り込むようなことはあるのかな。そういったものが無くても普通にシンプルだけど素敵なユニフォームだったのでもっと作ってくれてもよかったし次回があるならグッズ関係ももっと勇気出してもいいかも。

カレンダー記事で書いたとおり来週からはさらにエキシビションマッチがオーストラリアにやってきます。久しぶりの試合観戦もありますしプレシーズンではありますがいいエンターテインメントに期待しています。