オーストラリアのサッカーを支える移民コミュニティを描く「Football Belongs」

好きなことの話をするとはいえ、初めて文章を書くジャンルとなると一旦書き出す手を止めて腕を組んでしまっています。
というのも今でこそ当たり前のようにサッカーに関して一喜一憂する生活を送っていますが2018年のワールドカップ(後半)を見るまで実に20年近くサッカーというスポーツを見ていなかったのでものすごい新参というかひよっこというかこの領域で文章を書くのもおこがましいなあ、という気持ちが先立っていて。

そんな自分にとってここしばらくの「リアルタイムで新しい試合がない期間」は20年見てこなかった分のサッカーの歴史を少しずつ勉強する時間と余裕ができた時期でもあり、各クラブ・各国代表のアーカイブから過去の試合を見たりその他のコンテンツを通じて古いけど新しいものに色々出会えました。こういう機会でもなければなかなか心に余裕もできなかったかもしれないなので本当にありがたいです。

そのつながりで見始めたのが「Football Belongs」というミニドキュメンタリーシリーズ。Optus Sportで連載中のオリジナルコンテンツで、オーストラリアにおけるヨーロッパ諸国からの移民コミュニティとサッカーを巡る歴史や文化などを扱っています。1回5分前後×13カ国、それから最後の長めの総括の回で全14回(+予告編)の連載を予定しているそうです。

オーストラリアにおいて「フットボール」といえば歴史的にも現在の認知度でもいわゆる「オーストラリアン・フットボール」(Footieと呼ばれる)やラグビーというちょっと長めの形のボールを使ったフットボールが主流。サッカーは後から来たスポーツであり、ヨーロッパの様々な国から移住してきた人々が広め支えたものであることが今のサッカーのこの国の位置づけにも少なからず関係しているようです。
イタリア、旧ユーゴスラビア諸国、ギリシャなどからこの国に移住してコミュニティを形成する際にサッカークラブを立ち上げた例は多く、そういったコミュニティベースのサッカー環境から育った選手がプロの選手や監督になってオーストラリアのサッカー文化を作っていく、といった現象がこのシリーズでは「Australian Football. European Heartbeat.」(オーストラリアのフットボールを動かすヨーロッパの心臓)というフレーズで言い表されています。

2020年6月7日現在公開されているエピソードにはセルビア、クロアチア、トルコなど7か国の移民コミュニティと関連するサッカークラブや選手が特集されていますが、5分くらいの長さでそれぞれ個性を前に出した構成になっているのがまず面白いです。マケドニアは直球で熱く、セルビアは貴重な過去の映像を出してきたり、アイルランドの回は話の内容はちゃんとサッカーなんだけど映像の大部分がアイリッシュパブで飲んでいるおじさんたちだったり(しかも仲間内でしゃべってるので訛りが強め)。すごいと思ったのはクロアチアですね。個人名を挙げていくくだりだけでもオーストラリアのサッカーを知っていればその影響と貢献の多大さが分かる、実績で示していくタイプ。
どこも共通しているのはサッカーがオーストラリアという元の国から遠く離れた土地において同じルーツを持つ人々が集まるため、そして文化を盛り上げ、伝統と誇りを伝えていくための柱になっていること。

こういったクラブはセミプロ・アマチュアレベルにあるため、プロサッカーと深い繋がりがあるながらも詳しい背景はなかなかプロスポーツの場で大きく取り上げられることがないのですが、将来的に国内リーグであるAリーグが2部編成となった場合に一部のクラブがその文化と誇りを掲げてプロリーグに参入する可能性もあるという話もこのシリーズを見るとまた一つ楽しみと深みが増します。

さらに短い動画ながらサッカー以外の要素も扱っているのもこのシリーズの魅力。サッカーを取り巻く日常生活や移民としての歴史、交流の場やイベント、音楽や踊り、食べ物などが登場したり、このドキュメンタリーがサッカーに限らず文化やコミュニティなどを一続きの絵として描いているのが素敵だと思います。

今現在でもオーストラリアのサッカー代表チーム(A代表Soccerooおよびアンダー代表各チーム)やAリーグに関わる人名を見るだけで様々な民族背景の影響があることが分かります。そして時代と共にヨーロッパに加えてアフリカやアジアから難民・移民として来たコミュニティの関わりも広がり。さらに移民とは逆ともいえる立場ですが地域によっては先住民によるサッカークラブも増えてきています。
最近の集計では歴代オーストラリアA代表選手の出生国は40か国を超えているそうで、現在のSocceroo、そして東京オリンピックに出場予定のU23の選手などを見てもその民族背景は多様化し世代によって変化しています。
外国で生まれ、または国外にルーツを持つ選手がAリーグやオーストラリア代表でプレーしたり、逆にオーストラリアで生まれたり育った選手がルーツを持つ外国のクラブや代表選手としてプレーしたり。そういった国境を越えた人の動きにもこの地に根付いた移民コミュニティが今も少なからず絡んでいるというのがよくわかるシリーズです。

そんな多様化・複雑化する現状を見据えてオーストラリアにおけるサッカーの未来の姿は、という話はセント・キルダのアイリッシュパブでビールを片手にとても簡潔に語られています。
「The future is, bring everyone.」(未来は「誰でも来ればいい」、だね。)
予告編にも使われるくらいものすごく大事で色んなことを集約しているメッセージにもかかわらず訛りが強い会話の流れのままさらっと言っているため聞き逃す可能性もあると思って引用しました。

「Football Belongs」はOptus SportのYoutubeチャンネルで公開されています。プレイリストはこちら。ほぼ毎週水曜日更新で、エピソード数でいうと半分ほどが公開中。これから公開される分では人口も熱量もすごそうなイタリア、そしてメルボルンで人口がものすごく多いギリシャ(ギリシャ外で一番ギリシャ人が多い都市らしいです)の回が楽しみです。

2020年6月17日追記: Football Belongsシリーズ、今日更新分(ドイツ編)で一旦中断、残りのエピソードは来年に公開予定となるそうです。