見出し画像

家と店 #5

(家と店#4 の続きです)

昨年の11月に前回のご報告を書いてから、なんと5ヶ月が経過しました。
その間、もちろん何もなかったわけではありません。
やっと書ける時がきました。
出会いは意外と近いところにあったのです。

***********

うちから歩いて10分くらいのところに、キキマールという素敵な喫茶店がありました。
シックな壁、シンプルな黒枠窓、可愛らしい文字の踊る黒板。

こういうセンスいいお店は、なかなかご近所ではお目にかかれないものですから、嬉しくて足繁く通っていたのです。
「まぜまぜごはん」というメニューがあって、盛りつけも器もとっても可愛らしく、なによりとても美味しいのです。
その喫茶店で過ごす時間は、わたしの生活の一部でした。

2020年4月。
世の中が予想もつかない事態になり、家からほとんど出ない暮らしとなったとき、キキマールさんは、イートインをお休みされて、テイクアウトのお店に変わりました。
席スペースは、パーテーションで仕切られ、もはや使われていなかったのです。

あるときウチのパートナーがぽろりとつぶやきました。
「あの使われてない座席スペース、使わせてもらえないかな」
あー。実はわたしもそう思ってました。

でも、言い出せなかったのです。

世の中の変化のせいとはいえ、イートインを休まざるをえない店主さんの気持ちを考えると、そこは触れてはならない気がして。
とはいえ、私たちの店だって、いまだ次の場所が見つかっていないわけで。

不動産屋さんの紹介や、物件サイトでもピンとくるものがないまま時間は過ぎていく。どうしたものかな、と考えあぐねていたのも事実です。

モヤモヤするわたしでしたが、ある日パートナーが行動を起こしたのです。
「キキマールに行って、聞いてみたよ。使ってないスペース貸してもらえませんかって」

「えっ!それで?」
「いいんですか? 嬉しい!って言われた」

!!!

「なんか色々な可能性を考えてるみたい。完全に喫茶店やめてテイクアウト専門店に、とか」

ああ。それは私も以前、店主さんからチラリと伺ったことある。本気だったんだ。

使わなくなった半分のスペース、どうされるのだろうと思ってました。
そしてとても魅力的に見えました。けれどわたしは勇気がなくて言い出せなかったのです。
パートナーが足を運んで、尋ねてくれたことも嬉しかったし、キキマールさんのお返事も、すごく嬉しかった。

けれどわたしは、まだ、店主さんの気持ちを考え過ぎてしまうのでした。

「本当は迷惑なんじゃないか。同じ空間に違う店が入ってくるなんて。」

実際にわたしも話して確かめてみたい。
テイクアウトのカレーを買いに行ったとき、思い切って尋ねようとしました。なんて切り出そうかドキドキしていたら、なんとキキマールさんの方から話してくれました。

「m.Roomさんが来てくれるなんてとても嬉しいお申し出です。うちの店も、今、これからの可能性をいろいろ考えていかなくてはならないと思っています。結論はすぐに出せないんですが、時間をください。」

そんな話をしてくださった。

時代は、予想もつかない流れとなっていましたし、
キキマールさんも、私たちm.Roomも、従来の考え方だけではなく、新しい考え方を取り入れていかなくては、と感じました。

どうなるのかわからないけれど、待とう。他の物件も探しながら。

**************

2021年始。
母が天寿を迎えた。緊急事態宣言がなされるタイミングとほぼ同時のことでした。自宅で店舗を続けるには、完全に限界を感じたので、
m.Roomは、当面の間お休みすることにしました。

ほどなくして、キキマールさんも、しばらくお休みされるということが分かりました。Instagramには、少し体調を崩されたということが書かれており、心配しましたが、幸いなことにそんなにひどくはないようで、少しほっとしたのでした。

なんとなく、いい予感がしました。
起きている出来事の形は、母の逝去、緊急事態宣言、体調を崩す、といった一見大変そうなことなのだけれど、なぜか直感的に「未来は明るいんだな」と思ったのです。

***************

「このスペースで試しに少しイベントをしてみませんか」

春の足音が聞こえる頃、キキマールさんから、そんなご連絡をいただいたのです。
やった。嬉しい。嬉しい。

***************

4月16日(金)
ポップアップストア「m.Roomなつのひかり
ようやっと形になりました。

正式のお店ではないけれど、しばらくは、キキマールさんの一部をお借りして、営業が始まったのです。

今わたしは、とても幸せです。
お店は、前よりずっと素敵です。
パートナーSagë(セイジ)さんが、本気を出して1人で内装やインテリアを作り上げました。

椿地蔵さまのそばにあります。
江國香織さんの小説「なつのひかり」に出てくる椿地蔵交差点です。
京王線布田駅徒歩5分。
遊びにいらしてください。お待ちしています。

m.Roomなつのひかり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?