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Acoustic Cafe story episode 01 お酒を飲む人は二通り

Acoustic Cafeのカウンターから月がよく見える。
ここで仕事をしながらちょうどカウンター越しに月明かりが入るように設計されている。
 
満月と新月の夜は営業時間が延長になる。
私がチョイスしたお酒のBAR TIMEになる。
店の灯りは抑えて、キャンドルを灯す。
BGMはAcoustic Guitarのインストを薄くかけておく。
 
ありがたいことにこの時間を楽しみに来店する人も多い。
和久さんもその一人だ。
決して、お酒は強い方じゃないが、1杯をのんびり傾けながら、カウンターを照らす月明かりを楽しんでいるようだった。
 
「マスター、今日はどれがいいの?」
「そうですね…今日はどんな一日でしたか?」
「でた!またあの心理テストかい? そうだな、午前中、ちょっとトラブルがあったけど、午後には持ち直したな。明日は休みだから、ホッとしてるよ。」
 「わかりました。では、これはいかがですか?」
 
広口のワイングラスに日本酒を注いで和久さんへ。
ワクさんは嬉しそうな顔で口からグラスを迎えに行った。
「いいね、イイお米使ってるな。うん、ふくよかで…合ってる?」
「いいんですよ、感じ方はそれぞれで。」
 
千葉県の不動 備前雄町 純米吟醸 無濾過生原酒。
フルーティーだがジューシーに仕上がっており、豊潤で甘さも充分。
酸味が美味く、安定感は抜群だ。勿論、生だからすっきりと後口もイイ。
しかも、お米の余韻を残してくれるから満足度も高い。さすが雄町。
スケール感が大きく、少し重ために感じる余韻は、明日が休みという安堵感に染みていくだろう。
 
合わせる料理は、最近メニュー化したパワーサラダを少し盛り付ける。
キャロットラペを多めに。そして牛肉をトッピングする。。
お肉の味にもしっかり対応してくれる頼もしいお酒。
パワーサラダは野菜と、果物、そしてタンパク質を加えて構成しているので、野菜が苦手な人でも、知らずのうちに食べられる優れものだ。
サラダが美味しいカフェとしては、これも看板メニューにしていきたい。
 
「同じのもう1杯くれるかい?」
和久さんは多分、これでリミットだろう。
 
お酒を飲む人は二通りだ。
気に入ったのがあれば、そればかり飲む人。
美味しいとわかったら、どんどん新しいモノに挑戦してキリがない人。
 
なんとなく、前者の方が誠実のような気がする。
私は…間違いなく後者だ。
 
「マスター、やっぱりめんどくさいよ満月と新月って、わからないよ。1
日と15日じゃ、ダメなのかい?」
 
よく聞かれるが、こうしてカウンターに入る月明かりを見ると、今日がベストって、わかるんだが。
じゃ、新月は?って聞かれたら…それは、満月が一番恋しい日だから、と答えることにしている。
 
「すみませんね、私が楽しみでやってることなんで。」
「しょうがないね、次はいつ?」
「次は14日の木曜日です。そこが新月です。」
「わかった、でも新月は来ないよ、満月になったら来るよ…忘れそうだな。」
 
和久さんがいなくなった後、誰もいない店で私も飲むことにした。
これがやりたくて始めたんだ。
 
私は秋田県の新政酒造の亜麻猫を手に取った。
私が日本酒にハマるきっかけになったお酒だ。
焼酎用の白麹を使って醸しているのが特徴で瓶の内で二次発酵させた、活性濁り生「亜麻猫 スパーク」。
際立った酸が特徴で全く他に類を見ない。
 
珈琲の場合はビンテージかアンティークのカップ&ソーサーを使うが、お酒はワイングラスを使うことが多い。
豊潤な日本酒の場合、口が広いのを使う。ドライでキレがいいお酒は、泡用の細口を使う。
 
和久さんに飲ませてあげればよかったかな。
そう呟きながらグラスに亜麻猫を注いだ。

#いい時間とお酒

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