見出し画像

物語食卓の風景・専業主婦のつぶやき①

 シリーズ1本目は、団塊世代の主婦、立花洋子の話で、2本目は2人いる洋子の娘のうち、長女の真友子の話でした。真友子は東京でフリーライターをしていて夫婦2人暮らしです。前回はこんな風にして、彼女の話が一区切りつきました。

 ここからしばらくは、妹の香奈子の話です。香奈子は専業主婦、38歳で8歳の咲良と、2歳の萌絵を育てている。夫の勝は2歳年上で会社員だ。香奈子と勝は社内恋愛。結婚しても続けていたが、2年後に妊娠。保育園が見つからなかったことから、結局会社は辞めた。再就職も考えたのだが、平成不況は関西で特にひどかったこともあり、女性で子持ちで特に技術があるわけではない香奈子が仕事を見つけるのは難しかった。

 資格でも取らなきゃと思いつつ、何をしたらいいか考えあぐねていたところへ、再び妊娠。2人も子どもを抱えながら働くなんて、不器用な私には無理!と最近ではあきらめている。周りには私学へやろうとがんばる主婦たちもいるが、うちは夫の給料だけでは私学なんて経済的に難しいと思って、ママ友から「将来を考えたら、私学のほうがいいわよ」と言われるのを、適当に受け流している。

 それにしても、子どもが2人にふえてから忙しい。かかる手間は2倍じゃなくて5倍ぐらいにはなっているのではないだろうか。上の咲良は、小学校に上がって、洋服を選んだり宿題を自発的にする、お手伝いもすると、いい子になったなあと思っていたのに、萌絵が生まれてからやたらと私にひっついてくる。それも萌絵の世話をしているときに限って、背中によりかかかってきたり、足にまとわりついたり。

「邪魔だから向こうへ行ってなさい」というと、「ママ、ひどい!咲良はもう邪魔になっちゃったの!」と悲痛な声を上げてみせるのは、冗談のつもりなのか、それとも本音が入っているのか。

 一番おとなしくしているのは、テレビを観ているときで、最近は『ドラえもん』がお気に入りだ。私も昔、ドラえもんが大好きで、困ったときはいつでも何でもドラえもんに助けてもらえるのび太がうらやましかった。でも、私が見ていると、お姉ちゃんが嫌がった。お姉ちゃんはしずかちゃんが嫌いなんだそうだ。私はしずかちゃんなんてどうでもよくて、のび太みたいに駄々をこねて何でもドラえもんに助けてもらいたいなと思っていた。

 咲良は、勝をときどきドラえもんに見立てて甘えていることがある。「パパエもん!タケコプター出して!」「パパエもん!宿題を何とかして!」とじゃれつく。最近せり出しているお腹が、ドラえもんに似ているんだそうだ。眼鏡をかけているところも、丸い顔も、そういえばドラえもんに似ているかもしれない。でも、勝は便利な道具を出してくれないばかりか、私をドラえもんみたいに便利に使っているような気がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?