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理想のキッチン探し55巣鴨

 最近、あまりにも変な物件が多いのと、たまにいい部屋があるなと思ったら、居住中で不動産屋が「先行契約してくださったら、空いたときに内見していいですよ」と偉そうだし、小田急線沿線の世田谷区あたりの物件だと、不動産屋も強気すぎる場合があるなどして、だんだん引っ越ししないほうがいいような気がしてきた私たちです。家賃相場は確実に上がっている。
 今日は、巣鴨で割安で94㎡もある小さなマンションの物件が出たので観に行ってきました。これだけ広いと、たとえ変な棚やら大き過ぎる梁があったところで、本棚が置ききれないことはないでしょう。便利だし、近くに使えるスーパーもありそうだし、もしかすると地蔵通り商店街でいい八百屋とかあるかもしれない。
 不動産屋さんは地場のところなのか、最近では珍しくまず事務所にうかがって、条件を聞いて他にないかも検討してくれました。でも、検索能力がとても高い夫が自分たちの個人的な嗜好を理解したうえで見つけるモノのほうが多いし、出てきたのは以前から空室になっている問題のある部屋だけでした。「今は、リモートワークもするので広い部屋を探す人が多くて、3LDK以上となるとほとんど出てこないんですよ」とのこと。知っています。だから広域で探し続けているんです。ほんと、コロナと自分たちの本の量がファミリー物件でないと納まらない時期が重なって残念です。会社員の方々は、自分の懐を傷めず使えるオフィスがあるんだからオフィスで仕事してくださいよーと言いたくなる。家賃補助もおありになるんですから、広い部屋が欲しい場合はもっと高い部屋で探してくださいよー。
 で、今回の物件は巣鴨駅と西巣鴨駅の真ん中で徒歩約10分。中山道沿いをずっと行くみたいで、この道はあまり好もしくない。少し裏道に入った路地にある4階建ての小さなマンション。4階にはワンルーム。外階段ですが、雨の今日でも傘は閉じて歩けました。風雨が強いときは傘が必要かもしれません。3階までは、今も3階まで階段なので行けると言えば行ける。
 玄関を入るといきなり、細かいレンガのアールの形状の壁になっていて広い。昭和50年代っぽいセンスですが、建ったのは1992年。シニアのオーナーさんが20年ぐらい感覚を更新しないで建てることはよくあることに最近気づいたので、何となくわかる。間取り図には南北の窓がないのですが、実際は四方向に窓がありました。ダイニングは北向きで大きな出窓。図面ではキッチンがかなり狭いですが、実はそんなことはなくて、オープンのペニンシュラキッチンで壁まで130㎝ほどあります。


 この、入り口に入ったらドーンとキッチンで、ダイニングとリビングがなんとなく区切られている動線がいいなと思って、この物件は見たくなったんですよ。キッチンが堂々としている。でも、写真の見た目だけでなく、実際にシンクは巨大でした……。キッチンの幅は2700ミリで十分なのですが、シンクが1100ミリもある。調理台は490ミリと狭め。30年前のものなので、シンクは真ん中に排水管があります。換気扇も巨大で今まで使っていたものより二回りぐらい大きそう。今使っている無印の棚を置くと狭くはなりますが、700ミリぐらいは取れるので、1人で作業はできます。何しろこの部屋全体が広いので、細かく測らなくても持っているものは全部納まります。
 他の部屋は3つとも洋室ですが、収納はクローゼットが2つだけ。しかも、どうやら当初は和室だったのか、奥行きが800ミリもあって、幅は1200ミリ。たぶん1畳分の団地サイズだな。クローゼットは使えなくないけど、まあちょっと足りなさそう。広いので、一番広い洋室の奥を収納コーナーにしてしまうこともできますけどね。パーティション的なものを買えば。ベランダは3部屋続きで細長く、ふとんは干し放題ですが、なぜか物干し自体は狭め。物干しを買ってくれば干し放題です。あと、窓が7つもあるので、カーテンもだいぶ買い足さないといけないです。夫が「広いから光熱費がかかるな」と今更なことを。
 浴室はタイル張りで窓も大きめなのがついているので、ちょっと寒いかもしれません。夫は「床はユニットだし追い焚きできるから、前の部屋ほど寒くないはず」と言いますが。
 帰りは、トップの写真にある染井霊園の小道を通ったので、こっちの道なら歩いていても楽しい。ただ2,3分余計にかかります。
 巣鴨はなじみがない町だったけど、以前山手線の未知だった地域を歩いてみたときに来ているので、わりと住みやすそうな町とは思いました。歴史と結びついた深みもあります。シニア向きになっているので、本屋の並びはシニアっぽかったですが。もうじきシニアのくせに何を言っているんだろうとか思いますが、仕事が若い人に向いて発信しているのもあるのかな。
 2人で、「いいんだけど、何か踏み切れない」と話し合いました。今、家賃相場が上がっているが私たちには高い家賃を払い続けるには不安があること、70㎡台だと倉庫などを併用しないと暮らせないだろうことを考えれば、十分です。収納がえらく少ないけど、全体が広いから何とかなると言えばなる、みんなそうやって暮らしているんだし……。東京は家賃が高く住みたい人がたくさんいるし、戦後は大きな地震もなかったから、けっこうぼろい部屋もたくさんあるんですよね。効率を重視して賃貸用は狭めの部屋ばかり作っているから、同業者は本を部屋中に積み上げたり、倉庫を使って何とかモノを納めている。あるいは泣く泣く断捨離する。部屋中にモノがある中暮らす人もたくさんいるだろうことはわかっている。「みんなそうやっている」という魔法のような呪いのような言葉を自分にも投げてみる。
 でも私は、若い頃からずっと「だってしかたない。みんなそうだよ」という言葉にあらがって生きてきました。そうやってみんなががまんするから、変わらない社会の今もある。初めて書いた「ルポ「まる子世代」」はまさに、その感覚で生み出した本です。「クライアントが横暴でむちゃくちゃ値段を切り下げて残業ばかりの生活はおかしい」と憤っていたときに、そうやってみんなになだめられました。今でも大企業は殿様商売のところがあるようだけど、変わってきた会社もあるはず。そして、「庶民ががまんする社会はおかしい」と声を上げる人も増えてきました。今、私は「みんなががまんするキッチンはおかしい」と令和の台所改善運動をしているわけで。
 電車の中で夫が言いました。「やっぱり北は文化が違うんだろうな。巣鴨はたまに遊びに来て歩くのは楽しい町だよな」。だからずっと私は言っている。東と北はそれぞれに魅力もあるけど、文化圏が違うんです。私たちがなじんできたのは城南地区で、親近感があるのは都区内の西部地区。夫は大阪の下町と奈良県の郊外で育って東京・横浜のあちこちで暮してきたので、私より柔軟ではありますが、私は阪神間育ちで、大阪の下町で1人暮らししたときにイヤな経験もしているので、下町は遊びに行くだけにしたいと思っています。都心から少し距離があって、庭のある住宅街が広がっていて、季節の花が見られて、スーパーと商店街があって、そしてできれば職業柄ちょっと冷やかせる本屋や雑貨やだのカフェが欲しい。それが贅沢、というのが東京でもあるのですが。
 不動産屋さんまで、「今の部屋がいいのなら、騒音対策に部屋を借りてそのまま住まれたほうがいいのでは?」と言われたのもあります。それにあの部屋、きれいになっているところもあるけど、すでにクリーニング済みで洗面所と浴室の鏡は汚れたまま。設備の古さは、そのまま壊れるトラブルが頻繁に起こりやすいことでもあります。前の部屋では、浴槽の底が抜けました。キッチンの収納も壊れかかっていました。浴槽は取り替えてくれたけど、キッチンの引き出しは大家さんが来てガムテープを貼って終わりでした。今度だって似たようなことが起こるかもしれません。客観的に「使える」とは思うんですが、主観的に暮らしが想像できない。少なくとも私は、オーソドックスなnLDK物件が、使いやすいのだと思います。もちろん、一から作ったら。リビングはいらないから広めのダイニングと、打ち合わせできる仕事部屋を作る、キッチンには収納を充実させるなど、違う間取りになるかもしれませんが、借りて暮らす以上、一般的な間取りには、やはり一般的に住みやすい条件がそろっているのだと思います。それがなかなか安めの部屋にはないだけで……やはりここは、不動産屋さんのアドバイスに従う(って人のせいか!)ことにしましょう。


 

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