見出し画像

物語食卓の風景・イクメンになり切れない夫④

 先週まで読んでくださっていた方々、すみません。ここの主役は香奈子じゃなくて勝になってしまったので、タイトルを変更しました。さて、食洗機が入ったおかげで香奈子の後片づけもまもなく終わり、家族でくつろぐ時間になりました。香奈子がリビングに来て、ソファーで勝のそばに座る。

「さっきの続きだけどさ。お母さんに会うの、気が重くてさ。ちょっと顔を出すぐらいならともかく食事をするとなると、すぐに帰れないじゃない?昔はそんなにうざい人だと思わなかったんだけど、この頃めんどくさくてさ」

「そうだな。最近の香奈子、お義母さんと電話した後とか、会いに行った後とか、何だか機嫌悪いよな。しんどそうだし。なんでイライラしてるのかなと思ったら、お義母さんに会った後だったりする」

「うん。昔はね、優しいお母さんだった気がするの。小さかったからかな、私が。お姉ちゃんと年が離れているでしょう、私。咲良たちみたいにきょうだいで一緒に遊ぶという感覚がなかったからか、お母さんの後ばっかりついていった気がするの。お手伝いもしたくてしょうがなくて、洗濯物の畳み方を教えてもらったり。料理もそういえば、何度も手伝って好きになったの。私が主婦をしているのは、もしかするとお母さんに教えてもらいながら家事を覚えたからかもしれない。それに、本当は妹か弟が欲しかったんだけど、私自身が遅くに出来た子だったし、それは望めなかったから、子どもは欲しかったのよね……実は、もう一人ぐらい欲しいな、とか思うんだけど」

「え⁉ そうなんだ。でも、俺3人養うほど稼げないよ。その場合は、香奈子も働いてもらわないと厳しいかもな」

「そっか。まあ3人も育てると大変すぎるかもしれないし、いいよ、いいよ、今のは忘れて。でもね、そういう風にお母さんと楽しくやっていたのはいつまでだったかなあ。お姉ちゃんはずっとお母さんと衝突ばかりしていたし、東京に行ってからあんまり帰ってこなくなったし……それでもお正月は帰ってきてたんだけど。なんかね、お姉ちゃんが帰ってこなくなったきっかけがよくわからないのよ。もともとそんなに帰ってきてなかったから。それが何年前だったかなあ。お正月も帰ってこなくなって。萌絵にお姉ちゃん、会ったことないのよね。一度ぐらい顔を見せてくれてもいいのに」

「お義母さんにお義姉さんが会いたくないなら、うちに泊まってもらえばいいじゃないか」

「ふとんがないもの」

「それが理由? お義姉さんを招待したことがないのって」

「そうよ。だってめったに来ないお姉ちゃんのために布団を買っても、置いておく場所がもったいないもの」

「友達を招待して泊めるとかさ、お客さん歓迎の家にしたらどう?」

「友達はだいたいこっちに住んでいるもの」

「そっか。俺の友達は、全国あちこちに散らばったけどな。結婚して、とか転勤でよそへ移ったって人はいないの?」

「うーん。確かに亜衣は東京だけど、実家がこの近くだからうちへは泊らない」

「そうか。亜衣ちゃんは東京だもんな」

「そういえば、お姉ちゃんが東京へ行って、あんまり帰ってこなくなってから、何だかんだとお母さんが干渉してくるようになった気がする。最初のうちはそれもお母さんの愛情って思っていたけど、だんだんめんどくさくなって、衝突しだすと、こっちも警戒して、それが向こうに伝わるのか、お母さんもめんどくささを増してっていう流れかもしれない」

「なるほど。まあ今まで2人で分けていたお義母さんの関心を、1人で背負うことになったのかもしれないな。そこへお義父さんの失踪ときたら、香奈子だけは離すまいとお母さんが懸命になる……」

「そうかも。そういうことか。お母さん、やっぱり寂しいのかも」

「そうだよ、寂しいんだよ」

突然、「あーん」と萌絵が泣き出した。実は少し前から、萌絵が遊んでいるおもちゃの汽車に咲良がちょっかいを出していて、それをついに取り上げてしまったらしい。香奈子はすぐに子どもたちのところへ飛んでいく。

「咲良!いじわるしないの」

「だって私も汽車で遊びたい!」

「咲良はもう大きいでしょう。萌絵のおもちゃを取り上げないの」

「だって、退屈なんだもん!」

「わかったわかった。テレビも好きな番組終わっちゃったもんね。お母さんと遊ぼ!何する?」

「パパも!」と咲良が声を上げる。

「よっしゃ、じゃあパパが汽車をやってあげるよ」

「ほんと?」

 四つん這いになって汽車のふりを始める勝。「背中に乗りな」と言うと、咲良がよじ登る。「私も―」とさっきまで泣いていた萌絵まで勝によじ登ろうとする。「ひゃー。2人も乗せられるかな?」と勝。香奈子が萌絵を手伝って勝の背中に乗せてやる。

「パパ! 汽車の声やって」と咲良。

「よーし、シュッシュッポッポ、シュッシュポッポ!」

「わあい」と歓声を上げる娘たち。勝は一生懸命前に進もうとするが、さすがに小学生になった娘と幼児の2人分は重いらしく、なかなか進めない。香奈子は娘たちが落ちないかハラハラしながら横で萌絵の体を支えている。しばらくして勝が根を上げる。

「やっぱり2人一緒は無理!交替で乗ってくれ」

「えー!」と言いながらも、咲良が降りる。「わかった、萌絵に譲る」

「さすがお姉ちゃん」と香奈子が言うと、ちょっとうれしそうに胸をそびやかす咲良なのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?