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理想のキッチン探し61断念

 シリーズを楽しみにしてくださっている皆さま、お待たせしました。豪徳寺、審査は通りましたが、ギリギリになって結局断りました。
 2023年バージョンの物件探しは、「引っ越しラプソディ」と呼ぶのがふさわしい、翻弄された日々でした。私たちは何度も何度も話し合い、ケンカし、そして夜眠れなくなり、仕事も後回しになり、とフラフラになり、夫も抑圧気味になり、私もそろそろうつぶり返しそう、というところまで追い込まれました。
 私が勝手に感じているのですが、豪徳寺の物件に関しては特に、招き猫か神に弄ばれた感が強いです。そんな風に言うのはヘンですか? でも、自分たちの意志とは違う次元で振り回されている感覚が強いです。私は信仰を持つ人間では基本的にはないですが、人間の次元とは異なる、何か超自然的な存在はありそう、それが神様、と常日頃から考えています。意志を超えた何かが起こるときがあるので。その神様には、人を守ってくださる存在と、面白半分に関わっているだけの存在の、両方がいるように私は思っています。今回は、悪魔的なからかい好きの子どもみたいな神様に魅入られてしまった感じがします。
 最初の投稿で書いたように、豪徳寺の物件はあまりに環境が美し過ぎました。前回の引っ越しの際も、窓から緑が見える野方の物件に魅入られました。だから警戒はしたのです。ケヤキの木が全部の窓から見えても、エントランスがめちゃくちゃ美しくても、それだけで決めてはいけない。

 この物件は一度、競合で負けました。ところが1番手の人が断った、とすっかりもう引っ越さないつもりで動き出していたところへ16日の夕方、不動産屋さんから連絡が入ったのです。で、やっぱり町はむちゃくちゃ便利で使いやすいし環境は抜群だし、ということで、改めて行こうと私たちは思いました。しかし、今の部屋はかなり設計士の腕前がよく、家具を置けるスペースまで配慮されているので納まっている家具が、豪徳寺のへたくそな間取りに納まるか不安がありました。そこで、「測ってから決めさせて欲しい」とお願いし、22日に細かく測りました。不動産屋さんは本当にいい人で、長いメジャーとカーテン用のメジャーまで持ってきてくださり、計測に付き合ってくださいました。
 クローゼットしかないから、ベッドを買うか、しかし普通のベッドを置くと、2年ほど前にようやく買い替えた「一生もの」保障の整理箪笥の下の段が使いづらくなる。布団生活を続けたら、布団置き場で壁が減る、と悩んでいたのに、どうやら一つだけ独立した部屋が元は和室だったらしく、そのクローゼットを布団収納に使えると判明。キッチンの後ろも思ったより20センチほど奥行きが長い、など思ったより使いやすそうなことが判明。また、事前に鍋などがあの小さなシンクに入るか、と計算したところ、フライパンの柄までは43センチ、大鍋の幅が34センチ、深鍋の深さが15センチ、と何とか納まることもわかりました。そしてシンクは深さ15センチとむちゃ浅く、幅も50センチと狭いですが、奥行きが50センチあります。現在のシンクは深さ17センチ、幅70センチ、奥行き37センチです。思ったよりは使えそう
 で、また街を見て回り、豪徳寺は招き猫発祥のお寺、と今頃になって知ったりして楽しかったのです。

 夕方、家に帰ってからはひたすらレイアウトです。家じゅうのモノを測りつつ、何度も計算し、捨てられるものを割り出し、食事などの時間を挟んで22時過ぎ、ようやく納まりました!住めます!
 そして住むと返事をし、モノをどんどん捨て、本も趣味のジャンルと思われるものなど売りました。その前から本は減らしていて、段ボール箱6箱分は売りに出しました。そこから最終審査待ちです。私たちがフリーランスなので審査が通るかどうかわからないのです。
 合格したのが26日の夕方。あわてて引っ越し業者に見積もり依頼を出しました。初期費用が判明したのが26日夜、なのに月末までに振り込め、という無茶ぶりで、それは金曜日しか降り込めないことで、金曜日は夫が終日外出なので、連休中にまで伸ばしてもらいました。夫はその拙速さが気に入らないと言います。夫は大金を出して今引っ越すのはどうか、とずっと懐疑的でした。何しろ前の引っ越しは格安で済んだとは言えわずか1年半前です。でも、私は仕事部屋からもろに見える、7月はじまりの工事が怖かったのです。何しろ、子どもの頃から音に敏感で苦しんできたので。
 現在の部屋の解約も急がなければいけません。向こうの家賃発生日が5月20日、すでに4月27日、不動産業者には郵便で解約通知を出します。夫に「本当に出すんか?」と言われながらも、ただでさえ予算が厳しいのに日割り家賃の2重家賃の日を増やし過ぎては困る、と必死な私は、電話で相談した叔母に「出しちゃいなさい」と背中を押させて、投かんしました。28日の夕方です。その消印日の1か月後が契約終了。
 そして翌日、もう一つの最寄り駅、梅が丘とその周辺を見て回りました。近くの羽根木公園は昔、プレーパークの発祥の地、というので見学に行ったことがあります。公園には梅林があり、どうやらそれが「梅が丘」の名前のもと。梅は、私が苦手な冬を乗り切る支えの木でもあります。

 そして30日、引っ越し業者さん2か所に見積もりを取ってもらいました。前回は予算の都合と向こうの都合が合って、本が多いけど30万円、2日間。だけど本当は3日間がいいと言われていたので、今回は本棚が2つプラスアルファ増えたので、40~50万円、3日間のつもりでした。
 ところが最初に来たのが大手だったこともあり、いや、前回最初に30万円で合意してくれたので大丈夫かと思ったのですが、何だろう「そんなに忙しいなら、お引っ越し日を2か月後に伸ばしては」などと引っ越し事情に疎すぎる無茶を言う若手男性でした。「ダブル家賃2カ月払えっていうんですか!」と怒っても、平然としているし、本棚の中身は後で入れ替えるから、と言っているのに「元の形にきちんと戻すクオリティを落とすわけにはいかない」など、何か自分たちの引っ越しの美学を依頼主の生活より大事と言わんばかり。前の営業ウーマンは有能だったのに、この人ダメです。
 そして、出された見積もりは6日間で、100万円超えです!あり得ない!
その時点で夫はもう無理、「ドキドキする」と言い出すし、私も冷や水を浴びせられた気分でした。ただあそこは、前の前の引っ越しのとき、他の業者の3~4倍予算を言ってきていたので、あわてて前に安かった業者さんに連絡したらその日のうちに来てくれるとのこと。
 夕方いらした男性は、前のときは作業服の人だったのと打って変わって、スーツをきちんと着ていて、しかも確か首都圏ローカルの業者さんだったのに全国区になっている。「もしかして会社大きくなりました?」と聞いたら「はい」って。その人も若手で2年目なのですが、何だかとても話しやすい人で、私たちは今回の引っ越しにまつわる悩みも話してしまいました。
 豪徳寺の物件の魅力を知り、その人は最初80万円と言っていた見積もりを一生懸命下げてくれ、私たちの長い話も「今、すごく僕は人生を学んでいる気がします」と前向き。そして、なんとついに50万円、とギリギリの予算内に! しかし自分たちで梱包・開梱をする時間がどうしても取れないので、やはり6日間かかることは変わりません。
 彼が来ている間、私たちは3度も別室で相談しました。しかし、最後の最後50万円、という数字が出たとき、私はいたずら神の高笑いが聞こえた気がしました。「どうだ!引っ越せるだろう」こんな神に騙されていいのか。
 すでに私たちは疲れ果てています。やるべき仕事が、引っ越しラプソディでむちゃくちゃ積み上がっています。しかも、6日間も引っ越しにかかったら、1週間仕事が止まるうえ、さらに疲労回復に2週間、3週間かかる恐れがあります。そんな犠牲を払えるのか? 大金を払う価値があるのか?
 冷静に考えると、この物件には最初から難がありました。キッチンが狭いのでダイニングまで使って動線が長くなる、シンクが小さいから洗い物が大変です。今のキッチンについては、夫が最近物件探しのこともあって使い勝手を今まで以上に真剣に考えているようですが、「むちゃくちゃ使いやすい」と言います。でも、今のところスペースにゆとりがあるので、この30点の新しいキッチンも、レイアウトを工夫すれば60点ぐらいまで上げる自信があります。現在のキッチンは80点です。
 とはいえ、間取りがへたくそなので、間取りが上手な今はゆとりをもってモノが納まっていますが、ここに来たら窓の前にも本棚を積み、もしかするとフィッツの箱を捨てる必要があるかもしれず、余裕はなくなります。その余裕のなさは不安です。
 そして、窓が大きいのでもしかするとやや寒いかもしれません。小田急線の音も、暮らし始めると気になるかもしれません。そして、今のところが家賃格安で、次のところも割安ではありますが高くなります。その高さは覚悟していたのですが、今、必要なもので買わずにいるものがいくつもあるのに、引っ越して余裕を失っていいのか。
 大きな犠牲を払って、豪徳寺に引っ越す必然性が本当にあるのか。住むなら一生が目標です。もともと、私たちは資料が増えるので、スペースもキッチンも余裕がないその部屋で行けそうなのは5年です。でも、東京の狭い住宅事情からすると、広い物件は郊外か癖があるか古いかなので、広げることはおそらく難しそうです。だったら資料を増やさない、増やすとしたらデジタル化、など工夫して住み続けるしかありません。なんだって毎年、新しい資料が段ボール何個も増える本ばかり頼まれちゃったんだろう、いやそのおかげで自分の幅が広がったんだけど……。
 何とかがんばって10年、20年、それ以上住む。と思いました。夫には「どうして「住みたい」と言ってくれないんや」と何度も言われていました。私は「納まる」「住める」としか言っていなかったんですね。豪徳寺は住みたい、友達も知り合いも小田急線には多い。でも、あの部屋は「住める」。環境はいいけど部屋は「住める」。ダメだ、神に弄ばれていてはいけない。
 何かを捨てたら何かが入る、何かを決めたら新しい道が広がる。それはよく言われていることではありますが、私自身の実感でもあります
 今回の物件探しは、30代後半になって急に結婚できないかもしれないと気づいて婚活を始めた女性みたいだ、と何となく思っていました。今は、それでようやくイケメンの彼氏ができたし結婚できそうだけど、性格に難があると感じている状態に似ています。あまりに困った物件ばかりに出合ったし、あまりに適当な部屋がないし、高いし、という状況は、まともな男性に出会わないし、自分はもてなさすぎるし、「私なんかと結婚していただけるなら、文句を言ってはいけない」と自己評価が下がってしまった女性と似ています。思い切ります。引っ越しラプソディはいったん終了です。
 おかげで、新しい仕事の展開を本気で取り組むことに決めました。そして、この顛末をどこかで本にしたいと思っています。「引っ越しラプソディ」体験ルポ、どなたか出版していただけませんか?


 

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