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物語食卓の風景・久しぶりの帰郷①

 けむに巻かれたような美帆との邂逅を経て、数日後。真友子は、長沢美津子と共に関西行きの新幹線に乗っていた。当然のことながら、浮気調査をけしかけた美津子は興味津々である。

「それで、どうだったのよ、不倫相手は若い女だった?」

「そんな。決めつけないでくださいよ。まだ不倫かどうかわからないんですから」

「まだ決定的な証拠は見つかっていないのね。でも、何かわかった?」

「航二が毎週末のサークル活動の後、徳山美帆さんという女性と会っていたことが分かりました」

「おお!それでそれで」

「航二に、サークルへ連れて行ってもらうよう頼んだら、なんと徳山さんと三人でご飯を食べることになったんです」

「ええ!いきなりご対面?つまり、隠し切れないと踏んだのね」

「そうかもしれません。そうでないかもしれません」

「そうでないかも? どういうこと?」

「最初に、航二のLINEをチェックして、美帆さんとのやり取りを読んだんですけど、ひたすら食事の約束をしているだけなんですよ」

「痴話げんかの一つもないのね」

「まあ。はい、そういうことです。しかも、会ってみても航二も徳山さんも全然平気そうで」

「ふうん。で、どんな女だった?」

「若くはなかったです。同年代か少し上か。先輩ぐらいかも。独身だそうです。建設関係の仕事をしていて、海外旅行をずいぶん楽しんでいるみたいでした」

「へえ。私たちの世代、多いのよね、そういう趣味に生きているようなシングルの女性。バブル世代だからねえ。それで美人だった?」

「かっこいい感じでした。スタイルもよかったし。でも、黒い服だったからそう見えるだけかも。でもとにかくよくしゃべる人で、家事のこととか聞かれました。台所の設計に興味があるらしくて、施主さんとの会話からリサーチしたのかな」

「ふうん。設計士なの?」

「いえ、アシスタントだそうです。大学の建築科には行けなかったみたいで。それに業界が男尊女卑的だって。まあそれはどこでもそうですよね」

「建築業界は圧倒的に男社会みたいよ。でもそうか、何か華やかそうな感じよね。でも、何で角谷さんと毎週食事しているのかしら?」

「それがどうも謎なんですよね。知り合ったのは10年前のセミナーだそうです」

「10年間、ずっと毎週会い続けているわけ?それはやっぱり、今はともかくどこかの段階で、身体の関係があったはずよ」

「そうですよねえ。まあずっと会い続けているかどうかはわからないですが、親しくはあるみたいです。それから、LINEをチェックすると、あんまり私が知らないような外国料理の店に行くことが多いみたいで、この間はバスク料理でした」

「外国料理ばっかり? それでお会計は誰がしたの?」

「あ、そういえば航二が全部払ってくれました。私がお金がなかった頃からの習慣で、2人で行くときは航二が食事代を出してくれるものだから、そのときは深く考えなかった。徳山さんの分も当たり前みたいに払っていて、それを徳山さんも特別なこととは考えていないみたいでした」

「やっぱり怪しい! きっと毎回予算は角谷さん持ちね。そのおごりをアテにしてるんだわ、その女。だってアシスタントでしょう?そんなに給料は高くないはずだから、海外旅行をしょっちゅうしていたら、そんなに懐具合はよくないはずよ」

「なるほど。いつも航二が払っているんだとすれば、それが当たり前になる何かがないとおかしいですものね。えー、やだ! それなら何で私の前で2人は堂々としていたんでしょう?航二は何で、徳山さんとずっと会い続けているんでしょう?」

「それはあなたが調べなきゃ。食事会にこれからも参加させてもらえば?それか角谷さんを問い詰めるか」

「いえ、実は徳山さんとLINEを交換したんです」

「なんと!でかした。というか、よくそんな連絡先を教えてもらえたわね」

「向こうが申し出たんです。トイレで航二がいないところで」

「それはますます謎だわ。何だか最近、真友子の周りは謎だらけね」

「それも不愉快なモノばかり……何か厄でもついているのかしら。でもとりあえず、徳山さんからはまだ連絡はないです。私も父の問題を先に進めないといけないから、何かするにしても東京へ帰ってから、と思っています」

「まあ、そうよね。それで妹さんと会うてはずはついたの?」

「はい。明日会うことになりました」

「おお、さっそく。私は明日は大阪観光でもするわ。でも、大阪と言ってもお好み焼きとたこ焼きと吉本新喜劇のイメージしかない。京都とか行こうかしら?」

「大阪はそれだけじゃないんですけどね。神戸もいいですよ」

「ああそうよね、おしゃれタウンだものね。でも、京都のほうが近いんじゃない? あの立地関係だと。京都のお寺とか和菓子とか、懐石とかは手が出しにくいけど」

「東京の人って、みんな京都が好きですよね」

「そう? だって都よお。日本文化の中心地よ。おいしいものがいっぱいありそうだし」

「土地勘あるんですか?」

「あんまし。でも真友子は案内できないでしょう? 今回は」

「今回というか、いつでも京都は不案内です。私はあんまり行ったことがないし、おいしいお店も知らないので」

「えー、関西の人でも知らないんだ」

「だって私が関西にいたのは18歳までですよ。京都の魅力なんてわかんないですよ。遠足で行かされて先生の退屈な話を聞かされたぐらい」

「まあ確かにね。でも修学旅行じゃなくて遠足なのね。関西って歴史の舞台がたくさんあっていいわね」

「奈良も滋賀も歴史の舞台ですよ。確かに、知っている地名が歴史に出てくるというのは、ちょっとした優越感になりますね」

「そうよお。私も特別歴史が好きってわけじゃないけど、やっぱり京都には憧れがあるわあ」

「まあ、先輩1人で楽しんできてください。私は1人で妹と対峙します」

「がんばって!」


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