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物語食卓の風景・昭和家族の妻②

 初挑戦の家事小説。前回はこんな話でした。

 駅から自宅までは、徒歩で20分かかる。バスも使えるが、2駅しかないし、本数が1時間に2~3本と少ないし、バス停からも数分かかるので、結局時間的にあまり得にならないと思うので、遠いけれど歩くことが多い。歩きながら洋子は、また思い返す。

 コロッケだけじゃない、揚げ物全般を最近はつくらなくなってしまった。本当は、サツマイモは天ぷらにするのが一番おいしいと思うし、ごくたまに駅前の商店街の八百屋で見かける立派なタラの芽は、お浸しより天ぷらのほうがおいしいはず。

 でも、天ぷらには、衣に使う卵一個分に合わせて衣をつくると、大量に揚げないと衣のタネを使い切れなくなってしまう。一度、タラの芽を買って、どうしても天ぷらで食べたいからと料理したら、残りを使い切るために家にあるだけの野菜を、片っ端から天ぷらにしたことがあった。

 あんまり大量に天ぷらを並べたから、夫が「こんなにたくさんどうするんや」と驚いていた。「タネが残るから」と言ったら「残しておいて、また使ったらええやん」と簡単に言う。夫は料理しないから、知らないのだ。水を加えてしまったタネは、すぐに使い切らないと傷みそうで怖いし、卵は昔貴重だったあるから、ちゃんと食べないといけない気がするのよね。

 結局、電子レンジで温め直して、3回ぐらいで食べ切ったけど、3回目はもうあまりおいしくなかった。天丼にすればよかったと気がついたのは、全部食べ切ってから。味噌汁に入れるという人もいるけど、私は衣がべちゃっとなるのが嫌で、あまり好きじゃないのよね。うどんに天かすが入っているのもあまり好きじゃないし。

 「こんにちは」 

 急に話しかけられて驚く洋子。ニコニコして目の前にいたのは、お隣の奥さんだった。

「馬場さん、びっくりした。今からお出かけですか」

「夕ご飯の買い物に。立花さんは今お帰り?」

「はい。梅田の阪神まで、孫のプレゼントを買ってきたところなんですよ」

「あらいいわね、お孫さん、何歳になりました?」

「下の子が今度幼稚園なんですよ。3歳」

「あらもう3歳。早いですね。幼稚園ということは、香奈子ちゃん、お勤めしていなかったんでしたっけ」

「そうなんですよ。就職はあんなに苦労したのに、子どもができたら『両立なんて無理』とさっさと辞めちゃって。お姉ちゃんは、『子どもなんて無理』と言い続けて、もう40代後半でしょう。とうとう子どももつくらないで。どっちか、しかできないものかしらねえ、2人とも」

「まあ、なかなか難しいですよね。でも、うちの娘みたいに両方やるとこっちが大変ですよ。やれ、子どもが熱を出したの何だのって、私をタダで使える保育園だと思っているみたいですし、大きくなってくると遊び相手をするのも体力がいるし。親の年齢を考えてくれないのかしら、娘は」

「馬場さんのお嬢さんは、本当に優秀ですよね。有名企業で順調に出世なさって。今は部下もいるんでしょう? 女性でそんな偉い人になるなんて、時代は変わったものですねえ」

「いえいえ、お宅の真友ちゃんもすごいじゃないですか。フリーライターでしょう。会社にお勤めしないでちゃんと仕事をしていらっしゃるなんて、すごいわ。この間も雑誌でお名前、拝見しましたよ」

 洋子は何だかイライラしてきた。適当に挨拶して帰ろうと思っていたのに、コロッケが冷めてしまうではないか。馬場さんは話が長いのだ。それに真友子の話はしたくない。この頃ちっとも帰ってこないので、近況を聞かれても答えられないからだ。


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