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物語食卓の風景・イクメンになり切れない夫①
母への電話を切ると、香奈子は大きなため息をついた。
「どうしたの?」と咲良たちと遊んでいた勝が聞く。
「パパ、パパ、この顔見て」と咲良。両手で顔を引っ張りながら、勝の顔を覗き込む。夕食が終わったところで、子供たちは機嫌がいい。
「おお、すごい顔だな」と相手をしてやりつつ、勝の顔は半分香奈子をむいている。台所へ向かうのを止めて、リビングのソファに座る勝の隣に来る香奈子。
「あのね、お母さんが食事に来いってうるさいのよ。それで結局明後日に行くことになっちゃって」
「それだと平日だろ。俺行けないよ」
「わかってる。だってそのほうがいいでしょ? あなたはうちのお母さん苦手でしょう」
「俺のせいにするなよ。香奈子だって、何かあればお母さんと衝突ばかりするじゃないか」
「そうだけど、私はまだいいのよ。実の娘だから、文句も言える。でもあなたは気を使うから、困っていて、後で『疲れたー』って言うじゃないの」
「まあな。だってお母さんは、返答に困るようなことばかり言うし、何か会話がかみ合わないし、イライラするんだけど、まさかそれを直接ぶつけるわけにはいかないし、ほんと困るんだよな。ごめん、香奈子のお母さんのことこんな風に言って。俺の修業が足りないのかな」
「ううん。実際、うちのお母さんは、すぐ自分の思いつきで突っ走っちゃって、会話の相手を置いてけぼりにしちゃうのよね。だから私はイラっときちゃうのよ。基本的にお母さん、マイワールドの人で自分の妄想の世界のほうが現実より優先なんじゃないかって思うところがある。だからめんどくさいのよね。それで、会いに行ってもなるべく早く帰るようにしていて。でも、ご飯を食べに行くとなると時間がかかるでしょう。あれ持って帰れ、これ持っていけって話になるし。お惣菜とかもらっちゃうと、食事の段取りに困るし、何より子どもたちの口に合わないのよね、昔の料理だから」
「マイワールドか。確かにそういうところはあるかも。ときどきは、お母さんもかわいいところあるなと思うけれど、まあついていけないところのほうが多いなあ。食事はいいんじゃないか、もらったって。俺食べるよ。俺はばあちゃんがいたせいか、昭和の味もけっこう好きなんだよな、煮物とか」
「いや、煮物とかそういう和食系のはまだいいのよ。ベテランの味で、私にはまだまだうまくできないし、味も好きよ。困るのは、洋食なのよね。ポテトサラダとか、マヨネーズがたっぷり入り過ぎていて、砂糖使っているのかな、変に甘いし。和食は古い味の方が安心感があることが多いけど、洋食はいかにも昭和って感じで、何かねえ、私はもうちょっとすっきりした味が好きだなと思うし、子どもたちもいつもと違う味だから残しちゃうのよ。子どもたちも和食のほうが、お母さんの料理は好きみたい」
「だったら、和食をリクエストすればいいじゃないか。そういう香奈子が評価しているポイントをきちんと伝えてさ」
「そうか、そうね。今日はちょっとしんどいから、明日にでもまた電話してみる」
「そうだよ。まあ、お義姉さんが帰ってこなくなった分、香奈子が娘の役割を全部引き受けなきゃいけなくなって、しんどいところもあるんだろうけどな。うまくつき合うしかないよな。そういえば、お義姉さんとは最近、どうなんだ」
「うん、まあね、LINEはやり取りするけど、そういうのだと簡単に会話が終わっちゃうし。かといっていつ忙しいのか分かんないから、電話もなかなかね。まあ、また根気よく連絡してみるわ。お父さんがいなくなったことも伝えたけど、なんかねえ、はっきりした反応がないのよ。心配じゃないのかしら。でも実家にも帰らないくらいだから、もう関心がないのかもね。なんかねー、めんどくさい家族よ。私が1人で悩んでいるみたいな気がする。お姉ちゃんは仕事に邁進しているし、お母さんはお母さんで、お父さんが最初からいなかったみたいに能天気に暮らしているし、誰もお父さんのことなんて心配していないのかしら」
「お義母さんの反応は確かに謎だよな」勝は考え込みます。勝には、洋子さんがどのように映っているのでしょうか。
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