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チャリダーアキの自転車世界旅行 オーストラリア一周編(10)

 
ハットリバー王国(1)

 1970年、1人の男が独立宣言を行い、西オーストラリアからの独立を宣言した。自らが国王となり、妻は王女になったという。こうして75平方キロメートルという広大な土地を所有する独立国が、オーストラリア連邦の内部に誕生している。ちなみにバチカン市国で0.49平方キロメートル、東京ドームで0.047平方キロメートルだというのだから、とんでもない大きさだ。
 
 どう考えても普通ではないと思う。自転車で確認しに行かなければならない。僕はPerth(パース)へと続く道から、ハットリバー王国へ向うために右の脇道に逸れた。
 
 予想に反して道は舗装されていた。15km程進み左に曲がると、未舗装となり砂の上を走らざるを得なくなる。オーストラリア連邦に属さない独立国のため、道路が舗装されていないのだろう。20kmほど砂地を進み、最後に非常識な下り坂を下ると、そこがハットリバー王国だ。

ハットリバー王国とオーストラリア連邦の国境


 
 王国に入ると1人の農夫が話し掛けてきた。農家の母屋のような建物を指差し、
 
「今、中で飯喰ってっから、キャンプ場で待ってな。」
 
 酷く訛ったオーストラリア弁で、それらしきことを言うと車に乗り込み去って行った。キャンプ場は、日本の街中で見かける公園くらいの大きさがあり、わりと綺麗な印象を受ける。
 自転車を木に立てかけて荷物を解いていると、1人のおばあさんがやって来て僕を小綺麗な建物へと案内してくれた。イミグレーションオフィス(入国管理局)と思われる建物のデスクの前に誘導された僕に対して、
 
「パスポートに入国スタンプ押す? フフフッ。」
 
 おばあさんが尋ねてきた。
 
(本気か?本気で言っているのか?)
 
「お願いします。」
 
 そう言って、僕は久々に腰に巻いたマネーベルトからパスポートを取り出し、おばあさんに渡した。
 
“ガチャン!!”
 
おばあさんは慣れた手つきで、なんの躊躇もなくパスポートに入国スタンプを押した。
 
(うわー!押した!)
 
 さらにおばあさんは
 
「明日、朝早く出国するなら出国スタンプも押しておくけどどうする?」
 
 と、たたみ掛けてきた。
 
(えーっ!パスポートに、そんないい加減なことを……)
 
「お願いします。」
 
“ガチャン!!”
 
 おばあさんはスタンプの日付を翌日にセットすると、やはり何の躊躇もなく出国スタンプを押した。スタンプを押したおばあさんは、
 
「フフフッ。」
 
 と、小さな声で笑っていた。
こうして僕は、パスポートにハットリバー王国の入国と出国スタンプをゲットしたのだった。

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