第2回米朝首脳会談の評価は時期尚早②
圧倒的なまでの「トランプ交渉術」を見せつけられた。超一流のチェスを見せられているような交渉だった。だが、これでトランプ外交の勝利や敗北、また金正恩の勝利や敗北を云々するには早すぎる、というのが私の評価だ。本稿は3回に分けてこの評価のポイントを説明する、第2回になる(よろしければ①を先にお読みください。)
①の結論では、北朝鮮とアメリカとで、非核化というゴールには差があり、そのためその交渉の進め方に溝があったことを述べた。
さて、その溝が埋まっていなかったのにもかかわらず、北朝鮮はトランプに第2回米朝首脳会談を求めた。それは、北朝鮮が以下の通りトランプの状況分析をしていたからだろう。
〇トランプの政治的苦境
中間選挙の結果、またコーエン公聴会の状況、大統領選までのプロセスを鑑みて、トランプは「成果」を欲している。
〇トランプのパーソナリティ
米朝首脳会談が実現した通り、北朝鮮が得意な「首領外交」に応じそう。
*首領外交:トップ同士で決めてしまえ!という外交戦略。トップが決めてしまえば、下は従わざるを得ない。実務レベルで手ごわく老練な外交官を外してしまえば、外交の専門家ではないリーダーは騙せるだろう、というもの。とかく選挙に縛られる民主主義国家の大統領・首相は目の前の成果を求めるので、長期政権となる北朝鮮にとっては「肉を切らせて骨を切る」戦略も取りやすい。
〇トランプの本気度:目的と手段
トランプの目的は世界平和:北朝鮮の非核化ではなく、再選・ノーベル平和賞などの栄誉・虚栄心。北朝鮮の非核化は「目的」ではなく「手段」。トランプの任期中に成し遂げられるか分からないほど長くかかるであろう北朝鮮の非核化=成果を見せられないモノに、本気で取り組むとは思えない。
ここから、第2回米朝首脳会談における北朝鮮の交渉戦術および見通しは、以下のようなものであっただろう。
〇分かりやすく、派手な成果をトランプにプレゼントする
〇その代わり部分的な制裁解除(たとえそれが、ほんの一部であっても)を勝ち取る
〇これにより、北朝鮮の求める「段階的な積み上げ方式」による非核化プロセスで米朝交渉を進めることを認めさせる
だからこそ、「寧辺の完全な非核化」をカードに部分的な制裁の緩和を要求した。恐らく、制裁緩和の項目は初めに大きく提示し、徐々に項目を減らすことで「妥協を演出」しようとしたのだろう。これにより北朝鮮が得られる成果は以下のものである。
〇北朝鮮ペースの米朝交渉の実現
〇部分的な制裁緩和=将来的な全面制裁緩和への期待をPR(=韓国・中国企業の投資を呼び込む)→ そこからなし崩し的な制裁の無力化
〇寧辺という象徴的な核施設の解体することによって、それ以外の隠れた核施設を温存
恐らく、こうした見通しは、北朝鮮だけでなく多くの人々がもっていたものだろう。だからこそ西側メディアは危惧し、北朝鮮や韓国は楽観視していた。なお、筆者も、交渉前までは「トランプ、北朝鮮ペースに引きずり込まれるだろうなぁ」「そして次の政権でひっくり返されて、北朝鮮が反発して…を繰り返すことになるだろうな…」と、北朝鮮の非核化に悲観的な見通しを持っていた。
これが、ひっくり返された。
筆者の見通しの甘さを恥じ入ると共に、「トランプすげー!」「トランプ、分かんねー」と称賛してしまった。
そこで第3回目(最終稿)では、トランプの交渉術を読み解いていこうと思う。