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絶望と希望と僕と君~滅びの前のシャングリラ感想

人は絶望の中に希望を見つけたときが一番美しいのかもしれない。


「明日世界が終わるとしたら何する?」
大方の人間はそう悩む事なく答えられると思う。
私の場合は「家族といっぱいご飯食べて幸せに寝てる間に終わって欲しい」と答える。
じゃあ、だ。
「1ヶ月後に小惑星衝突で世界終わります。NASAもお手上げです」
なんて言われたらどうする?
困り果てながら出社すると思う。なんのために働くんだろうって思いながら。

というわけで凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』感想です。以下リンクとあらすじ。

「明日死ねたら楽なのにとずっと夢見ていた。
なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている」
一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」四人が、最期の時までをどう過ごすのか――。
圧巻のラストに息を呑む。2020年本屋大賞作家が贈る心震わす傑作。

https://booklog.jp/item/1/4120053407

まず書いておきたいのが、あらすじの通りラスト数ページの美しさたるや「美しい」という言葉はこのシーンのためにあるんじゃないかとさえ思うほどだということ。
THE SPELLBOUNDの記事で書いていた曲を聴いてうわーってなったのはこのラストシーンに向かうところである。歌姫の最後のステージのシーンなのもあるが、スペルバさんのぶわあああっと世界が広がるイメージが惑星衝突による光の広がりに重なったということだなと少し経って冷静になって気付いた。

「一ヶ月後の小惑星衝突と人類滅亡」というフィクションみたいな事実を突きつけられてからその最期まで悩み行動し生きる様を4人の視点から描いていく作品。
この視点の移動により少しずつ各々の行動や心境に補足が加えられていくのが面白い。
以下まあまあネタバレあり。
滅亡を1ヶ月後に控えた人々はだんだんと暴徒と化し、まさに世は世紀末状態。そしてその極限の精神状態によるちょっと普通じゃ出来ない行動が各々が抱える心の問題を解決するトリガーになる。
憧れの女の子が世紀末状態の東京に行くと言うから守るために同行しようとするいじめられっ子とか。昔の女を忘れられなくて必死で探して襲いに行くチンピラとか。自分の価値が分からなくなってプロデューサー殺して地元の友達とコンサートする最後の歌姫とか。
じわじわと個人の物語が絡み合って少しずつ解決してなんか良い感じになったなあ…よかったね…と思っているところで惑星の衝突が起こるんだけど不思議と穏やかな気持ちになっている自分がいる。
それはきっと全てが終わる前に登場人物たちが「幸せ」を感じる瞬間をきちんと見届けられたから。前提としての「終わり」とそこに至る苦悩を見せられたからこそ感じられた穏やかさと美しさなんだろう。

こういう小説って実はあまり読んだことが無かったので新鮮だった。
心理描写がとても丁寧な印象で、一人称ということもあってかなり読みやすかったかなと。
最後のぶわあああっとした感情を味わって欲しいのでオススメです。
何か自分の死生観とかそういうものを考えたくなるし、もう少し自分の生活ちゃんとしないとなーという気持ちにもなれます。それは普段からちゃんとしろ。はい。

…という訳で次は『鳩の撃退法』を読んでいる。
回りくどくてキレそうになりながら少しずつ読み進めてる。かなりかかる予感。

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