【私のピアノ練習スタイル】パラシュート勉強法的 「まず弾きたい曲ありき」選曲
大人からのピアノ 「残された時間は少ない」。上達速度を少しでも上げるために
私は子供の頃には習っておらず、大好きなクラシックの楽曲を弾きたい一心で40代からピアノを習い始めました。2022年9月現在、習い始めて丸6年とちょっと。
2022年は、ピアノを始める前から大好きだったラヴェルのソナチネなど、かつては夢・憧れと思っていた楽曲を仕上げレベルまで弾けるようになってきました。初心者からピアノを始めた割には、上達のスピードとしたらごく普通よりは結構速いと思います。
大人になってからピアノを習得するのは難しいと思って、始める以前に諦めてしまう方も多いと思います。しかし私自身、苦労も努力も紆余曲折も思考錯誤もしましたが、なんとかここまで弾けるようになりました。
私が目標する楽曲は、中年から習い始めた者にとっては、能力に対してかなり難易度が高い上級者向けのものばかり。とはいえ、これらの曲を弾くことを夢・憧れベースではなく、実現させようという「やる気」だけはすごくありました。たぶん、その時点では無理と思っても、「やるぞ!」という自身のモチベーションを信じて取り組めば、時間はかかったとしても大方のことは達成できるように思います。
ゴール設定(目標とする曲の難度)が高いことから、私はピアノを始めた当初から「自分に残された時間は少ない」的な焦りが強く、上達の速度を上げるためにかなり独特な自分スタイルで練習を進めてきました。
手がける選曲や日々の練習の進め方・先生選びなどなど、いろいろ工夫やチャレンジもしたし、ピアノを学んでいく中での素晴らしい先生との出会いなども味方して、現在はかなり「私にはこのスタイルが合ってるな」と思える練習スタイルが定まってきました。
人それぞれ向き不向き・合う合わない・練習環境の違いがありますので、もちろん私の練習スタイルも万人向けではないでしょう。ましてや、当の本人である私自身が現在進行形で新しい情報をインプットしつつ、自分を実験材料にして練習の仕方を日々常に改良しているので、現在の練習スタイルでさえも確立固定された方法ではないのですが、私自身、実験結果としてそれなりに手応えを感じています。
もしかするとこれからピアノを始めたいと思って踏み出せずにいる大人の方や、ピアノを始めてみたもののなんだか行き詰まりを感じている方に、私の練習スタイルやピアノとの付き合い方から、なにか勇気や新しい考え方を提供できるかもしれないと思い、私なりのピアノ練習についての情報を発信していくことにしました。
今回は、取り組む楽曲選びについて書きたいと思います。
「弾けるか弾けないか」ではなく「弾きたいか弾きたくないか」で選ぶ
手がける楽曲を決める際、「自分にも弾けそうだな」とか「今の自分より少しだけ背伸びした楽曲を」という風に、今現在の自身の能力を基準に選曲している方も多いのではないでしょうか。
私の場合、すでに「人生の中でこの曲を弾きたいっ!」という楽曲がかなりあるので、超難曲で知られている曲はさすがに後のお楽しみにしていますが、あまり遠回りはせず、難易度的に超飛び級背伸びであったとしても「弾きたい曲」にダイレクトにチャレンジすることにしています。
「身の丈に合った曲をやった方がいいんじゃない?」とか「基礎ができてなければ何も弾けないですよ」といった考えももちろん分かりますし、まさにそれも正しいと思います。
しかし、そのように考えていると、子供から習っているわけではない大人初心者にとっては、上達への道程が長くなりすぎて、一生の内に「叶えたい目標」に到達できない可能性が高まってしまうという側面もあるんですよね。
人それぞれいろいろな考え方があると思いますが、私は大人のピアノ練習は「弾きたい曲を弾くのが上達の近道」と思っています。
大人のピアノ練習は仕事や家事との両立など環境面のことや、自分の体なのに思うように動かない「弾けない自分」と向き合う(かなり強い😅)ストレスなど、弾くよりも「高いモチベーションの維持」自体が難しいんですよね。
「弾きたい曲を弾く」というだけでも、夢や憧れの実現に少しでも近づいているのが体感できますし、俄然モチベーションが上がります。
憧れの曲を弾くためであればこそ、羞恥心もプライドも捨てて騒音以外の何者でもない譜読みや地味キツいメトロノーム練習にも耐えられるし、プライベートの時間を削ってでもがむしゃらに(でも結構楽しく)頑張れるんではないでしょうか。
その強いモチベーションリソースが地道な日々の練習を続けて上達を目指すための掛け替えのない原動力になると思うんです。どんな曲もそれなりに頑張って取り組まないと上手には弾けませんから自分を突き動かすエネルギーの確保こそが大事。
たとえ、努力しても弾けなくていったん断念したとしても、もう少し簡単な別曲を何曲かやってから再チャレンジもできます。結局、何もしないよりは「憧れの曲を弾けるようになる」方向に進むんです。
↑のバッハ 平均律1巻2番 前奏曲は、3年前に最初にチャレンジしたときは全く歯が立たず、いったん寝かしてあったんですが、2022年再チャレンジして、なんとか形になりました。引き続き、より完成度を高められるように練習しています。
もしその曲を一生弾けなかったとしても、少なくとも「あの難しい曲に果敢にチャレンジできた自分」を好きになれる。チャレンジして悪い結果になることはなくて、良いことしかないんですよね。
尻込みや遠回りをした結果、「一生その曲に辿り着けなった自分」になってしまうとそれこそ勿体無いし残念。人生に悔いを残さないためにも「弾きたい曲を弾け」とあえての命令形で言いたいくらいです。
いずれにせよ 結局は自主的に基礎の大切さに立ち戻ります
とはいえ、背伸びで選んだ楽曲はやはり自身の能力より難度が高いですから普通に難しいです。なかなか思うようにも進まないので、私でも好きな曲じゃなければ地道な練習を続けられないでしょう😅
たいてい曲は、1曲の中にいくつか違うタイプの難所があるので、それらをひとつずつ克服していく感じですね。
たとえば、今年手がけている バッハ 平均律クラヴィーア曲集 1巻2番の前奏曲の前半は↓のような感じ 。同じような音型が少しずつ変化を伴いながら反復的に続きます。このパートを音ツブを揃えてキレイに弾くのがまず難しい。
ここはハノンとほぼいっしょのリズム変奏練習を何パターンも地道に続けることでだんだん弾けるようにしていきました。両手が接近し音幅が狭まる箇所は特に弾きにくいので、そこだけ抜き取って部分練習。
通して弾けるようになったら今度はメトロノームに合わせて、ゆっくりから完成スピードまでこれも何パターンもの速度で。こうすることで少しづつミスが少なく、速く弾けるようになりました。いやー地味で根気のいる作業でした😅
ラヴェルのソナチネ 第1楽章の第1主題。狭い範囲で両手が重なるポジションで、メロディと細かい内声を弾くのですが、細かい音を弱く速く弾きながら、各声部を表現を伴って弾き分けるのがこれまた緻密手強い。
これも地味に外枠のメロディだけ、内声だけ、と分けて弾く練習や各種リズム変奏練習、そして超〜〜絶ゆっくりで全ての音をチェックしながらミスなくキレイに弾く練習を続けて、自己評価としてはまあまあ弾けるようになってきました。
お気づきかと思いますが、結局、難しい曲をやっていても、それを弾けるようにするための練習は、弾ける程度まで遅くしたり解体したりして身の丈にあった簡単さにまで負荷を落として、ハノンなどの基礎練や、ゆっくり片手づつ弾いてから両手で合わせるみたいな練習の基本の繰り返し作業なんですよね。
なので、難しい曲に取り組んでいても、その練習内容は結構基礎に立ち戻った練習になりますし、それでも足りなければ、実際にハノンとかに立ち戻って、その要素に効く練習するようになります。要は、基礎と応用、取り組む順番の「出発点とゴール」が逆になってるだけなんですね。
先にゴールを見ておくと、ゴールに至るまでの距離感(難しさ)や必要なものが前もって分かるので、先が見えない不安もなく精神的にも楽ですし、その曲には不必要な練習をすることもなく効率的だと思うんです。
ちなみに基礎といえば、スケールとアルペジオはどんな楽曲にもほぼ必ず含まれる要素なので、私も毎日朝イチのルーティーンワークにしています。何の曲を弾くにしても役立ちます。
「パラシュート勉強法」をご存知ですか?
私の「超背伸び選曲」スタイルは、野口悠紀雄著「超勉強法」の中で、数学の効率的な学習法として紹介されているメソッド「パラシュート勉強法」にヒントを得ています。
平たく言うと、裾野から歩いて山登りをするのではなく、パラシュートで山頂に直に降りて裾野の景色を見渡すように、まずは基礎的なことの網羅学習は飛ばして、ゴールとなる応用課題の解き方から詳しく学び、あとから足りない基礎を補っていく勉強法です。
数学は基礎の範囲が広く、そして基礎が難しく退屈だったりして、基礎をやってるだけで、その目的が見えずに勉強自体が嫌になってしまいやすい科目だったりします。多くの人が本題の応用問題までたどり着けないんですよね。
パラシュート勉強法だと、目的地となる応用課題を最初に学習することで、それを解くのに足りない基礎要素が特定でき、またその基礎を学ぶことの意味が分かるので、効率的に目的をもって基礎を学ぶ足がかりになります。
常にゴールを見てそれに向かって取り組む方が意欲的になれるなという観点から、私はピアノ練習の選曲にパラシュート勉強法の考え方を応用しています。
相当背伸びであっても「自分が本当に弾きたい曲」であれば、まずその地に降り立り、それから足りないものを揃えていくことで、いずれは住みなれた場所のようになると思うんですよね。
6年前、私がピアノを習い始めた時も、独学時代にある程度譜読みはしてあったものの、ベートーヴェンの悲愴ソナタとドビュッシーのベルガマスク組曲からスタートだったので、初心者が手がけるには難しい選曲だったと思います。
↑は、ベルガマスク組曲の最後に手がけた第2曲「メヌエット」。なにげに同組曲の中では一番難しかった😅 美しいメロディや展開があって大好きな曲です。
当時の先生も私の意思を尊重してくれて、基礎教本から漸進的に学ぶのではなく、私選曲の楽曲をレッスンしてくださいました。最初のうちはなかなか弾けるようにならず、先生も相当ヤキモキしたことと思いますが、根気よくご指導くださり、本当にありがたかったです。
そして習い始めて2年かからずに、完成度は低いものの悲愴全楽章とベルガマスク組曲全4曲を一応はコンプリート。その後もベートーヴェン ソナタ17番 テンペストやドビュッシー 版画全曲など、さらに難しい曲も仕上げました。
初期に手がけた悲愴やベルガマスク組曲も、折を見てより完成度を上げた2回目の仕上げに取り組みたいと思います。歩みを続けることで前に進めますね。
習い始めて6年経って今思うのは、その時の自分には難易度高すぎると思っていた曲も地道に練習を重ねることでいずれは弾けるようになるということ。
夢を夢のままで終わらないためにパラシュート勉強法はなかなか有効と思います。