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感動、だけでは済ませられない 映画『ミアとホワイトライオン』

昔、日曜日の夜にハウス食品の『世界名作劇場』というアニメ番組があって、そのなかの『ブッシュベイビー』という作品が大好きだった。その頃から、アフリカのサバンナに暮らす野生動物を自分の目で見ることが夢だったし、今でも動物と心通わす系の話にめっぽう弱い。

そんな私のためにあるような映画、『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』を観に行った。”CGなしで撮影された””奇跡の映像”って触れ込みに興味を持ったのだが、事前情報をしっかり見ていなかったこともあり、良くも悪くも思ったのとは違う、とても心に残る作品となった。

南アフリカでライオンファームやホテルを経営する父について引っ越してきた少女ミア。新しい土地に馴染めず、学校にも居場所がないミアだが、クリスマスにプレゼントされたホワイトライオンの赤ちゃんチャーリーと次第に通わせて行き……というのが簡単なあらすじ。

まず、この映像がCGなし、ということにただただ驚くばかり。3年かけて撮影しているので徐々にチャーリーが(もちろんミアも)成長していくのだが、牙もタテガミもどんどんご立派になってゆく…。最終的にはガオーっと噛み付いたら間違いなく大事件になるであろうくらいのライオンになるけれど、ミアは心を通わせていると信じて疑わず、親の目を盗んで檻の中に入ってはじゃれ合ったり一緒の時間を過ごすのだ。

昔なら完全にミアの目線で見ていたと思うし、ミアとチャーリーの距離が近すぎるといちいち驚いてわめく母親に「大声出すんじゃないよ!」とイラッはするのだが、全否定はできない。だって動物に絶対はないと今ならわかるから。サバンナの大自然とかわいい動物を愛でたい、ヒーリング効果は如何ほど!と期待していたけれど、終始ヒヤヒヤしている自分に気づいてしまう。

また、ここからはちょっとネタバレになってしまうが、この映画にはもう一つ大事なテーマがあった。それが「缶詰狩り」というもの。これ、初めて知って、かなり衝撃を受けてしまった…。南アフリカでは、ハンティングで動物を撃ち殺すのを楽しむのが合法になっているそうで、しかもミアの父親は缶詰狩りの業者にライオンたちを売っていた。

ブッシュベイビーでも、高価な象牙のために象が殺されるシーンがあったが、さらに酷い。「殺すのを楽しむ」って!!別名を「キャンドハンティング」と呼び、スポーツとして愛好家がいるらしい…。そんなかっこいい名前つけるな!人間、なんて身勝手なんだ…

ともかく、自分の父親がクズだということがわかったミアは、愛するチャーリーをここに置いておいてはいられない、保護区域まで連れて行く!と決心し、チャーリーとふたり、冒険の旅に出るのでした……。

女の子とライオンの仲睦まじいほっこり話かと思っていた私は、蓋を開けてみたら超社会派、予想以上の濃厚な話に「これはどうやら癒されに来ている場合じゃないぞ」と思わず座りなおした。缶詰狩りの事実がずんと重くのしかかり、人間に対するやるせない怒りが充満したし、これまで夢だったサバンナでの野生動物ウォッチングが、もしかしたらこんな業者に回り回ってお金が届くのかも知れないと思うと吐き気がした。きっとちゃんとしたところもある、と信じたいけれど、それはこれからもう少し情報を収集する必要がありそう。ただ、こんな実態があるのだということを知れてよかったし、映像は本当に素晴らしかったので、観てよかった、満足度の高い映画体験だった。

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