仮面を付け替えてもワタシ #教養のエチュード
お芝居が好きだ。「演じること」が好きだ。
目の前の役にとぷんと沈み切ってしまえば、ありとあらゆる人生を追体験できるから。
勇者になって国を救ったり、魔女になって森の奥でひっそり暮らしたり。年上幼馴染に恋する少年の人生も、身分違いの悲恋に嘆くメイドの人生も、お芝居を通して追体験できる。
お芝居が好きだ。「演じること」が好きだ。
その瞬間、そこにいるのは私じゃないから。
小さな劇団の看板女優で、後輩に厳しいウエディングプランナーで、この世の全ての女性を愛する英国騎士で、凛とたたずむ主様に永遠の忠誠を誓った盲目的な少女が、そこに存在する。
幾度も仮面を付け替えて、私は「自分ではないなにか」になろうとする。
だけど。
仮面を付け替えたところで結局、ワタシは私以外の何者でもない。
どれだけ他人になりかわりたくても、違う人生を追いかけてみても、どれだけ選んだ「仮面の人生」を生きようとしても、「完全」は有り得ない。自分じゃないなにかに99.99999…%近づけたとしても、100%は、ない。
「プライドの高い看板女優」の仮面をつける。
彼女は何を見つめるのだろう、感情はどのように揺れるだろう、この状況下で彼女が抱くのは嫌悪か、怒りか、それとも軽蔑か。頭をフル回転、必死に考える。ピンと伸びた背筋、キッと前を見据える力強い視線、指の先の先まで神経を巡らせ、常に気をはり、その心に鎧をまとう。できる限りを尽くし、彼女の心に近づいていく。
それでもワタシは彼女自身になれない。
「仕事のできる先輩プランナー」の仮面をつける。
愛ある厳しさで後輩を導く姿に、どうすれば近づけるだろうか。自分の中に何人ものキャリアウーマンを呼び出して、そこからできる女の要素を吸い出して、構成する。彼女が生きる上で大事にしていること、休みの日の過ごし方、好きなブランドからこれまでの経歴まで、全部事細かに妄想する。ひとつひとつ、彼女のリアルを構築していく。
それでもワタシは、かのじょになれない。
どの仮面をつけて全力で演じても、「正解」は決して手に入らない。どこかの誰かの人生を追体験することはできても、その「誰か」の「完全体」には、なれない。
せいぜい私にできるのは、これまでの人生が作り上げてきた「私」と「仮面」を掛け合わせて、「ワタシオリジナル」の「役」を作り上げること。それだけ。
あの日の私、「会社員」の仮面をつけていた。
周囲が求める完璧な「会社員」の役を追い求め、完全になりきろうとした。仮面をつけている私自身のことなんて振り返ることもなく。
私は無で、ゼロで、ワタシは仮面に100を注いでいた。
掛け算でゼロをかければ、答えは結局ゼロにしかならないなんて小学生でもわかる。どれだけ理想の「会社員」になりきろうとしたって、私が無=ゼロなら答えはゼロにしかならなかったのに。
最近の私、「恋人」の仮面をつけている。
「恋人ならこれぐらい当たり前!」なんて世間様の完璧な理想像があったとしても、私はそんな「世間が定義する恋人」の完全体にはなれないことが分かっているので。今、目の前にいる彼を何よりも誰よりも大事にできるよう、「私」と「恋人」の仮面を掛け合わせて、ワタシだけの恋人像を作り上げていく。それでいい。
noteでの私、「蔦縁ヨウ」の仮面をつける。
これまで生きてきた「私」の感情を、思考を、伝えようと仮面をつける。ここが誰かの縁り所になればいいな、なんて思いながら、時折「私」を吐き出しながら、ワタシは蔦縁ヨウの仮面をつけて、無謀にも世界を語る。
仮面は、偽りじゃない。
仮面を通してみた世界は、虚構じゃない。
仮面をつけた自分が無なら、その世界は虚構かもしれない。
「友達」「親」「上司」「勇者」「部下」「先輩」「職人」「販売員」「20歳」「後輩」「会社員」「魔女」「ライター」「患者」「チームメイト」「演者」「観客」「記者」「子ども」「ニート」「先生」「トレーナー」「小説家」「被害者」「恋人」エトセトラ。
積み重ねた「私」が仮面をつけて見る世界は、私の目の前にしか現れない。だから。「私」が見たい世界があるから、「ワタシ」は「私」を大事にする。私に水をあげて光を注ぐ。仮面をつけてワタシを演じる。私もワタシもどっちもわたし。
もしも他人から無理やりつけられた仮面が苦しいのなら、そのときは一度外してしまえばいい。そうして代わりに違う仮面を選んでしまえ。仮面を選ぶ権利は私にあるし、誰かの仮面を選ぶ権利は私にはない。
私を育てて、仮面をつけて、ワタシは世界を生きていく。
あなたが欲しい景色、どんな仮面の向こうに見えるだろうね。
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小さな劇団の勝ち気な看板女優も、後輩に厳しいウエディングプランナーも、柔和にほほ笑む英国騎士も、女王に仕えた戦う少女も、あの日私が舞台上でその人生を追った「ワタシタチ」です。
舞台の上でも、リアルの上でも、
着飾りたいときは思いっきり着飾って、思いっきり演じればいい。見たい景色にたどり着くために「私」と「ワタシ」を掛け合わせるんですから。
こちらに参加させていただきます。私がnoteを始めたときには第二回がすでに終えていて、次こそは参加しよう!とワクワクしながら待っておりました……!「エチュード」ですしせっかくだから、小説に挑戦してみようか、文体を変えてみようか、なんていろいろ考えたのですが。
キーボードをはじく指が軽快なテンポで踊った、この文章が一番「私」らしくて「ワタシ」らしい文章だなぁ。
と思えたので!こちらで参加させていただきます。
思いっきり書く機会を、ありがとうございました!
延長3日目。あと2日。こちらも走り切りますよ!
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。何かあなた様の心に残せるものであったなら、わたしは幸せです。