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創作大賞2024 漫画原作部門『温羅タロウ』第3話「知りたい」

ハクリの生け贄の儀式の最中、
かがり火を1つ吹き飛ばして現れたタロウ。
里の者たち、クリーバ、そしてハクリが驚きの表情を見せる中、
タロウはゆっくりと周囲を見渡す。

ユンジの父「な、なんじゃ…貴様は?」
慌てて里の男たちが槍や弓矢を構え、タロウに向ける。

ユンジの声「待て! 待ってくれっ」
遅れてユンジが到着する。ユンジは両膝に手をつき、呼吸が大きく乱れている。
ユンジ「なんちゅー…脚力じゃ…はあはあ。」
ユンジの父「ユンジ!?」

ユンジ「父上! この者はハクリの命の恩人でございます!」
ユンジの父「何っ!?」
ユンジ「この者の話も聞き、今一度吟味をっ」

クリーバ「汝、もしや…藤玄の森に住まう童子かっ!?」
冷や汗をかき、目をひん剝いてタロウに問う。
タロウはクリーバに視線を向けるが、答えない。
ユンジの父「なんと! ユンジ、ヌシまで御神域に入り、このような者を…!」

クリーバのモノローグ
「まさか…鬼王様がお探しの鬼人の子!? 
 まさかこんなところに…! が、これはまたとない好機!
 彼奴を娘とともに鬼王様のところに届ければ…!」

ユンジ「父上、どうかこの者の話をっ…!」
クリーバ「彼奴(きゃつ)は鬼と人のあいだに生まれしあやかしの子! 忌まわしき鬼人である!」
クリーバの言葉に恐怖を感じ、タロウに武器を向ける里の者の囲いが、グッと狭くなる。
ユンジ「父上っ!」

タロウはぐるりと周囲を見回し、それから磔にされているハクリを見つめる。
ユンジはハクリのもとに駆け寄ろうとするが、槍をもった里人に止められ、羽交い締めにされる。

タロウのモノローグ「これは…なんなのだ。」
異様な儀式の雰囲気、そして何かに取り憑かれたかのようにおびえ、タロウに武器を向ける里の人びとを見渡して、理解し難いという苦悶の表情。

(ミニ回想)
母との最期のとき。母がタロウを抱きしめ、タロウも母にしがみつく。
タロウの母「大切なことを知りたいと強く思うことがあったら、この珠を抱いて心に聞いて。」
幼きタロウ「…わからないよ!」
タロウの母「大丈夫、そうしたいと思う時が来るから。」
(ミニ回想おわり)

宝珠から自然と強く温かい光が広がる。
宝珠には、真実を見通す力を助ける霊力が込められている。
タロウ「これは…いったい…!?」
クリーバ「げぇ、そっそれは…!!」
クリーバがあからさまにおびえた表情を見せる。

タロウは宝珠を強く握りしめると、さらに強い光が放たれ、周囲に広がる。
クリーバの衣が溶けるようにして剝がれ、醜く凶悪な老鬼の姿が露わになる。
クリーバ「ぐぬぬ、やめろぉぉぉお!」
里人たちは温かい光に恐れや攻撃性が少し薄れ、戸惑う表情になる。
里人たち「クリーバ様が…」「これは…鬼?」「なんてこった…。」「ではこの儀式は…。」

クリーバ「はあはあ、なんということを…。」
ハクリ「ああっ…!」
ハクリはボロボロと涙を流す。
宝珠の力でハクリの抑圧されていた気持ちもあふれ出す。
ユンジ「ハクリ!」

クリーバ「かくなるうえは力づくでっ!」
クリーバが妖魔たちを呼び寄せ、ハクリを襲わせる。
ユンジ「あっ!」

ユンジ「やめろっ!」
ユンジが体当たりで妖魔を止める。
他の妖魔たちは里人たちにも襲いかかる。
里人たち「ひえぇ! たすけっ…!」

クリーバはタロウを睨む。
クリーバ「鬼の血を引きながら人につくのか?」
タロウもクリーバをじっと見る。
ハクリ「タロウ…」小声でつぶやくように。

クリーバ「奴ら人間は貴様に何をした!? 奴らの貴様を見る目を見ろ!」
タロウに槍や弓矢を向ける人びとの目には、恐怖や怯えの色が浮かんでいる。
タロウの脳裏に、タロウを愛おしそうに見つめる父と母の眼差しがフラッシュバック。
ハクリ「タロウ…」普通くらいの声に。

クリーバ「鬼人の子よ、里の者どもを皆殺しにせよ! さすれば貴様も鬼王の一族に迎え入れられよう!」
ユンジは妖魔と揉み合い、片腕に深手を負う。
ユンジ「ぐっ! タロウ!」
クリーバ「さあ、鬼人の子よ!」

ハクリ「タロウ!」
ハクリの叫び声が響き渡る。

ハクリ「選んで!」
タロウはハッとし、ハクリと目を合わせる。
ハクリ「選ばなければ……、何もわからない!!」
その言葉に反応するように、タロウは首元の宝珠を握りしめる。
再び父の背中と、母の「いつかわかるときがくる」という言葉がフラッシュバック。

タロウ「……父ちゃん、母ちゃん」
宝珠から放たれる光が変化する。
タロウ「オイラは……、は知りたいよっ!」
タロウが素直な気持ちを取り戻し、一人称が父母といた頃の「オイラ」になっている。

タロウ「オイラは…オイラの心に従うっ!」
宝珠が眩いばかりの光を放ち、クリーバの焚いた邪悪なかがり火をかき消す。
儀式のかがり火も、里の松明もすべて消えるも、宝珠の光が眩くあたりを包む。
クリーバ「ぐぬおおお! こ、これは…!」
その宝珠の光で弱い妖魔たちが数体、消滅していく。

クリーバ「これは……あやうい! あやうすぎるぅ! や、やれぇ!」
残った妖魔の数体がタロウに襲いかかる。
タロウが背中の大刀の柄に手をかけると、宝珠と大刀が共鳴。

するりと大刀が抜け、タロウをオーラが包む。
刀を抜き、構えるタロウのりりしい立ち姿。
ハクリ「刀が…!」
ユンジも里人たちも驚きの表情。
クリーバも目を見開き、顔を歪ませる。

ズバァァァアアアン!!

飛びかかってくる妖魔たちを、タロウが一瞬で両断する。
衝撃波は地面まで切り裂き、奥の木々も吹き飛ばす。

タロウ「こんな…力が。」
ハクリ「ぐぎぎ…! くっ、娘だけでも…!」
クリーバがハクリに飛び掛かる。
ユンジ「あっ!」

その刹那、ケタ違いのスピードでタロウがクリーバに突進し、その大刀を振り下ろす。

ズシュゥゥゥウウウ!

クリーバ「ぐえぇえっ!!」
クリーバは片腕を切り落とされ、あまりの衝撃に吹き飛ぶ。
タロウはまだ大刀の力を使いこなせていない。

ユンジ「す、すさまじい…。」
里人「あっ!」
クリーバが這うようにして逃げようとするが、その背後にタロウが立つ。
ユンジ「させるか…! あっ…。」
クリーバ「ひぃいいいい…! た、たすけ…。」

タロウ「…………。」
タロウは顔をぐしゃぐしゃにして命乞いをするクリーバをじっと見つめる。
そして、くるっと背を向けると、とどめを刺さずにユンジらのほうへ歩く。
ユンジ「とどめを…刺さぬのか?」
タロウ「…ああ、鬼は食わぬからな」

そう言ってタロウはハクリを見る。
目に涙の跡が残るハクリは静かに頷く。
瀕死のクリーバは残った妖魔たちに抱きかかえられて逃げ去っていく。

明朝、里では死者の埋葬、傷ついた里人の手当て、儀式台の解体などが行われている。負傷した片腕を吊ったユンジは、その陣頭指揮をとる。
ユンジ「亡骸はこちらに…! もっと湯を沸かせ! 薬は足りているか?」
ハクリ「ユンジ様…。」
ユンジ「ハクリ! 何をしておる、お前も休め!」
ハクリ「いえ、それが。」
ユンジが振り向くと、そこにタロウが立っている。
ユンジ「おお、タロウ! 昨夜は助かった」
タロウ「世話になる。」
ユンジ「は?」
タロウ「知りたくば来いと言ったのはお主だ。お前(人間)のことをもっとよく知りたい。だからここにいることを選ぶ。」
ハクリ「たしかお部屋がひとつ空いていた…と。」
タロウがぺこりと会釈する。
ユンジ「その部屋はハクリのためのっ…!

ユンジ「なぜだ〜!?」

つづく−−


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