【ショートショート】 様変わりした街と
「忘れ物無いー?、持ち物持ったのー?」
「持ったよ😡!」
という、いつもの儀式を終えて、A子は息子のB男を車に乗せて慌ただしく学校に送っていく。程なくして信号が赤になってハンドルを握る自分の右手をふと見ると、固まった白い粉のようなものが付着していた。
「何だこれ?」と思うや否や、ああ水溶き片栗粉が飛び散ったあとだなと合点がいって再び青信号とともに車を発車させた。手洗いの仕方失格かよ!と軽くツッコミつつ、まったく冷凍食品さえあればこんなことにならずに済んだのに…と嘆かずにはいられなかった。
ウィルスの蔓延を受けて、70億人以上の人々が恒常的にワクチン接種が必要になってしまい、冷凍食品保存のリソースを医療関係に全振りせざるをえなくなったしまったようで、冷凍庫制限条約が締結され、冷凍食品禁止法いわゆる禁冷食法が施行されてしまった。例外として氷とアイスクリーム、流通時の冷凍のみ許可され、メーカーも冷凍関係の技術を医療用の商品開発と製造に振り向けなければならず、家庭用冷凍冷蔵庫の新規販売に関しては極端に冷凍庫が小さいものしか許可されなくなってしまった。
それからというもの、中古の冷蔵庫の価格が高騰し盗難が相次ぐし、ファミレスのセントラルキッチンの製造工程等も変更を余儀なくされる始末。アイスのパッケージの中に冷食を入れた偽装商品や闇冷食、闇取引への参加、手作り冷食などの工夫をしなければ入手が難しくなってしまった。うっかり仕込みや入手を怠ると翌日の弁当作りで追い込まれてしまうし、就活に失敗すると闇の業界に身を窶す若者も出始めていた。
街中には突如として焼き立て餃子と焼くだけ餃子の店が乱立し、どんだけ餃子好きだったんだよと思わずにはいられない。でも、やはり日本女性がかなり痛手を受けたんじゃなかろうか。法改正時はみんな内心では大反対なのに、表明できない空気だったし。
「ほんとウィルスのせいでいい迷惑だよ!ドラえもんだってこんな未来は言ってなかったのに!」と毒付きながら、明日の弁当のおかずどうしようかと途方にくれていた。
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