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超音波による交信

 SNSを使って発信している美容師は多いが、わたしがとくに興味を持って見ているのが、ヘアセットを得意とする若い女性美容師Mさん。
ヘアセットは成人式とか卒業式とか推しのライブとか(最近はライブに行くのに「ヘアメ(ヘアセット&メイクアップ)」をプロにしてもらうらしい)その日限りの特別な儀式であり、失敗はとくに許されない。
なので、可能な限り希望のスタイルを聞き取って最大限実現することが肝要なのだが、彼女とお客さんとの相談の会話がとても興味深いのだ。
例えばこんな感じ。

客:なんか…全然……そんな…決まってないんですけど
美:あーはいはい
客:いやなんかtiktokとかで見てて
美:んーありがとうございます
客:なんか…なんか……ハーフアップ?
美:ハーフアップ? 可愛い、うんうん
客:か……いやなんかでも、似合うかどうかわかんなくて…
美:んーっ……
客:結構くせっ毛っていうのもあるんで……
美:はいはいはい
客:あれなんですけどでもなんかいい感じ……
美:うんうん
客:可愛くっていうよりはなんかきれいめっていうか
美:あー
客:大人っぽい感じの……
美:ちょっとナチュラルな方がいいですか?
客:…そう……ですね。あんまり……ふわふわってよりは
美:うんうん
客:なんか、なんて言うんだろ
美:うんうん
客:ふわふわってまではいかないけど……なんかいい感じに
美:いい感じに あはは
客:なんか……もうお任せみたいな感じ 笑
美:かしこまりました 笑 あんまりボリュームは出さない方が……いいのかな?
客:あっ、そうですね
美:かしこまりました
客:(スマホの画面を見せながら)ハーフアップ……か、何か、ちょっ、この、すみません、何かこの方の……?
美:あ、まとめ髪?
客:まとめ髪が可愛いなって思って
美:うんうん、はいはい
客:その…そんな感じで迷ってるんですけど
美:んーそうだなあ
客:どっちの方が似合いますかね?
美:どっちも似合うかなあとは思うから
客:あ
美:スッキリしたいとかなければ別にハーフアップでも
客:はい
美:いいんじゃないかなとは…思います
客:んー
美:普段あんまりしない?
客:普段ハーフアップ全然しないですね……
美:そしたら挑戦してもいいかもしれない。デートですか?
客:なんか……照
美:笑
客:何かそんな感じ……笑
美:そんな感じ 笑 そしたらハーフアップ…ありかな? と思いますけどね 笑
客:アリですかね……んー そしたらちょっとハーフアップ……
美:ハーフアップ挑戦してみますか
客:いい感じに……はい
美:かしこまりました
客:お願いします
美:よろしくお願いします

で、出来上がりを見たお客さんは「えっ! めっちゃ可愛い! 凄い! えーありがとうございます👏👏👏」と大感激。
9000円という安くない値段で大事な日のセットをお願いするのに、こんなそれこそ「ふわふわ」した会話で大満足の結果に持っていくテクニックにこちらは釘付けである。
上記の例はまだある程度希望を伝えている方で、他には例えば

美:なんか、どんな感じがいいとかありますか?
客:えっと〜……今日ちょっと悩んでて
美:はいはい
客:…なんかできればちょっとわかりづらいけど二つ結びをお願いしたい……
美:あーっなるほど。わかりづらい??
客:お団子の……
美:うんうん
客:なんか……何て言えばいいんだろ
美:可愛いすぎると嫌な感じですか?
客:うんうん! そうそう! 困っちゃうんですけど
美:うんうん
客:でも可愛い感じにはしたいんですけど
美:ああ、どっちかって言うと?
客:はい。可愛すぎちゃうと困っちゃうみたいな……
美:あーなるほど。幼くは見えたくない
客:ああ、そうです!
美:なるほど
客:後れ毛とかもいっぱい出したいなって感じではいる
美:ああーそしたらもう、ふわあっとした感じ
客:うんうん!
美:だけど、幼すぎない
客:うんうん! はい!
美:笑
客:そんな感じにしたいです
美:かしこまりました。そしたら前からがっつりここに持ってきちゃうとどうしても可愛い感じにはなっちゃうので
客:うんうん
美:ちょっと後ろ目に持ってくる感じで
客:うんうん、うん!
美:全体ふわっと可愛らしい感じで
客:うんうん!
美:ちょっとやっていきますね
客:はい! はい!
美:お願いします
客:お願いします

出来上がりの感想「あー可愛い!! あんっ可愛い! ふわふわ、いい感じです!あ、凄い! え、めっちゃ可愛い。ありがとうございます。凄い、いい感じです😍😍」

男性が女性がという括りにはしたくないが、ここまでニュアンスだけの会話で意思の疎通ができるのは個人的経験を踏まえてもやはり女性同士ならではという気がしてしまう。
わたしなら美容師、客、どちらの立場でもイライラして鏡を割ってしまうかもしれない(割らないけど)。
だからといって、感性だけの会話を頭が悪いとかいうつもりはまったく無い。
むしろイルカやクジラが超音波で会話をするように、わたしには窺い知れない特殊能力を持った人々として尊敬している。
とともに、社会でこのような感覚的な会話をする人たちと出会ったときに正確に意図を汲めるように日々鍛錬していこうと今日もtiktokを開くのである。


【本日のスコーピオンズ】
40曲目「Your Light
5th アルバム『〜暴虐の蠍団〜Taken by Force』(1977)より。

何だろう、なんかこのイントロ既視感がある。
そういえばわたし今だから言うけど中学時代、アルフィーを
聴いていたというk……いや、秘められた歴史がありました。
高見沢さんってフライングV弾いてたし、もしかして
影響受けてたのかな、なんか似てる。
それはそれとして、その後の曲調がイントロとだいぶ違って
ちょっとハード目なユーロポップス感がある。
ミシェル・ポルナレフ感というか……。
まあ、実際スコーピオンズもユーロだし、時代も同じ頃だもんな。


感想は以上です。












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