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奥さまと呼ばないで

「奥さま」と呼ばれるのが苦手だ。「主人」も使わない。久しぶりの友人とのやりとりで私の夫を「ご主人さまが」と繰り返し言及するメッセージが来たとき、つい「いや、私の主人じゃないし」と返してしまったことさえある。

初めての就職は大阪にあった非政府組織(NGO)で、一九九九年当時にしてはジェンダーセンシティブな職場だったので、「おつれあい」という言い方が常だった。これは相手のパートナーが異性か同性かも問わないし、便利な言葉である。ただ、相手によっては耳慣れず、聞き取れないこともあるので、面倒になり「○○さんの奥さまは」と会話で使う時もある。

子どもが保育園に通うようになり、新たな「属性で呼ばれる」慣習に直面した。「○○ちゃんママ」である。子どもからそう呼ばれるのはいい。でも、親同士でそう呼び合うことに居心地の悪さを感じてしまう。そんなに目くじら立てることはないのに、とも思う。

でも、なぜ、属性で呼ぶのだろう。私は名前で呼ばれたい。三月八日は国際女性デー。女性の権利を考えるこの日に、これほどまでの抵抗感が一体どこから来るのか、考えてみた。私は誰かの妻、母、娘、そんな「役割」の前に、「ひとりの人」として認められ、関係を構築したい。そう願っているのだと気づく。

NPO「ACE」代表 岩附由香

(2021年3月9日の東京新聞・中日新聞夕刊コラム「紙つぶて」に掲載)

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