実在者とキャラクターとの連結性について/非典型Aセクシャル・フィクトセクシャルの一事例

私は非対人性愛者です。現実の人物には惹き付けられず、キャラクターに対して惹き付けられます。しかしながら、ある種の要素が非典型的であるために、Aセクシャルとしても、フィクトセクシャルとしても、少し特殊な構成をしています。

私はAセクシャルでありながら、実在者を性的に見ることがあります。また、フィクトセクシャルでありながら、いわゆるガチ恋でもなく夢女子(夢男子)でもありません。

非典型的な一事例として、実在者とキャラクターがどの程度・どの範囲で、連結しうるかをまとめようと思います。

何を動機にしてこの記事を書いたか。アセクシャルという単語の知名度は上がっても、依然「性欲全般がないのがアセクシャル」「身体接触が苦手だったり性嫌悪を伴うらしい」という誤解は多いため、理解のひとつの足掛かりになる例を少しでも増やしたいからです。

他者に向けない性欲を持つアセクシャルも多いということをご存知の方も多いですが、その内実や実例までを伝えている人も少なく、概要だけ知っているに留まっている人も多いと思います。

また、フィクトセクシャルである、初音ミクと結婚された近藤顕彦さんのような方がメディアに出演してくださっているため、従来の対人性愛に近い構造でキャラを愛する人の理解は進んできたと思います。

その一方で、私のような身体女性かつ女性キャラな対して性的に惹かれるが、フィクトレズビアンではない……というようなタイプのフィクトセクシャルは存在を認識されていないなぁ、とも思ったりするのです。

ひとくちにアセクシャルやアロマンティック、またはフィクトセクシャルといっても多様であり、その多様さのひとつの一事例として捉えて頂ければ幸いです。

まず、私の基本的な立ち位置として、シス女性(強いていえばノンバイナリー)で、他者に対する性的欲求を持たず、恋愛関係を望まないAロマンティックAセクシャルで、なおかつ、ごく標準的な2次元キャラオタクです。それゆえ、結果的にフィクトセクシャルです。

結果的にというのはどういうことかというと、仮に2次元キャラオタクが現実性愛者だったのなら、2次元もイケる性愛者というだけですが、そこから「現実性愛者」を引くと、フィクトセクシャルという出力のみが残る、ということです。

先に初音ミクと結婚された近藤顕彦さんのお話を出しましたが、私はキャラと結婚したいとは思わないタイプです。時々自分ではない自分とキャラとのロマンスを空想したりすることはありますが、夢作品をほぼ見ず、どのキャラとどういう設定だというのも特に持たないため、夢女子(夢男子)ですらありません。

大まかに言うと、女性同性愛者よりは女性異性愛者の気分の方がわかるので、大まかに言えば異性愛者寄りだと自分では思っています。(今回とは別の話ですが、自分の異性愛者性に対する嫌悪感もあります)

その一方で性対象は最初から、実在女性または女性キャラ、またそれらの身体パーツです。男性や男性キャラも性対象ですが、見る回数でいうのなら前者の方が非常に多いです。

アセクシャルなのに、実在の人物が性対象とはどういうこと?と思われたでしょう。

実在女性や実在男性に対しては、《本人自身の意思で、自分で撮っているか誰かに撮られているかする写真か映像にのみ》、性的アトラクションが発生します。つまりは、不特定多数に映像を公開する意思が介在しているかということですね。

とはいえ、なんでも好きというわけでもなく、全体の作品の7~9割はう〜ん…という感じで、特定の人物のファンではなく、むしろ顔が映っていない方が好みです。一方で、特定の身体パーツの形状や色味に対するこだわりは強い方です。

私がアセクシャルを自称するのは、実在の人間と実際に性的関係を結びたい欲求がないからで、以下のような典型的Aセクとは異なる次のような構成になります。

実在他者に性欲を向けるか?
▶︎YES
その実在他者と性的関係を結びたいと少しでも思うか?
▶︎NO

これまでをまとめると、現実ではアセクシャルで、2次元にはバイセクシャル、という言い方も可能ですが、大まかすぎると感じるため説明したいと思います。

なぜフィクトバイセクシャルという言い方では大まかすぎると感じるのかといえば、対男性/男性キャラと対女性/女性キャラへの立ち位置と引きつけられ方が、一定ではないためです。

対男性キャラ対男性女性キャラ含む対女性全般でそれぞれ惹き付けられ方が異なります。

まず、男性キャラに対しては、かなり大雑把に言うと、擬似的なデミロマンティックデミセクシャルです。(強い絆が結ばれた前提で恋愛的性的に惹かれること)

第一印象でこのキャラは好きになるだろうという予測が過半数以上の確率で当たり、実際好きかどうかは作品に接してみてキャラをよく知ってから判断しよう…となります。標準的な女オタクと一緒で、キャラの性格と容姿、共に惹き付けられる形です。

キャラを好きになってから、そのキャラを性的に見る傾向があります。また、好きになったキャラの容姿が後から好きになる傾向があります。(女性キャラはその逆で、知り過ぎると性対象として見づらくなります)

キャラに対して主観的な思い入れのない場合は、グレーAロマやグレーAセクに近い感じです。

次に、実在男性に対しては、大半の場合、Aロマだが強いていえば、擬似的にグレーAロマ寄りになるかも?という感じです。いわゆるアイドル視をすることがあるということですね。

先程話したように、女性同性愛者よりは女性異性愛者の気分の方がわかると言ったのは、男女カプ作品の女性側の気分が擬似的に分かるからです。かなり稀ですが、実在男性へのアイドル視(かっこいいとか、かわいいと思うこと)があります。

次に、女性や女性キャラへの惹き付けられ方ですが、こちらは実在者でもキャラでも共通しています。

男性の視点で女性への共感性をもって見るようなノンバイナリー的/クィア的なガイネフィリア(女性愛好者)の「Aロマンティックセクシャル」です。

女性として女性が好きなのではなく、男性の視点で女性の身体持ちとして女性を見る、ということです。かといって性自認が変化しているわけでもありません。

性自認を表現しないで女性に性的に惹かれると表したいときの言い方であるウーマセクシャルという言い方をしないのは、男オタク文化に属した上で、女性の視点で女性を鑑賞しているからです。〝フィリア〟という言葉にクィア感ならぬオタク感を脱色せずに仮託したいというニュアンスがあります。

実在女性にしろ女性キャラにしろ、性格面への惹き付けられはほぼ生じません。アイドル視もしません。

この部分に関してはかなり伝わりづらいとは思うのですが、端的にいえば「シスヘテロ男性や男オタクの目線で、女性や女キャラでシコれるシス女」ということでしかありません。(……そういう人普通にTwitterでみかけますよね?)

このあたりの説明はそこそこにするとして、タイトル通りに実在者とキャラとの連結性に限って話します。

実在者に対する感覚

対 男性実在者:
・ファンとしてアイドル目線を向ける(稀)
・身体や身体パーツへの弱い性的惹かれ(実在者には、知り合いや街を歩く人などは含まない)

対 女性実在者:
・アイドル目線を含む広義な恋愛的視点でも見ることはない
・身体や身体パーツへの強い性的惹かれ(実在者には、知り合いや街を歩く人などは含まない)

実在者とキャラの連結度

以下、実際者とキャラクターとの連結性と質的違いについて順番に並べます。

【A】性的惹かれについて

ⅰ.身体そのものや身体パーツ
実在者とキャラとで、同質・同程度に惹かれる。男性の肉体への関心が低く、女性の肉体への関心が強いが、それぞれに同質、同程度の関心を向ける。とはいえ、そもそも実在者に惹かれが生ずる割合自体は低いので、あくまで質と程度に関しての話である。

ⅱ.ファンタジーやSF的文脈を前提とするもの
現実にもありうるが、フィクションならではの魅力で成り立つと感じるもの。機械姦など。

ⅲ.現実に存在しない場合
現実にはそもそも存在しないもの。現実の似た性質のものや、ドラマ的ファンタジー(代表例は時間停止モノAV)には性的に惹かれない。媚薬、ふたなり、触手/スライム姦、同一人物のカップリングなど。

【B】恋愛的惹かれについて

ⅳ.男性キャラや男性へのアイドル視

男性への、かっこいい/かわいいと感じる感覚のこと。実在男性に対しては稀。

i.ないしⅱ.に関しては、現実性愛的な比重も強いですが、性癖の方向性が2次元よりです。

明確な恋愛的惹かれは男性キャラに対してのみ発生しますが、いわゆるガチ恋や夢女子というまでではありません。

まとめ

大まかにフィクトバイセクシャルとは言えるかもしれませんが、どちらの性に対しても等しく、恋愛的にも性的にも惹かれるわけではありません。

主に身体そのものや身体パーツに対しては、実在者との連結性が高く、ほぼ同質・同程度の関心を向けます。

しかし、身体そのものや身体パーツは別として、現実に存在しないフィクションならではのモノに強い関心を傾けるため、実在者と連結することがありえません。

おわりに

実際には存在しない同一人物のカップリングなどに対してこだわりがあることを、自分でも些細なこだわりだ、とも思いますし、マジョリティである現実性愛者の方や、アセクシャルとしてはアイコニックである、ほぼ無性欲に近い方や性嫌悪の強い方にとってはよくわからない感覚だろうとも思います。

しかし、こうしてまとめてみると「現実性愛に関心がなくて、かつオタクならそれしか興味の矛先がないし、こだわるのは当然だろう」という気持ちになりました。

冒頭でも話しましたが、単なる一事例として受け取って頂ければと思います。アセクシャルやアロマンティックでもまったくの無性欲の人もいれば、過去経験した性行為の回数が多い人や、パートナーの求めに応じて自ら望んで性行為を行う人や、キャラと結婚を望むフィクトセクシャルの人もいれば、キャラに対してアロマンティックのフィクトセクシャルの人もいるのです。

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