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日本人の5人に1人が睡眠の課題を抱えている。だからこそ、解決する意義がある。CEO宮原が語る事業ビジョン

日本人の約5人に1人。これは、睡眠の課題を抱えている人の割合です。

多くの精神疾患・神経変性疾患・発達障害は、なんらかの睡眠障害を伴うことが最新の医学研究により明らかになってきており、睡眠障害はそれらの疾患を引き起こす原因のひとつとなっていることが強く疑われています。

私たちACCELStarsは、睡眠情報を正確に観測することで疾患メカニズムを解明し、その結果として精神疾患・神経変性疾患・発達障害の診断・予防・治療につなげるというチャレンジをしています。

このビジョンを実現するために、世界最高精度の睡眠測定技術を搭載したウェアラブルデバイスとデータ基盤を開発しています。睡眠データとさまざまな医療データを掛け合わせることで生まれる新たな医療サービスの実現を目指しているのです。

睡眠の課題をテクノロジーで解決する意義について、代表取締役CEOの宮原禎が解説します。

睡眠の課題を解決すれば、心と脳の問題を予防・改善できる

――睡眠の課題にフォーカスするようになった経緯を教えてください。

私はこれまでシリアルアントレプレナーとして複数社の経営を経験してきたなかで、かつてはデジタルヘルスの領域において、生活習慣病というフィジカル面の課題に取り組んでいました。世の中の人々を助ける意義のある事業ではありますが、身体の問題は多くの企業が解決のための取り組みをしており、医薬品や医療機器、ジムでの運動といったソリューションもたくさん出ています。

それに対して、うつ病などの脳や心の問題への治療・ケアは、まだまだ手薄なのが実情です。この状況を改善したいのはもちろん、脳や心の問題を重要視する時代が来ると感じ、市場としても大きいと確信がありました。そこで、2016年ごろから睡眠データを取り始めました。ウェアラブルデバイスで大量のデータを記録したことで、うつ病になった人の睡眠の状態が数カ月前からどのような状態だったかなどを追えるようになったのです。

データが蓄積されたため、サービスを立ち上げる前に一度解析し論文化する試みをしました。その過程で、身体の病気を予防するアプローチはたくさんあるのに、脳や心の病気の予防はされていないことが見えてきました。苦痛を抱えている人々がたくさんいるにもかかわらず、世の中のほとんどの医療機関や企業が取り組めていないとわかってきたのです。

心の病気は、糖尿病における血糖値のような定量的な指標がなく、状態を計測できません。たとえば、うつ病の人は脳の認知機能が乱れていることがわかっているのに、その原因である脳の状態への医学的アプローチはほぼ行われていません。診断は主観による部分が大きいのです。それでは、問題は解決しないと感じました。

そこで、ウェアラブルデバイスによって睡眠の情報を可視化すれば、心の病気の予防に役立ちそうだと考えました。私たちは以前から睡眠データを取っていたため、服薬などの介入をしていない観察研究データをすでに保持しています。健診情報とウェアラブルデバイスの情報が同時計測されているデータは非常に貴重です。たまったデータを過去にさかのぼって解析したところ、睡眠と脳や心の問題に関するさまざまな発見がありました。それが、事業化したいという大きなきっかけになっています。

――日本人の5人に1人が睡眠の課題を抱えているとのことですが、それによって何が起きているのでしょうか?

年代別に説明しますと、発達障害の子どもはかなりの割合で睡眠障害を併発します。また、ADHDの子どもは睡眠不足だと次の日に多動性・衝動性が出てしまい、逆によく眠れた翌日は落ち着いていると臨床の現場では知られています。発達障害と睡眠は深い関係があると、小児神経科医の間で共通認識があるほどです。

働いている世代では、うつ病と睡眠の関連性が指摘されています。うつ病患者の多くがその前段階で不眠を訴えているのです。私の考えでは、うつ病になる前に健診などで不眠を検知しケアできると、予防できる可能性が高いと思っています。

老年期に起こるアルツハイマー型認知症にも、不眠が関係しています。アルツハイマー型認知症の原因となるタンパク質が、睡眠不足により蓄積されるという説があります。睡眠をしっかりとれば原因となるタンパク質を取り除けるので、若いときから睡眠のとり方に気をつけることで、アルツハイマー型認知症を予防できる可能性があるのではないでしょうか。

このように、人間の一生を通しての睡眠の質が、その人が自分らしくいられるウェルビーイングと深く関係しているとわかります。脳や心の問題を抱えていると、その人らしく過ごしたり、周りの人との関係を大切にしたりすることが難しくなります。本人も周りの人もつらい思いをしてしまうのです。睡眠の質をより良く変えることで、人生はより豊かになります。

現在、うつ病やアルツハイマー型認知症などの病気や、発達障害は増加傾向にあります。それらの診断基準が過去とは変わったことにより検出されやすくなったという側面もあります。ですがそれ以上に、スマートフォンやパソコンといった脳に刺激を与えるデバイスの使い過ぎによる不眠が影響していると考えられているのです。睡眠の状態を測定することで、睡眠の課題と病気や症状との因果関係がわかり、改善や治療ができる可能性が高くなります。

技術の力で睡眠データを集め医療をサポートしたい

――睡眠改善に取り組むにあたってのACCELStarsの事業ビジョンをお聞かせください。

ACCELStarsの技術基盤は、東京大学大学院医学系研究科の上田泰己教授の研究室が開発した、世界最高レベルの睡眠測定アルゴリズム「ACCEL」法です。私たちが重要視しているのは、睡眠中の“中途覚醒”です。寝ている途中で起きてしまう人は、病気の可能性が高いと考えられます。たとえば、睡眠時無呼吸症候群であれば息が止まって苦しくて起きてしまう。うつ病や不安障害であれば寝ている時に不安になって起きてしまうといった感じです。

病気の人は寝ている最中も覚醒状態であるケースが多く、深く眠れず睡眠時間も短い傾向にあります。なるべく正確に中途覚醒の状態を測ることで、睡眠の問題を改善できる可能性が高くなります。しっかりデータを取ることで、前日のどのような行動や思考が睡眠に悪影響を与えているか、原因を突き止められるかもしれません。

また、睡眠データを測れるようになると病気を治せる可能性が出てきます。例を挙げると、身体の問題を解決するために、減塩が重要であることは以前はあまり知られていませんでした。しかし今では、塩分の多い食事と血圧が関係すると多くの人が知っています。

睡眠も同じようなことがいえます。夜遅くまでスマートフォンを使用すると睡眠に悪影響を及ぼすという因果関係がわかると、22時でやめようなどと行動を変えられるようになるでしょう。睡眠データを測定し、本人に問題を認識してもらうことで、解決の手助けになればと思っています。

――世界各国のスリープテック系のスタートアップと比較して、ACCELStarsの特徴をお聞かせください。

他のスリープテック系のスタートアップとの最大の違いは、“メディカルスリープテック”であることです。同じように睡眠に関する事業を展開していますが、他社とはアプローチの仕方が全く異なります。一般的なスリープテック系企業は、あくまでも睡眠に関するコンシューマデバイスの開発に注力しています。しかし、私たちは創業当初から病気の状態を改善したり、予防したりすることを目指しています。デバイスは睡眠データを集めるための手段であり、あくまで目的はデータを使って健康問題の解決につなげる睡眠医療です。

現在、私たちはアルゴリズム開発やデータの収集・解析を行い、その結果をもとに診断機器を作るためのプロジェクトをすでに複数動かしています。医療の領域にまで踏み込んだ事業を展開しているのは、グローバル規模で見ても稀有な立ち位置です。私たちのサービスで睡眠データを医療の世界に導入すると、新たな角度から病気の診断や改善ができるようになり、医療のあり方が大きく進化するでしょう。

――ACCELStarsは各種研究機関や医療機関とも連携して共同研究をしています。どのような成果を目指していますか?

ゆくゆくは、私たちのシステムやデータを活用して医療に従事する方々をサポートしたり、患者の方々にサービスを提供することで医療機関に行かなくても医療行為を受けられたりといった未来を実現したいです。

代表的なものとして、大阪大学と共同で取り組んでいるパーキンソン病の研究があります。パーキンソン病は日本全国で見ても専門医の数が少なく、限られた医療機関でしか診察を受けられません。ですが、パーキンソン病は運動障害を伴う病気であるため、遠出することが難しく、患者が専門医を訪れることが困難なのです。

しかしIoTなどの技術を利用してデータを取得すれば、たとえ遠方にいる医師でも患者の状態を正しく把握できるようになります。対面で会うことなく、進行度合いの判断や別の薬への切り替えといった治療方針の変更ができるようになります。上手く活用すれば、パーキンソン病治療を強力に支援できるはずです。

うつ病にも同じことがいえます。たとえば、睡眠データなどから睡眠障害などの兆候をキャッチできれば、うつ病が治ったけれど不眠が出て再発してしまうようなケースにおいて、再発前に手が打てるかもしれません。病院に行かなくても、医師にデジタルプラットフォーム上で相談して睡眠データを見せれば、充分に寝られていないとわかり、何らかの対処ができます。いくつかの疾患領域において睡眠に関連するデータを収集・分析できるようにし、因果関係が把握できる仕組みを整え、苦しんでいる人たちの問題解決の手助けをしたいです。

睡眠を通して世の中を幸せにできる仕事

――ACCELStarsで働くやりがいや面白さについてお聞かせください。

現在は、ACCELStarsの事業の可能性が大きく広がっているフェーズです。睡眠健診事業は国からも注目されつつあります。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで、世界的にうつ病患者が増えるなど、心のケアの必要性が高まっています。それを受け、スリープテックに対する投資も加速している状況です。

グローバル規模でスリープテックの需要が大きくなっているため、日本国内だけではなく海外にもチャンスがあります。今後、さまざまな事業を展開していくため、新しいサービスをゼロから立ち上げる機会もあるでしょう。スタートアップならではの面白さを感じられる環境です。

――他のヘルスケア系スタートアップと比べて、環境や積める経験の質の違いはありますか?

他のスタートアップにない弊社ならではの魅力として、一流の研究者や医療関係者たちと一緒に仕事ができる点が挙げられます。世界的に著名な東京大学の上田泰己教授をはじめ、私たちは数多くの医療機関や研究機関の方々とともに共同研究を行っています。クリエイティブな研究結果が世の中に還元されるのは価値がある事業ですし、この協力体制を築けているのはスタートアップとしては稀有です。

また、多種多様なスキルを持つメンバーが集まっているのも特徴です。アカデミックなバックグラウンドを持つ人やハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニア、アルゴリズムエンジニア、ビジネスサイドのメンバーなど、各職種のエキスパートが集まっています。これだけ幅広い人材がいる会社だからこそ、他のスタートアップとは違った高みを目指せると考えています。

私たちの事業を支えるメンバーたちはこちらから参照できます

また、私たちはプロトタイプを作ってはクライアントに見せて、フィードバックをもらうという過程を何十回もくり返して事業を開発しています。市場分析や競合調査をもとに資料をまとめ、事業計画を作るといったスタイルはとりません。“手ざわり感”のある事業開発に携わりたい人にとって、面白い経験ができる会社です。

――最後に、スリープテックに関心を持つ方にメッセージをお願いします。

世界中のみんなが毎日きちんと眠れたのなら、人々の人生はもっと幸せになります。その役割を担える事業は、非常に意義があると考えています。スリープテック領域は、事業が成長すればするほど、世の中が良くなる魅力的な仕事です。もしよかったら、私たちと一緒に世界の人々に貢献してみませんか。


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