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美の脳科学 -六本木アートカレッジより-

森美術館のMAMCメンバーとアカデミーヒルズのライブラリーメンバーを対象にした 特別企画「森美術館鑑賞+アフタートーク」のゲストでお越しいただいた石川善樹さん(予防医学研究者)が、アフタートークで興味深いお話をしてくれました。
「美しいものを見ているとき、自分の内面を見つめるときと同じ脳の部位が刺激されていることが分かった。
外の美しさと自分の内面は呼応しているらしいのです。
言い換えると、“内面が磨かれば磨かれるほど、外の美に対する感度が高まり、外の美しさを見れば見るほど内面が磨かれる”ように、中と外の相互作用があるらしい。」
という内容でした。

そこで思い出したのが、2020年3月に開催した六本木アートカレッジのワンデーイベントにご登壇いただいたGOMAさんと川畑秀明先生の対談、「脳は美をどう感じるか?「感性」を科学する」です。

美しさの感じ方やアートの鑑賞にかかわる心と脳の働きを明らかにする「感性心理学」がご専門の川畑先生と、ディジュリドゥ奏者で画家のGOMAさんの対談した。
GOMAさんは1998年オーストラリアで開催されたディジュリドゥのコンクールで、ノンアボリジニア奏者として初受賞するという快挙を果たされましたが、2009年に交通事故にあい、外傷性脳損傷と診断されて、高次脳機能障害の症状により奏者活動は休止されました。
一方で、退院をしてご自宅へ戻ったときに、テーブルの上にあった娘さんの絵具を使って「点」を描き始めました。
ご本人は事故の瞬間から記憶がなく、「何故絵を描き始めたのか?」「線ではなく点なのか?」「何を描こうとしていたのか?」など、全く覚えていない、知らないというそうです。
セミナーでは、「何故なんでしょうかね? 全く覚えていないし、僕にもわかりません!」というお話でした。

2009年の事故後リハビリをしながら、後遺症として「意識を失い、戻り、失う」を何度も繰り返す状態が続く中で、意識が戻るときの通り道で感じる“光”をそのまま描いていたそうです。
そして2011年頃に、光が自分の脳裏に強く焼き付くことを認識しはじめたことで、光をより具体的に表現できるようなったとのこと。
リハビリを続ける中、言葉も話せるようになり意識が安定すると、色使いが落ち着いた作品が増えるなど、回復の度合いと作品には深い関係があるようです。
GOMAさんにとって絵を描くことはリハビリ、治療のひとつで、バラバラな身体と意識が、絵を描くことによって一致するそうです。

GOMAさんの作品は抽象画と表現されるそうですが、ご本人にとっては、自分が見えている光景をそのまま描いているので具象画だということです。
また、全体を考えながら描くのではなく、自分の見えている光をそのままキャンパスにぐっと近づいて作業をして、出来上がったときに離れて全体をみると、こんな作品なんだとご自身も分かるそうです。
GOMAさんのお話を聞いていると、「絵を描く」ことは人間の本能ではないかと思えてきます。
GOMAさんの作品は下記のGOMAさんのサイトでご覧いただくことができます。


また、セミナーの冒頭で、川畑先生が「人の脳は美をどのように感じるのか」をコンパクトに説明してくださいました。


美しいと感じるときには眼窩前頭皮質が反応して、醜いと感じるときには左脳運動野が反応するそうです。眼窩前頭皮質はご褒美「おいしい、楽しい、好きなど」のときに反応する部位で、左脳運動野は「遠ざかりたい、避けたいなど」の運動と関係する部位とのこと。


詳しくは、川畑先生の著書をご覧ください。


ところで、GOMAさんのこのような体験は、2012年に「フラッシュバックメモリーズ3D」として映画化され、東京国際映画祭にて観客賞を受賞しています。

また、2018年2月にNHK ETV特集「Reborn ~再生を描く~」で取り上げられ、番組内では、サヴァン症候群の世界的権威の精神科医ダロルド・トレッファート博士から「後天性サヴァン症候群」と診断されたそうです。

GOMAさんのお話に加えて、約20,000年前に描かれたフランスのラスコーの洞窟壁画やスペインのアルタミラの洞窟壁画などを考えると、アートが人間・人類にもたらす影響は計り知れないものがあると、改めて感じました。
機会があれば、このようなテーマでプログラムを企画したいと思います。

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #六本木アートカレッジ #アート #GOMA #脳  
#川畑秀明





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