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余白の美 -俳句を詠む-

2024年のNHKの大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代に千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた紫式部の生涯を描いてますが、当時は和歌や漢詩を通じて自分の気持ちを伝えていたことを考えると、「昔の人は、言葉に敏感だったんだな!」と感心します。
と思っていたら、メンバーズ・コミュニティのブックナビクラブで、「俳句が趣味です」と自己紹介してくれたメンバーに出会い、どのように歌を詠み、楽しむのかを知りたくて、早速インタビューをさせてもらいました。

ところで予習として、和歌、短歌、俳句、川柳と57調で詠む歌について、改めて確認をしました(ChatGPTに聞いたところ、以下の回答でした)。

  1. 和歌 - 和歌は日本で最も古い詩の形式の一つで、奈良時代にまで遡ります。和歌は元々自然や季節、愛情などを詠むために用いられ、平安時代には貴族社会の中で短歌の形式が確立されました。

  2. 短歌 - 短歌は和歌の中でも特に5-7-5-7-7の31音から成る形式を指し、平安時代には既に確立していました。短歌は和歌と同義とされることもありますが、具体的な形式を指す場合に用いられます。

  3. 俳句 - 俳句は元来は連歌の一部として発展し、独立した詩の形式としては江戸時代に松尾芭蕉によって大成されました。5-7-5の17音から成り、季語を含むことが特徴です。

  4. 川柳 - 川柳は俳句と同じく5-7-5の17音から成りますが、江戸時代後期になってから人気を博しました。社会の風刺やユーモアを含む内容が多く、季語は必要としません。

このように、和歌と短歌が日本の詩の形式としては最も古く、その後に俳句、そして川柳の順に発展しています。

インタビューしたメンバーの俳号は、山田鈴女さん(以前は、山田経子)です。

「春嵐 予期せぬことも ありにけり」

早速、今日の気持ちを表現した一句を紹介してくれました。
インタビューは3月21日に行いましたが、朝に発生した茨城県南部を震源とする地震と今回のインタビューを「予期せぬこと」と表現した一句です。

最初に俳句の醍醐味について伺ったところ、以下の二つを挙げてくれました。

1. 「ペンと紙があれば誰でも楽しめる」という手軽さ
絵画や音楽そして習字などは道具が必要になりますが、ペンと紙さえあれば誰でも歌を詠むことができる、という点では本当に気軽ですね。

2. 鑑賞者の想像を湧きたてる「余白の美」
日本画、日本庭園、茶の湯など日本の文化の特徴と言われる「余白」(描かないことで表現する)が、歌にも含まれているとのことです。これが「切れ字」の効果です。
切れ字とは句の表現をいったんそこで切って、余情や感動を表すはたらきがあり、 例えば「や」「か」「かな」「なり」「たり」 「けり」「ぞ」「ぬ」「よ」などが切れ字です。
山田鈴女さんは、「この余白(余韻)によって、読み手としての自分の意図と鑑賞者の感想のギャップが楽しい」と説明してくれました。
自分はそのつもりで詠んだわけではないが、鑑賞者の感想を聞いて、「そういう感じ方もあるのか!」と新たな発見に繋がることが醍醐味だそうです。

また、俳句を始めたことによって「心の目」が敏感になったそうです。
例えば、旅先での記念撮影に一句添える、または、日記の代りに一句詠むことで、想い出が一層深くなります。

山田鈴女さんの場合は、俳句から発展して「キャッチコピー」へ興味が拡がり、宣伝会議賞へ応募して、5回ほど一次審査を通過したとのこと。
因みに俳句を始めたきっかけは、ご家族の三重県への転勤です。当時の三重県の北川正恭知事が「松尾芭蕉のふるさとである三重県を俳句でPRしよう」という企画があり、友人作りの目的で俳句の会へ参加したことでした。それまでは俳句に興味を持ったことは無かったそうです。

そんなきっかけで始めた俳句ですが、山田鈴女さんは文京区の俳句大会で特選や入選を繰り返されています。また、「上野界隈かるた」にも選ばれています。

「上野界隈かるた」に選ばれた一句
「奏楽堂 フルートの音も 夜の秋」(山田経子)

また、俳句の会で、お茶の水界隈を吟行し詠んだ句を紹介してくれました。
「ペン先に 名文走り 涼しかり」(山之上ホテル)
「十字架に 秘めごとありて 聖五月」(ニコライ堂)
「甘酒や 橋を渡れば 江戸の街」(神田明神)
「菊人形 主役脇役 ありにけり」(湯島天神)
自分が感じた印象や気持ちを表現できる素敵な方法ではないでしょうか。

そして、俳句の初めの一歩は、歳時記を読んでインプットすることだそうです。そして好きな俳人の句を諳んじるほど読んでいると、自ずと句が湧いてくるとのことです。

インタビューの終わりに、お土産として菊見せんべいを頂きました。
このおせんべいは、山田鈴女さんが大好きな俳人の中村汀女のお気に入りだったそうです。
中村汀女の一句を添えてくれました。
「冬うらら 菊見せんべい 買ひ加へ」

明治八年に東京文京区で創業した菊見せんべい総本店のおせんべい


最後に。。。
江戸時代に松尾芭蕉によって大成した俳句ですが、江戸時代は厳格な身分制社会だったにも関わらず、俳諧の連では、俳号を共通ベースとし、その会合では大名も町人も役者も同格で、身分の差はなかったそうです。
現代のアバターの世界が江戸時代に繰り広げられていたと言われます。
バーチャルな世界にもう一人の自分をアバターとしてつくるという選択肢があれば、俳号としてのもう一人の自分を作ってみるという選択肢もあるなと思いました。
そして、タイパを重視する現代の生活の中で、余白を楽しむ時間を過ごすことも人生においては大切ではないかと思っています。

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #俳句 #アバター #余白の美 #中村汀女 #菊見せんべい

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