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【創作読み切り小説】瓶の中には(5190字)

 「‘オレ’っていうの、やめた方がいいよ」

 対して親しくもない同級生に言われた。

 「なんで?」

 「だって、雪は女の子だから」

 その同級生のお母さんに初めて会った時、その同級生はオレのことを‘友達’だよ、と紹介した。オレはあの子を友人とは思っていなかったけど、あの子はオレを友だちといった。そう紹介されたことに違和感が長く引きずってついて回ったが、数日経ってしまえば違和感を覚えたことさえ忘れてしまうことを、オレは頭の深いところで気づいていた。

 「そっか。雪ちゃんだっけ?これからもナツと仲良くしてね。よろしくね」

 ナツはいつも誰かと一緒にいるイメージがあった。その一方で雪はよく一人でいるタイプだった。
 雪とナツの母校である小学校は閉鎖的な場所だった。次の年にはもう関わりのないような間柄の同級生が数多くて、なのに子どもは互いの親御さんの顔を結局知ってしまう、そんな場所。
 何を仲良くするってんだと、オレはドラマの主人公のようにそう言って舌打ちした。なんてことをこのナツとナツのお母さんの目の前でやるのは常識的にあり得ないし、失礼だ。だから頭の中でそっとやった。
 小学生の雪は、複雑な機械と呼べるであろうカメラのレンズに映る自分を想像して、オレを一人称に使っていたのだった。

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