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「内視鏡検査をした①」〜大人の思い出〜

「あぁ、これは大腸ポリープですな。まぁ悪性ではなさそうですが、、細胞とって検査しておくと安心ですよ」

レントゲンを見ながら医者は言った。まるで数千回も同じセリフを言うことに疲れきった劇団員のように私のカルテに目を落としている。

「細胞をとる検査ですか?」

「そう、内視鏡でこのポリープの細胞を少しだけとって検査に回すんです、それで良性か悪性かはっきり分かりますよ」

「ナ、ナイシキョウ…?」あまり検査慣れしていない私は一瞬「私のどこからそれを入れて内部を見られるの?」と思ってしまった。

「あの、先生、内視鏡って、どんな…」

「あー、肛門から入れて直腸や大腸に入っていきますよ」

平然と医者は早口で言い放った。

まだ経験をしたことがない私は、大事な尻の穴からそんなものを入れるなんて簡単には受け入れることはできないっ!先生ひどい!そんな感情を持ちながらも、やはり悪性だったら嫌だ。シブシブ検査の日取りを決める流れになっていった。

検査当日

当然前日から何も食べていない。こんな事とにかく早く終わって欲しい。私は受付を済ませ案内された通りに内視鏡検査の一角に向かった。そこには2〜3人ほどの先客が待ってた。ゲームをしながら待っている若い人、ちっさいおばちゃん、後から来たやたら話し声がでかいおじさんなど多彩なメンバーが集まってきた。そうかお前たちが日々の悪い行いのためダメな検査結果をもらった奴らなんだな。これから思いっきりお尻の穴から「喝」を入れてもらって反省するんだな!そんなことを考えて同士たちを横目で見て検査の指示を待っていた。

そうしているとドカドカと3人の看護師さんたちが入ってきた。軽いあいさつの後に大きな透明タンク2ℓを次々に目の前に置き始めた。中には下剤が入った腸管洗浄剤なるものが入っているらしい。

「はーい、では洗浄剤を各自飲んでくださーい」看護師はまるで幼稚園児に伝えるような口調で叫んでいる。「まずはしっかり出して腸をきれいにしてから検査へ行ってもらいまーす」その話を聞き終えると、皆シブシブその洗浄液を手にとりチビチビ飲み始めた。このような時に私はつい競い合ってしまう。そんなチビチビ飲んでいたら検査する頃には日が暮れてるわ!私はそう思って洗浄液を両手で持ちワザと「ごくごく」して見せた。

うすいレモン味だ

こんなもん簡単だ!むしろうまいじゃないか!無理矢理そう感じて、半分くらいを一気に飲んで「どや顔」で周りに威厳を示す。すっかりおかしな青年である。

おっ早速きましたよ便意が!看護師がトイレに誘導してくれて用を足す。最終的にブツが出なくなり、透明な色になったところで看護師さんのチェック。それを通過できると晴れて「検査」に進めるというシステムである。ところがこれがなかなかである。なんせ黄色が少しでも混じっているだけでアウトなのである。看護師が追い求める理想は高い。しかも何度も私の排泄した便器を覗いてまじまじと調べるのである。

「そんなに私のブツが気になるのかい?」

便器を覗く看護師さんの背中を見ていたら、不思議とそう言いたくなってしまい慌てて口を噤んだ。

洗浄液を飲む→トイレで出す→看護師に見てもらう→まだダメと言われる。この地獄のスパイラルを何十回も繰り返すのである。私の場合はなんと20回近く繰り返した。ここで看護師さんから教わった豆知識を一つ。このように何十回もトイレットペーパーでお尻を拭く時は決して「拭き」とってはいけないのである。大切なのは、

ポンポンすること

肛門をポンポンするのである。この方法であれば何十回という排泄行為でも肛門の皮膚は耐えられるという。しかしながらいつも通りに拭き続けてしまうと簡単に肛門は傷ついてしまうらしい。肛門は案外繊細な心を持つ生き物である。

4時間くらいかかってやっと看護師さんからの承諾がでた。

検査が受けられる!

私はいつしか検査を受けることだけを切望する人間に変わっていた。20回以上も排泄しその度に看護師さんから採否が下されるという、誠に非現実的な行為を続けていると一種の洗脳状態になっているのだろう。何はともあれ着替える必要があるらしく、内視鏡検査用のパンツを地下の売店で買ってくるよう言われた。

お尻が擦れるとやはり痛いため、どうしても内股気味の歩き方になる。妙に内股の青年がパンツを買っているという情景は、普段であればちょっと気持ち悪いことであるが、こうした病院内では至って普通、誰も見ない。

私は、早速購入した内視鏡専用パンツを看護師さんの指示通り履き、その上から先ほどの検査着を着た。よし!これで完璧。いつでも検査を受けられるぞー。なぜかワクワクしながら待合室で待っていた。どのくらい待っただろうか、なかなか呼ばれない。他の同士たちは次々と検査を終えて帰っていく。

私はシビレを切らせて通り過ぎた看護師さんに声をかけて確認してもらった。するとやっと私の番が回ってきた。声をかけてよかった、でないともっと遅くなっていたかもしれない。ところが待ち時間が長かったせいでトイレに行きたくなった。検査前だし一度トイレに行っておくか。

「すみません、ちょっとトイレだけ行ってきていいですか?」

「はーい、どうぞー」

快く承諾してもらいトイレに向かった。手早く用を足し、検査用パンツをあげようとしたところ、

「あれ?何かおかしい」

え?、ま、まさかの、、、

私は検査用パンツを前後逆に履いていたのだ。正しい履き方をすると、丁度お尻のところに丸い穴がくるようになる。これによってパンツを履きながら内視鏡検査が受けられるという便利なものである。しかし前後逆に履くとどうなるだろうか。そう、

私のかわいい奴がひょこり顔を出すのである。結構大きな丸穴なのでその衝撃は計り知れない。もしあのまま検査室に入って前が丸出しのパンツを履いた状態で医師によろしくお願いする姿は、明らかに次世代の変態である。通報されかねない。

危なかったー

間一髪だった!ふーっ、マジで人生終わるとこだったー!私は検査用パンツを履き直して検査室へ向かった。

この続きはまた明日へ。

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