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「変態的音楽生活のすすめ」

最近はイヤホンが耳に入っている人が多くなった。その耳の中ではいったい何が繰り広げられているのだろうか。真実はその人しか分からない。今日はその耳で「何を」「どう」聴くかについてお話ししたい。

皆様のイヤホンから流れてくるものは何か。やはり流行の音楽だろうか。それとも懐かしの音楽だろうか。または英会話の類いかな。さては自分がカラオケでうまく歌えた時のもの?

このように万人に共感されやすい楽しみ方の裏に、誰も知らない秘密の花園があることをご紹介したい。ご注意いただきたいのは、私の個人的趣味が濃厚に入っているため気が進まない場合はやめておいた方が良い。

私が普段から愛用している方法は、

信じられない曲を聴くこと

具体的にいうと「今、その曲聞く?」と言いたくなるような曲を使う。例えば、

「NINJIN娘」 田原俊彦

この楽曲を現代のひしめく電車内であえて聞くのである。この場所でこの曲を聞いている自分へ「まじかぃ!」と言いたくなるような異次元感覚を得ることが大切である。

そのあとはARのごとく現実を拡張したイメージを頭でふくらませていく。例えば通勤地獄で疲れ切った会社員たちの横でとびっきりの笑顔のトシちゃんが、女の子の足を野菜に例えながら歌い踊りまくってる。もうノリノリで。まるで都会という戦場で傷を負った戦士たちの心の痛みを、トシちゃんなりの方法で一生懸命癒しているように。悲しいかな多少まとはずれでもトシちゃんは笑顔で頑張っている。深刻なカオス。

このようにつまらない日常に突如ハンマーを振り下ろすような想像がよい。凄まじいギャップから生まれてくる感覚は次第に快感に昇華していくからである。

しかし「NINJIN娘」でいつも感じる疑問がある、歌詞の中で「緑色ならピーマンさ」の詞に決定したのは何故だろうと。それまでの流れは女の子の足をすべて「たて長の野菜」に例えて表現していた。「白けりゃダイコン、ダイコン」「黒けりゃゴボー、ゴボー」という流れだ。なのに「緑色ならピーマンさ」とくる。なんか違う!ピーマンはどうしても足っぽくない。それなら

「緑色ならアスパラさ」

というのはどうだろう。または

「緑色なら小松菜さ」

それか

「緑色ならチンゲンサイさ」

これは字数入れ過ぎかと思ったが実際歌ってみるとかなりリズム感が良い。

このような考察や代替えなどで一人遊びを加える場合もある。しかしこうして文字に起こしてみると、自分は大丈夫なのかとちょっと心配になる。

長らくこうした変態的音楽生活を密かに楽しんでいるのだが、以前とんだ失敗をやらかしてしまったことがあった。

大阪で働いていた頃、片道の通勤時間が約2時間30分という時期があった。この長時間では当然イヤホンを使用した楽しみ方をフルで活用することにしていた。そして時々この変態的な楽しみ方をしていたのだ。ある日の夜11時頃、帰りの電車内はいくぶん空いてきており座ることができた。私は待ちきれない衝動の中、手早く音楽機器を準備してイヤホンを耳に入れた。今日のおかずは

「蝋人形の館」 聖飢魔II

これでいこう。

「お前も蝋人形にしてやろうか!!」の叫びから始まり、当時の中学生たちが死ぬほど練習したあのギターフレーズが腹に響く!まさか今この時にこの楽曲を聴いているのは私くらいなものだろう。それがまじで興奮するわ!今日もやばいぞー!でもその快感は決して表情には出さないルールだ、無表情でひとり楽しんでいた。

ところが向かいに座っている若い男女がこちらをチラッとみた。ん?何?と思ったがすぐに目をそらしたので気にしなかった。今度は左前の男性がチラッとこっちを見た。

いったいなんなんだよ、楽しみに全然集中できねぇーっ!

ちょっとむかつきながら手元の音楽プレイヤーを見ると

イヤホンが抜けていた

頭が真っ白になった。そしてことの重大さに気づき始め血の気が引いていった。

ま、周りに全部聞こえていた…

スピーカー付きのプレイヤーだったためイヤホンが抜けると本体から大音量で再生されるのだ…。現在楽曲はギターソロに突入している。つまりデーモン木暮のシャウトをはじめとする聖飢魔IIサウンドが、これでもかっていうくらい電車内中に鳴り響いていたのだっ!ひぃーっっ

慌てて停止ボタンを押したが、それはそれで今度は「蝋人形の館を止めた人」という目で再び周りの人たちに見られた。

何やねん。俺…

激しい羞恥が襲ってきた。この年にして顔が赤くなるとは。いっそ自分を蝋人形にしてもらいたい。デーモン閣下いますぐお願いできますか?

ところが不思議と電車内の目は暖かかった。何かこう「うん、いいんだよ」「まぁそれもありかな」みたいな空気を感じるのだ。そうかこれが

大阪の人情

ってやつなのかもしれない。そう感じられたことで私の尊厳は首の皮一枚で助かった。いやーあぶなかったぁ!

まぁこんな出来事であった。皆様ももし興味があれば勇気を持って「今、その曲聞く?」と言いたくなるような最高のおかずを仕入れて「変態的音楽生活」を楽しんでみてほしい。その際は絶対に

イヤホンが抜けてないか

確認すること。

首の皮でぷらんぷらんの私からの教訓である。

ではまた。


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