AC10

剣と魔法の世界に存在するウルスラ共和国。 そこにはファンタジーミニチュア達が夜な夜な集…

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剣と魔法の世界に存在するウルスラ共和国。 そこにはファンタジーミニチュア達が夜な夜な集う「白龍亭」という名の酒場があるという。 クセモノ揃いの常連客達がこの酒場へ辿り着いた経緯を語る「白龍亭小夜話」をメインに、時に可笑しく、時にほろ苦い冒険の物語を専属吟遊詩人・ハロンが歌う。

最近の記事

ちいさいことはいいことだ

なぁ、今更だけどオイラたち組んで冒険するのは初めてだし、名前も名乗ってなかったよな。 オイラはホビット族のピッペってんだ。 元々はシャインブレード辺境伯領っていうそれは美しい都に住んでたんだけど、ちょっとした理由があってこんな臭くて汚ねぇ国に来るハメになっちゃってさ。 まぁそれはイイんだけど、どーやらここらじゃオイラたちホビット族は古代種って呼ばれててかなり珍しいみたいなんだよ。 同じ小人族でもハーフリングやホートルットなんてのが幅利かせてるらしいんだけど、オイラに言わ

    • 生きのばし

      <一> その朝、開店前に入り口の扉を堂々と開け放つ男がいた。 「おい、見て分からねぇのか?まだ開店前だろうが。そのまま回れ右して出ていく事を勧めるぜ」 この街で俺に凄まれてビビらない奴はそういない。 だが、その男はさも愉快そうに笑った。 「相変わらずだな。安心したよ」 俺は改めて男の顔を凝視する。 「…まさか、ホークか?」 「ご無沙汰過ぎて顔も忘れちまったか?」 ホークは超一流の冒険者だ。 軍事大国マルビクを壊滅寸前まで追い込んだ魔竜ダバルプスの討伐隊に隊長とし

      • 煩悩アーマー

        おい、そこのアンタ。 キョロキョロ…じゃねーよ。 アンタだよ、アンタ。 今メチャクチャこっち見てただろ? いやいや、いーんだって、ゴマかさなくても。 分かるよ。 アレが気になって仕方ないんだろ? そりゃそーだよなぁ。 あんな半分裸みてぇなカッコで女の子が歩いてりゃ、見ない男の方が心配ってもんだぜ。 でもな、アレはれっきとした鎧なんだよ。 その名もビキニアーマーっつってね。 ああ見えて実は意外と歴史のある由緒正しき装備で… …え? 知ってる? なんだ、その蔑むよう

        • おだいじに

          <一> 左手に釘。 右手に金槌。 そして巨大な風車の羽根。 俺は何をしていたんだっけ? そうだ。 この風車を直していたんだ。 ソラリスに頼まれて。 俺は彼女が好きだ。 静けさの漂うこの施設も。 もう随分良くなった気がする。 問題なく動き回れる。 だからこんな雑用も頼まれてる。 俺は… なんでここに来たんだっけ? 怪我? 病気? 思い出せない。 治ってしまったからなのか? でも、そんな事はどうでもいい。 彼女の側に居られるなら。 <二> ソラリスは誰にでも優

        ちいさいことはいいことだ

          白龍亭小夜話④ 瞳の色、その名前 【後編】

          <十二> 昼前から降り出した雨が石畳の路面を濡らし、仄暗い、陰鬱な色へと染めている。 街の中心を流れる大きな河にも雨粒が絶えず波紋を作っていた。 その河のほとりに建つ一件の汚れ、古びた建物。 「黒山羊の饗宴亭」 真っ当な者達は寄り付きもしない、この街で最も質の悪い日陰者が集う酒場。 その入り口が乱暴に開かれ、一人の男が入ってくる。 マーロンだった。 大股で真っ直ぐ、覚束ない足取りでテーブル間をうろつき回る男の元へ近づいていく。 「お前がスパッドだな」 声をかけられた

          白龍亭小夜話④ 瞳の色、その名前 【後編】

          白龍亭小夜話④ 瞳の色、その名前 【前編】

          <一> 松明の作り出す炎が、陰鬱な石造りの壁を照らしている。 静寂が支配する空間。 聞こえてくるのは男の荒い息遣いのみ。 「ハァッ…ハァッ…」 周りには複数の死体。 視線の先には悪魔の彫像が鎮座している。 瞳に埋め込まれた宝玉が、赤く禍々しい光を放っていた。 男はふらつく足取りでその彫像へと近づいて行く。 やつれたその横顔には不気味な笑みが張り付いていた。 <二> 「…またか…一体何の仕業だ、こりゃぁ」 「分からん。だがまっとうなヤツじゃない事は確かだろうな」

          白龍亭小夜話④ 瞳の色、その名前 【前編】

          白龍亭小夜話③ スロー・ラーナー

          <一> よお、美味そうなツマミ食ってるじゃないか。 ちょっと分けてくれよ。 へへ…ありがとな。 そうだ、礼と言っちゃなんだが俺の波瀾万丈物語を聞かせてやろうか? …興味ないって? まあそう言うなよ。 酒のついでにちょっと付き合うくらい良いだろ? 俺は小さな村にある宿屋の次男坊として生まれた。 手前のアホ面晒して走ってるガキが俺だ。 親父は家族に暴力振るったり、今思い返してもロクでもないヤツだったね。 宿屋だっていわゆる連れ込み宿ってやつでさ。 商売女が毎晩オッサンを連れて

          白龍亭小夜話③ スロー・ラーナー

          白龍亭小夜話② 河岸

          <一> 「ここで何をなさっているのですか?」 如何にも買い物帰りという様子の青年が尋ねた。 尋ねられたのは長い髭を蓄えパイプを燻らす老人。肩には鳥。 先程から川の向こうを見つめたまま既に数時間、殆ど見動きもせずに立っていた。 「船をまっておりましてな」 男は和かな表情で青年に答えた。 「船…ですか」 青年は目前の川を見た。 幅は約4メートル。 川底の砂利も見える程に浅い。 十分に歩いて渡ることが出来そうだ。 「うん…どうでしょうね…」 沢山浮かんだ疑問を整理する。 「

          白龍亭小夜話② 河岸

          白龍亭小夜話① 愛のむきだし

          大陸で最も古い都、クルトスタルト王国の首都デゼール。 中でも最古の歴史ある建造物、慈愛神アイステルの大聖堂に僧兵オーウェンは呼び出されていた。 司教は語る…彼の強引な勧誘や布教活動、強欲な献金の取り立てに市民から非難の声があがっており、教会内で問題視されていると。 「お前の軽率な行動が原因となり我が教会の掲げる『慈愛』のイメージが著しく損なわれておるぞ…布教活動は暫くの間自粛して貰う。よいな」 オーウェンは町外れにある寂れた孤児院に足を運んでいた。 ノルマ以上に集めた献金

          白龍亭小夜話① 愛のむきだし