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「最愛カスタマイズ」第3話

シーン1 住宅街(夕)

閑静な住宅地のただなか、一人で家路をたどる、無表情の最愛。
その後を追う不審者。正体は、春日ソフトウェアの社員で、戦闘アプリの開発担当者の間渕。

間渕「最愛ちゃん」

話しかけられ、振り返る最愛。

最愛「間渕さん」

黒っぽい服装の間渕が、やや離れたところに立っている。穏やかな微笑を浮かべている。

間渕「久しぶり」
最愛「どうしたんですか?」
間渕「社長からのお達しでね。君から、戦闘アプリの入ったガジェットを回収してほしいって。急ぎだそうだから、預からせてくれる?」

最愛は素直に従い、スクールバッグの中に手を突っ込む。
ちょうどスマホに通知が来て、振動する。
スマホの画面を覗くと、「パパ」と表示された不在着信が並んでいる。
通信アプリで、父親からの通知「今どこ?」とある。

最愛「ちょっと待って、間渕さん。パパから着信だ」

操作しようとする最愛の手から、間渕がスマホを、すっと取り上げる。
間渕は勝手に画面をスワイプする。

間渕「戦闘アプリがないな。スマホにインストールしてないの?」

小首をかしげる間渕。笑っているつもりだが、目が笑っていない。
違和感を覚え、最愛は身構える。後ずさりし、バッグに手をやる。
間渕がいきなり、最愛のバッグのストラップを引き寄せる。
バッグを渡すまいとする最愛。
至近距離から間渕がにらみおろす。

間渕「バグってさ、力の強いやつは、人の精神を食いつくして、廃人にしてしまうんだよ。僕は、そういうバグを生成する方法を知っている。やってみせようか」
最愛「間渕さん、どうして……」
間渕「ガジェットを渡すんだ」

間渕が最愛の髪をつかんでくる。
もみ合う二人。
駆けつけてきた菊正。
ハッと顔を上げる最愛。

最愛「菊正くん!」

間渕は、忌々しそうに菊正を見やる。バッグのストラップを力ずくで引き寄せながら、スマートウォッチを装着している左腕を大きく振る。
瞬く間に、周囲にバグが大量に生成される。
うすら笑いを浮かべている間渕は、菊正を見据えている。

最愛「逃げて! 廃人にされちゃう!」

悲痛の叫びがむなしく上がる。
バグたちが菊正へ、一斉に襲いかかる。
しかし菊正の動きの方がはるかに俊敏だった。一瞬のうちに、間渕の間合いに踏み込む。

菊正「遅い!」

菊正が低い位置から、体重を乗せた一撃を間渕の懐に見舞う。
間渕は、唾液を口から飛ばし、その場に前のめりに崩れ落ちる。
大きく息を吐く菊正。
髪を乱した最愛がたたずんでいる。目に涙が浮かぶ。
菊正が申し訳なさそう顔で、最愛に近寄る。

菊正「あの手紙、招待状だったんだね。君ん家の住所の一部が、かすれて読めなかったから、追いかけてきた。さっきはごめん。八つ当たりして」

最愛は首を横に振るが、どんどん涙がこぼれてくる。
最愛の頭を撫でてやる、微笑の菊正。

シーン2 春日家の庭(昼)

後日。GW中の晴れた日。
日の当たる春日家の庭で、バーベキューをすることになった。
最愛と、その両親の小太郎と諒子、菊正の四人が一堂に会している。それぞれ寛いだ格好。
グラスで飲み物を飲む最愛。
トングを持って肉を焼く小太郎。

最愛「じゃあ、間渕さんは、パパの会社でスパイをしてたんだ?」
小太郎「と言っても、入社当初からではないよ。うちの会社で、戦闘アプリの企画が持ち上がる頃からだと思う。ライバル会社に引き抜かれたのかもしれない」

諒子が、野菜を盛り付けた大きな皿を運び、テーブルに置く。

諒子「背任行為ね。警察に捕まって良かった。菊正くんのおかげよね」

突然諒子に水を向けられ、照れながら会釈する菊正。座っているように言われており、バーベキューを頬張っている。
にこにこしている諒子。
菊正のことを警戒するように、横目で見つめる小太郎。
最愛が、グラスを空にする。注ぎ足そうとして、クーラーボックスを覗くが、ジュースのペットボトルがもうない。

最愛「ママ、飲み物がなくなった」
諒子「あらっ、買ってきて」

バッグから財布を取り出す諒子。
最愛が、菊正に元気よく問いかける。

最愛「菊正くん、コンビニ行くけど、欲しい物ある?」

菊正は皿などをテーブルに置き、席を立つ。

菊正「俺も行くよ」

諒子から千円札を受け取る最愛。
最愛に続いて玄関へ向かう菊正。
二人がコンビニへ出かける後ろ姿を、諒子がにやにやしながら見送る。

諒子「いい子じゃない。さりげなく荷物持ちに立候補してくれるなんて」

口を尖らせて、むすっとしている小太郎。つんと顔を背ける。
くすくすと笑う諒子。

   ×   ×   ×

商店街を並んで歩く、最愛と菊正。
小さなスーパーほどの規模の電気屋「HIMOSAN」の前を通りかかり、最愛が足を止める。
菊正も足を止め、ショーウィンドウを見つめる。

最愛「ここ、私の行きつけのジャンク屋なの。カスタムパーツの品ぞろえも、値段設定も神なんだ」
菊正「電子機器のカスタムって、そんなに楽しい?」
最愛「うん! ずっとしていられるくらい楽しい。もし菊正くんが欲しいんだったら、通信アプリを積んだガジェットも、自作できるよ。いる?」

他意もなく問いかける最愛。
少しだけ考え込む菊正。やがて首を横に振る。

菊正「いらない。友達から連絡来たって、いい知らせだった試しがないし」
最愛「そっかぁ。私はね、今あるガジェットを、さらにカスタマイズしたいんだ。今度悪いやつに盗まれそうになった時のために、新しい機能を追加したくて」
菊正「どんな機能?」
最愛「当ててみて」
菊正「そうだな……。防犯ブザー。紐を引っ張れば鳴るっていう」
最愛「ぶぶー、ハズレ」
菊正「正解は?」
最愛「自爆装置!」
菊正「……やめてくれる?」

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