奈落ちゃん
奈落の底のヒストリーがまとめられています。
今晩、お嬢様があやした人間がすやすやと寝息を立てて寝ている頃、僕は他の部屋のシーツを取り換えて回っていた。 すると別の部屋からお嬢様と会話をする誰かの声がかすかに聞こえていた 少し聞き耳を立てて聞いて
”優しさ”とは一体、何であるか そんな命題はとうの前から幾度となく議論されてきたであろうと思う 優しさとは人を思いやれる気持ちであったり 時には叱ってあげられることだったり 何かを守りたいという気持ちから来る強さだったりする しかし1番に挙げられるのは、そもそも相手に対して 優しくしてあげたいと思う感情ありきなのではないかと一緒くたにされがちだが個人と個人、個人と民衆
あの少年に出会った時 私と同じ何かを感じた それはきっと穴だ ぽっかりと空いたそれは 何にも変え難い虚しさの空洞 体の真ん中に綻んだそれを抱えてる少年は 私のトゲトゲしたこれとよく似ていた 何かをあてがって埋めようにも一向に満足というものを 知らない 知りたくても、わからないのだ そのものさえもなんだったのかはっきりとわからない 私のトゲはその少年の穴の縁に吸い付き形がみるみる窪みに埋まっていく きみとわたしはきっと 同じ穴の狢 周りの人間の優しさを受け入れられない
コンコンコン 「お嬢様、アフタヌーンティーをお持ち致しました。」 ここは奈落の底の御屋敷 あなたの心の奥地に潜む深い谷の中 秘密の通路を通り特別なコウモリとバラをあしらった重い扉を開けると入れる特別な部屋 ここが僕の居場所 「ラグナ、いつもありがとう。」 そう言って彼女の雪のように白い指がカップに伸びる あれからというもの僕はここの執事として存在を与えられた 刹那の願いをすくい上げてくれた彼女に尽くすとそう誓ったあの日からこの身は既に深淵の物だ そして毎日お嬢様
帰り道が分からなくなって しばらく途方もない道のりを歩いていた そうすると後ろから 肩をトントンとされた気がした 左を振り返ってみると誰もいない 「こっちだよ」 右から声がした ハッとして右を見ると、声がしたはずの場所には 誰もいない 「こーっち」 声の主にグイッと頭を両手で掴まれ前に戻された その子は赤と黒を基調とした特徴的な制服を見に纏っていて、肌が異様に白く、深い深い紅の瞳をしていた すると彼女はこう言った 「君、可愛い顔してるね。食べても、いい?」